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ぷらとにっく・ぎゃらくしぃ  作者: 松本まつすけ
Episode.1 Billions years later
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私と性行為してくれませんか?

「こんな奴と子作りしろっての?」


 まだぼんやりと頭がはっきりしていない、耳の奥からも鈍い重音が響くような不快感の中、辛うじて聞き取ることができた最初の言葉はソレだった。


 あまり歓迎されているようには聞こえない。目もまだ上手く開かないというのに、ずいぶんと一方的に嫌味じみた言葉が届いたもんだ。


 この身体、この腕がもう少し動かすことができたなら間違いなく、渾身の力を込めて、そこへ目掛け振り上げたことだろう。


「な……、んだ……」


 長い年月凍り付いた喉が時を越えてようやく自ら言葉を発する。


「無理をなさらないでください。解凍が終えたばかりなのですから、安静に」


 先ほどの強気な口調とは打って変わって、優しく、そして静かな、むしろ感情さえ伴っていないように思えるほどの刺激のない言葉が来る。


 起き上がろうとしていた上半身は、仕方なしにベッドへ再び落ちる。


 脳が認識し始める。


 視界に映るのは、二人の女の子。年齢はそこまでは幼くはないだろう。


 自分と同じくらいのように見える。


 どういう状況なのだろう。


 ゆっくり、ゆっくりとカチカチになっていた思考が溶け出していく。


 考えるという機能が正常に働いてくる。


 白い天井。


 女の子が二人。


 無機質な部屋。


 不満そうな女の子。それと隣で人形のように無愛想な女の子。


 ほとんど何もない、真っ白な部屋。


「どうしてもやらなきゃダメなの?」


「決定事項です。早期に性行為することが好ましいです。しかし今は安静にし、体調が万全になるまで回復を待つことを推奨します」


「いや、万全の状態でもお断りしたいんだけど!」


 まだ耳の奥がキンキンするような浮遊感に酔いそうだというのに、こんな傍らでキンキンとした声を荒げないで欲しい。


 おかげで何を言っているのか分かり辛い。


 子作りと聞こえた気がする。


 性行為だの、やらなきゃだの、女の子としてはあまり慎ましくない発言がステレオで攻め立ててくる。


「状況の説明を求めてもいいかな? できれば、その手短に」


「はい、申し訳ございません。まずはその前にお互い自己紹介から致しましょう」


 大人しそうな方の女の子が一歩引く。


 そして隣の粗暴そうな女の子へ譲るように手をさっと添える。


 こちらから見て、そちらの方が一番手前にいたからか、機械的に順位をつけたのだろうか。譲られた方は急に振られてドキっとした表情を見せる。


「え? あたしから? ええと、ああ、あたしは、ナモミよ」


 そんな釈然としないしかめ面で言われても、返答に困る。


 よろしくしたくないオーラが突き刺さってくるようだ。


わたくしは認証コード・エンドナンバー、区分け名称はプニカ。現在重複するものはおりませんので呼称としてはプニカで構いません」


 構いません、と言われたが、今何を紹介されたのかまた理解が遅れてきた。何か間の解説を抜かれたような気がする。


 まだ頭が凍っているらしい。とにかくプニカでいいのか。


 不機嫌そうな方がナモミで、無愛想な方がプニカ。


 それだけを記憶しておこう。


「それで、あんたの名前は?」


 ツンと言われる。


 何かした記憶はないのだが、今ある記憶で分かることは、このナモミという女の子はどうにも俺に対して何か嫌悪のようなものを抱いている様子。


 まったくもって理不尽としか思えないが、ここは自己紹介だ。


「名前というかコードはZ-o-E-a-K-k-R。一般的に発音できないので、ゼクラ。そう呼んでくれると助かる」


「ズオケケ……? ゼクラ……? よく分からない名前ね」


 厳密には名前ではないのだが。


「なるほどコードZ。シングルナンバーの方でしたか」


 納得したようにプニカが頷く。


 どうやらこちらの方が話が通じやすいように思う。


「それでは、簡単な自己紹介が済みましたので、今の我々の状況をかいつまんで説明いたします」


 ペコリと会釈を添えると、プニカは腕に付けていた端末を操作する。


 すると真っ白だった壁に浮かび上がるようにスクリーンが出現する。


 何処から映写されているのかは不明だが、スクリーンには宇宙空間に浮かぶ楕円形に近いカプセル状のものが映し出されていた。


「これが今、我々のいるコロニーです。名前は『ノア』。現状、確認されている範囲では人類はこのコロニー内部にしか存在しておりません」


「どういうことだ?」


「端的に申し上げますと、人類は絶滅危惧種となりました。そう言っても差し支えないでしょう」


 絶滅危惧種。


 またとんでもない言葉が出てきたものだ。


 その言葉の意味を噛み砕くのにも時間が掛かる。


 一方で隣に立っているナモミは血の気の引いた蒼白顔で肩を震わせていた。


 先ほどから妙に落ち着きがなく苛立っていたのはこの説明を事前に受けていたせいなのかもしれない。


「かつての人類は幾つものコロニーを持ち、観測された範囲では人口およそ三十京人ほどでした。ですが、現在はこのコロニーに生存している人類が全て」


「同じ質問を繰り返してすまないが、どういうことだ?」


「手短に言えば大規模の事故が発生し、点在していたコロニーが壊滅。結果としてこのコロニーだけが残った。そういうわけです。事故の要因は超新星。そう申し上げた方が理解が早いでしょうか」


 超新星。簡単に言えば、大きな星の寿命が尽きるとき、大きな爆発を起こす現象のことだ。


 なるほど、シンプルで分かりやすい回答だ。


 何処かの星が大爆発して、人類の住んでいたコロニーが巻き添えになったと。


「予測された爆発の範囲内からの脱出を試みたものの、人類の技術が一歩及ばず、甚大な被害を負ってしまったのです」


 爆発の大きさは星の大きさに比例する。その威力は計算するのも恐ろしい。


「つまり俺たちは奇跡的にもその爆発の範囲から逃げ延びたコロニーにいたから生き延びたということか」


「いいえ、正確には違います」


 なんともぴしゃりと否定される。いい推察だと思ったのだが。


「このコロニーが偶然にも爆発の範囲外にあったことは確かです」


 至って無表情で語る。


「ゼクラ様とナモミ様はそれとは別に、特殊なスリープ状態で宇宙を漂っておりました。それをこのコロニーで回収し、蘇生いたしました。それでも奇跡的という点は間違いないでしょう」


 この子よく口が回るな。


「この時代はゼクラ様とナモミ様の時代より遥かな未来です」


 そして簡単に言ってくれる。これは随分と寝坊したようだ。

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