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ぷらとにっく・ぎゃらくしぃ  作者: 松本まつすけ
Episode.4 Paradox answer

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分岐点 (2)

 それは近い未来に起こりうる現実ではない。過去に起こった現実であり、その延長線上の現代に今の俺たちがいる。


「ゼクラさん。あなたの今、立っている場所。その未来は、あなたにとっての理想と言えますか? ただの一時の安息に過ぎない」


 俺は未来を視ているつもりだった。コイツは目の前の俺を視ていると思っていた。ところがどういうことだろう。俺は目の前しか視ていなくて、より先の未来を視ているのはコイツの方だったというのか。


「……エメラ。真実の話を聞かせてくれ。マシーナリーは、自身の種族以外の根絶やしを計画しているのか?」


 どうして、俺はこんな質問をしてしまったのだろう。


 こんな答えなんて「そんなことがあるはずがない」以外にあるのか?


 そうでなかったら、俺はどうしたらいい?


「……一部の派閥によって確かに計画されているッス。人類以外に手を掛けられた実例も既に。でもだからといって、ソレは確定された未来なんかじゃないッス」


「その言葉はあなたに確約できるものではないですよね」


 現に、人類は絶滅しかけている。いや、一度絶滅したんだ。


 ただ蘇生されただけ。たまたま蘇生できただけ。


 そして、今もその根絶やしの計画は進行しようとしている。


 いずれの未来、人類が繁栄したとして、また同じ事が繰り返されるだけなのでは。


「どうしますか、ゼクラさん」


 ズーカイが距離を詰める。


 キャナと、エメラの二人が睨み付ける。


 俺の答えは一体なんだ。


「マシーナリーによって保護される安息の場所で、自分さえもいなくなってから途方もない悠久の先、起こりうる未来に任せるか。それとも僕たちと共に閉ざされようとしている未来を切り開いていくか」


 マシーナリーによる保護。それが本当の意味での安息と呼べるものなのか。そこに疑問を抱くことはとどのつまり、エメラたちの信頼を裏切ることと同義。


 だが、絶滅危惧種保護観察員などという肩書きは絶対の安全を保証するものではない。いずれ友好関係が決裂してしまう可能性を否定することはできない。


「ゼックン……、やめてよ……あかんよ……、うち……まだ……」


 キャナが俺の腕に力強くしがみつく。


「……何故、今更俺なんだ。もう、あれから二十億年だぞ。そんな時を経て、取り残された俺の力を欲するほどに戦力が乏しいというのか。今のお前らには過去の俺を超えることができないなんて言うつもりじゃないだろうな」


「ゼクラさん。あなただからですよ。惑星の破壊者(スター・ブレイカー)。あなたは嫌がっていましたが、この名は今にも轟く歴史の重要な鍵なんです」


 またそのソレか。


 二十億年前、マシーナリーの奴隷だった俺たちは都合のいいように使われて、都合のいいように棄てられた。その最期の爪痕。


 散々利用されてきたシングルナンバー、コードZが裏切られた、あの時。


 人類とマシーナリーにとっての関係に大きな波紋が起こった。


 それは二十億年経った今でも消えることなく残っているらしい。


 コードZの末路。


 俺にとっては死の記録だが、これもまた歴史のターニングポイントだったようだ。


 マシーナリーの兵器、惑星の破壊者(スター・ブレイカー)を巡る諍いについては俺も深くは探りたくはないのだが、ズーカイの言う通り、マシーナリーとの対立を象徴するには相応しい存在であることは間違いない。


 惑星『フォークロック』では、アイツらはこの名を利用して獣人族ブルートゥの兵力を得ようとしていた。よほど都合がよかったのだろう。その影響力の高さをあの場にいた俺も実感した。


「俺の名なら好きに使えばいい。Zeus(ゼウス)に代わる新しい兵器も開発すればいい。俺たちコードZには元々名前なんてないも同然なのだから。これは謙遜でも過小評価でも何でもない。俺如きの力を欲するほど脆弱な組織ならば無謀な計画でしかない」


「それは僕たちが信用に足りる組織であれば問題ないという意味ですか?」


「俺にとって、俺たちにとっての平穏な未来は、お前の言葉では崩されないということだ」


「マシーナリーによって人類が滅ぼされる未来が訪れないその可能性と、僕たちと行動を共にした未来が決して光明とは限らない可能性。そのどちらの可能性がより高いか。それは予測するのは困難でしょうね」


 ズーカイが一つ、ため息をつく。


 言葉だけならなんとでも言える。確定した未来、確約された未来を示唆することはできない。


「ボクだってマシーナリーッスけど、全てが全てソレを望んでいるわけじゃないッス。ボク自身、全てを確約することはできなくとも、その約束はできるッス。ボクは未来の先まで人類を守り、共に生きていくつもりッスよ!」


 エメラがこちらへと向き直り、そして力いっぱいに宣言する。


「僕を信じてください、ゼクラさん」


「ボクを信じてください、ゼクラさん」


 二人の声が重なるように聞こえた。


 これは簡単な選択などではけしてない。


 俺のこの選択が未来、何年か先、何十年も先、何百年、何千年、何億年先にまでを変えてしまう、そんな可能性すらある。


 大げさかもしれない。俺なんかにそんな影響力があるわけないなんて、内心ではそう思っているかもしれない。だが、シングルナンバーの名は二十億年経った今でも消えてはいない。コードZの末路は歴史にも刻まれてしまっている。


 この『ノア』で短い余生を過ごすか、コードZと共に未来を生きていくか。


「未来なんか……どうでもええよぉ……」


 キャナの姿が酷く小さく見えていた。


 さっきまで怒りをあらわにしていたその顔は涙に崩れ、俺の足元にしがみつくように小さくなっていた。嗚咽とともに震えるその体はあまりにも弱々しく、消え入りそうなその声は悲痛なまでに何かを訴えていた。


 俺は一体、何をしたいのだろう。


 俺はどうするべきなのだろう。


 人類の未来のため? 俺は本当にそんなことを考えているのか?


 過去との因縁を断ち切るため? まだ俺は過去に囚われたままなのか?


 宇宙の平和のため? そんな大それたことを俺に担えるのか?


 何故、俺なんだ。どうして俺がそんな選択を迫られているのか。


 俺にどんな責任があるっていうんだ。


 だが、俺は今、ここで、たったひとつの答えを出さなければならない。


 俺にとってではない、俺に限ったものでもない、人類の未来のために正しい答えを出すんだ。

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