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ぷらとにっく・ぎゃらくしぃ  作者: 松本まつすけ
Episode.4 Paradox answer

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人類は絶滅してはならないのですか?

 俺は酷く疲れを訴えていた。


 それは身体でもあり、心も同等に疲弊していたといってもいい。


 そのくらいに、疲労困憊の状態にあり、自身の身体が訴えていた。


 正直なところ、惑星『フォークロック』で厄介なことを一通り片付けて、自分にできることを完遂できたと思っている。


 こうして『ノア』に帰還して、ようやくして安息の時を迎えられるものだと、心の奥底ではそれを信じて疑わなかった。自分でも不思議に思ってしまうくらい。


 あいにくと、実際のところそれは何の保証もない話だ。そうならなかった現実を目の当たりにして、俺は自分が疲れているということを自覚せざるを得なかった。


 どうしてこうも休みたかったと切望していたのか。それはそれほどまでに自分が心身共に疲れていることに他ならない。


 だが、とても残念なことだ。どうやら心安らぐという状況ではないらしい。


 無論、想定していなかったということはない。こうなってしまうのかもしれないと何処か頭の片隅に思っていたのも確かで、同程度にそうなってほしくないと願っていたことも確かだ。


 状況は、今のこの現状は、自分が想定していた以上に、複雑だった。


 どうせのことなら、ナモミくらいのサプライズで留めてほしかったものだ。


 ああ、ナモミのサプライズにはとても驚かされた。


 俺に内緒で俺とナモミの共用スペース、もとより育児用の生活スペースを惑星『フォークロック』に向かう以前から考えていたとは。


 ちょくちょく俺に訪問されることを想定としたある種の別邸のような二次的なハウス。あるいは、同棲することも視野に入れた共同生活スペース。


 ああ、そうだな。ナモミのお腹の中には俺の子供がいる。それはつまり、いずれは育児に追われることになる。それはナモミだけでなく、俺自身もそこに含まれる。


 そんな当然の未来を思い描いて、ナモミはあのような場所を作るよう、プニカに頼み込んでいたということだ。


 見たところ、どうやらナモミの時代の家屋。聞くところ、七十億年前の建築物を再現されたものだという。利便性を問うところではないが物珍しさを感じた。


 これまでもナモミの部屋に伺ったことは何度もある。なるほど、七十億年前の人類はこのような住居を構えていたのだなと感心したことも。


 このサプライズを聞かされて、俺は不覚にも涙を流し掛けるほどの衝撃を受けてしまった。気が緩んでいる証拠だろう。一滴も零さなかったのはまぐれにも近い。


 似たようなことに出くわしたとき、二度目は涙腺が耐えてくれるか怪しい。


 奇しくも俺は、ナモミと結婚をしていた。


 それは偶発的なきっかけによるもので、頭の中でそのようなものであると自覚にまでは至ってなかったのかもしれない。


 まあ、通常、結婚というものは元より本人達の意志があって、色々な準備を進めた末にするようなものだ。


 あらゆる過程を省いて、俺とナモミは夫婦という関係となった。今回のことは、それを強烈に自覚させるには十分すぎるくらいのサプライズだった。


 もちろん、ナモミはそんなこと想定していなかったはずだ。結婚については元々予定の中にもなかったのだから。


 だが、手配された夫婦の家を目の当たりにして、俺に対する妻の想いを目の当たりにして、俺はこれほどまでに胸を貫かれた思いをしたのは初めてのことだ。


 凄まじいサプライズだった。素晴らしいサプライズだった。こんなサプライズであればよかった。このくらいのサプライズで終わってほしかった。


 ふと目を見開くと、視界の端から端に複数のプニカの姿が映る。


 これはなんだろうか。


 食堂という場所、食事を摂る場所、生物にとっては安息とも言える場所でもあり、食欲という三大欲求の一つを満たせる希少な場所で、別ベクトルなサプライズだ。


 目の前に見えるのはプニカ、プニカ、プニカ。


 十人という数には見えない。二十人とも思えない。三十人はいるだろうか。とりあえず百人はいないと思う。少なくとも視界の限りでは。


 プニカのクローンたちの姿がそこにはあった。


 それは衝撃的でもあり、異様とも呼べる、そんな光景だった。


 話は聞いた。理由は知った。分かっている、理解しているつもりだ。


 絶滅危惧種が絶滅してしまう。それを暫定的に、数値上で回避するため、クローンによって水増しをするという算段。


 その計画によって、プニカのクローンは生み出されるに至った。


 俺も密かにそのような提案もプニカに対してしたことはある。人間をモノか何かのように、道具か何かのように、量産するという発想。思想としては非人道的だ。


 俺自身、厳密にはクローンではないが、兵器として量産された身で、そのようなこともやむを得ないとも考えていたことも事実ではある。


 今は少し俺も考え方を改めている。むしろ、改めた。


 人類という種として、命の重さをもっとより深く考えるようにするべきだと。かつて兵器だったからこそ。命を奪うことを当然として生きていたからこそ、俺はクローンという手段に頼ることを選択肢から除けた。


 最後の最後、本当にどうしようもなくなったときの最終手段として覚悟をしていたことだ。


 それがまさか、こんなにもあっさりと適用されてしまったことに、俺は胸を貫かれた思いだった。これで二度目だ。涙腺は堪えた。


 プニカを責めることはお門違いで、俺たちがずっと不在の間、プニカと共に『ノア』で護衛はもとより、傍で見守っていたマシーナリーたちもそのような判断に行き着いたのだ。止める権限はなくとも、一切の反対意見がなかったとは到底思えない。


 これでも苦肉の策だったのだろう。苦汁を飲む思いで下した判断なのだろう。


 プニカの無表情からは汲み取りにくいが、むしろ人類の繁栄という任務を抱えていたプニカの立場からすれば、一番の課題、あるいは最も検討していた増員の手段をとることができて、歓喜しているようにも思えたが。


 きっと、苦渋の末なのだと思っておこう。


 さて、俺の知らないサプライズはここまでだ。


 前者はいい。疲れ目には逆にいい刺激になった。


 後者は衝撃的で、今後の心配が脳裏を過ぎる。


 問題としては、住民らの間に流れる空気が妙に重いというところだろうか。


 どう緩和していいものか考えた矢先にやってくれたものだ。ズーカイの奴め。

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