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ぷらとにっく・ぎゃらくしぃ  作者: 松本まつすけ
Episode.4 Paradox answer

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ナモミハウス

※番外編

 あたしは今、玄関先に立っていた。


 もし、自分のいる場所がコロニーの中だと知らなければ、あるいはそこまでの違和感はなかったのかもしれない。


 辺りは広いスペースができており、上手いこと空模様も投影されていて、少なくともドーム状の室内に一軒家が建っているなどとは一目では分からない。


 出口は家の周囲をぐるりと囲っている柵の切れ目にあるアーチ状の門。ここを潜ると、もう見慣れたいつもの『ノア』の居住区の廊下に出る。


 本当にそのまんま、あたしの新しい家が居住区の中にドドンと用意されてしまっているというわけだ。


 何の気なしに、玄関のドアノブを握る。


 まるでそれは見た目だけを真似しているかのようにガチャリとは音を立てたものの、おそろしく軽く、手応えの少ない感触で、徐にドアが開いた。


 中は驚くべき事に新築の匂いがしてる。なんという再現度。一瞬にしてまたタイムスリップしてしまったかのような錯覚に陥る。


 普段あたしが過ごしていた部屋も大概ではあったけれども、目の前に広がっているこの光景はまさしくあたしの記憶の中のソレを取り出したみたいに、忠実だった。


 この家の間取りは、思い出せる限りのかつての自分の家を再現させてもらっている。勿論ところどころ家具や家電の都合で異なっているところもあるのだけれども。


「おかえりなさいませ、ナモミ様」


 ふと、玄関にプニーが出迎えてくれる。厳密にはこのプニーはプニーじゃなくて、いやまあプニーではあるのだけど、プニーのクローンであるプニーα2だ。主にあたしの身の回りの世話をしてくれる家政婦のような役割でここにいる。


「ただいま、α2」


 自分の家にプニーが立っているというこの不思議な感覚はなんだろう。


 家の内装そのものは七十億年前のものをそのまま再現しているが、それに比べると現代のプニーの恰好はこう表現しては悪いのだけれども、まるで宇宙人のようだ。


 特にプニーは身長も低いから尚のこと。クローンプニーを集めて並べたらもう本当に宇宙人そのものなのでは。暗がりで見かけたら卒倒しそうだ。


 今度またちょっと頼み込んで、少なくともこの家にいる間だけでもオールドファッションで過ごしてもらえるよう相談してみようか。このα2にもメイド服でも着てもらったりして。そうなったらますます家政婦感が出てくる。


「体調の方におかわりはないでしょうか」


「うん、今のところは大丈夫みたい。ありがとうね」


 いよいよもって妊婦としての自覚を持たなければ。まあ、旦那の方はまだこっちの方には顔を出してはいないのだけれども。


 一応、この家を建てた主な目的は育児が主要なところに置いてある。


 これから子供を産んで育てていくわけだから、あんな一人用の個室では手狭が過ぎる。将来的には大所帯になることも視野に入れているわけで、無駄に広いのもちゃんとした理由がある。


 とはいったものの、ゼクにはこっそりと黙って造らせたものだし、そもそも第一目的が同棲するという前提ではなかったものだから、向こうは向こうとしてそういうものだという認識にはなっていない可能性はある。


 いっそのこと、ダイレクトに打ち明けてしまうべきだろうか。


 ここはあたしとあなたの愛の巣よ、ダーリン。なぁんて。


 そんなキャラでもないし、そもそも他の二人のこともあるから、あまりベタベタしすぎはよくないなぁ。この独占欲はそこはかとなくしまっておこう。


 育児施設という認識でもいいので、ゼクにも育児を頑張ってもらいたいところだ。


 大体、今頃ゼクも何をしているのやら。


 つい先日、この『ノア』に帰ってきて早々、何やらドタバタしてしまっていたし、ただならない厄介なことを持ち帰ってしまったような、そんな嫌な予感が心の内を右往左往している。


 あの、ズーカイさんって言ったっけ。あの人も、よく分からない人だよね。


 話しかけても特に喋ってくれる様子もないし、無粋な感じ。かと思えば、ゼク相手には何かペラペラ喋りだすし。要らないことまで喋くり倒すものだから、プニーからはあまり好印象ではない様子。


 プニーもここにいるプニーのクローンも、みんな揃ってプニプニと不機嫌だった。


 プニーが怒りの感情を露わにするのもなかなか珍しい。


 何せあの人の目的はゼクを連れて帰って傭兵にしちゃう、そんな計画らしいから。


 そりゃまあ、ゼクも昔はとんでもないことをしてきた人造人間だったらしいし、というか、ズーカイさんの仲間だったって聞くし、連れて帰る理屈も理解できないこともない。


 今のゼクの実力でだって、星の一つや二つ、軽々と粉々にできるっぽい感じだったから、そんな戦力を、傭兵が欲しがらないわけがない。


 じゃあ、連れて帰らせるか、ってそんなことあってたまるものか。プニーたちがプニプニ怒っていたように、あたしだって当然そんなのイヤに決まってる。


 なんで結婚して早々旦那を連れて行かれなきゃならないのよ。単身赴任とかじゃないんだからさ。しかもそれが戦場だっていうんだからとんでもない。


 で、なんだかその話題で荒れに荒れてしまったせいで、ズーカイさん、完全に危険因子として判断されて隔離されてしまった。この平和な『ノア』であんな光景も早々は見られまい。


 まあ、そうなる前から既に、超絶危険人物として物凄く厳重に監視されていた状態ではあったのだけれども。四方八方から銃器を突きつけられながら同行する人なんて見たことがない。よくゼクやあたしたちと並んで歩けたよね、ってレベル。


 今頃は牢屋の中で反省させているとか。というか『ノア』にそんな施設があったことに驚く。


 さすがに気の毒には思ったけれども、ゼクを連れて行かれるのだと思うと、そこでもう少し頭を冷やしてもらって、考えを改めてもらいたいところだ。


「ナモミ様、お茶が入りましたよ」


「あー、うん、もらうー」


 まあ厄介なことばかり考えてたら変に気疲れしちゃうし、ここは自分の家だ。ゆったりとくつろぐに限る。


 少し広いリビングで、急須型のポットからお茶を淹れるプニーの姿を見て和む。ちゃんと湯飲みなんかも用意してある。中身は未来的な技術の詰まってるアレだけど。


 なんだか物凄く心が落ち着く感じがする。ああ、これがマイホームって奴か。

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