子供を産むのじゃ (2)
「で、お前らとしてはそれでいいのか? 惑星の破壊者が嘘だった。サンデリアナ国の士気は駄々下がり。ブーゲン帝国からも身を引いて、さようなら、だ」
「いいわけねぇだろ、ゼクラ」
「この報告はサンデリアナ国の者としての使命。ですが、我々にはそれとはまた別な目的があるんです」
「お前らのところに行くのは勘弁だ」
先手を打っておく。もう向こうには交渉の材料なんてないはずだ。ナモミも俺のすぐそばにいる。
図らずも、サンデリアナ国はブーゲン帝国との敵対化も避ける方針のようだし、手荒な手段もとりようごない。
「まあ、ゼクラさんならそういうとは思いましたけど」
「それとも、惑星の破壊者の名前だけでもまた貸せばいいか?お前らにも体面ってものがあるだろうしな」
「悔しいところですが、それも検討したいところですね」
「ん? ゼク、それってどういう意味なの?」
きょとんとした顔でナモミが尋ねてくる。
「獣人族は力の種族。これまでサンデリアナ国では恐るべきことに惑星の破壊者の名だけで士気を高めてきた。それが今回破綻した。何せ、本物がこっちにいるんだからな」
「ですが、今回の一件で本物の実力を両国は見せつけられました。ブーゲン帝国に本物の惑星の破壊者がいるという事実はそのまま交渉の材料となるわけですよ」
「事と次第によっては、また同盟国となることも可能だ。俺の名にはその価値がある。それはコイツらがよく分かっているはずだ」
「そっか。これまでゼクがいると思いこんでたから偉そうにできたけど、いないのがバレたからもう威張れないんだ」
さっき、それと同じ話をしなかったか?
「で、もう誰が一番強いのかはみんな分かっちゃってるからそのゼクが何か言えば国を動かせちゃうってこと?」
概ね、その通りではあるが、そのまとめは必要だったのか?
「俺にそこまでの権限はないとは思いたいが、状況はこの通りだからな……」
結婚披露宴会場となっている城の中庭を軽く見渡す。
俺を中心にして、物凄い視線、羨望の眼差しを感じる。中には、涙を流しながら拝んだり、祈ったり、はたまたお供え物のようなものを持ち込んでいる者までいる始末だ。
結婚式であると同時に、神か何かを崇め奉る祭典のようになってしまっている。
「妾としても、このまま何事もなかったかのようにゼクラがいなくなってしまうのは望まぬところじゃ。名前だけでも力を借りれるのならばそこにすがりたいくらいじゃ」
「これもう、堂々と宣言しちゃっていいんじゃないの? ブーゲン帝国とサンデリアナ国は仲良くしなさーい。でないと星ごと壊しちゃうぞ☆ ってな感じで」
そんなウィンクしながら可愛げに言われても。 内容は全く可愛くないし。
いや、まあ、それに近いことはサンデリアナの大臣に向かって言っていたか。俺もナモミとは大差がないようだ。
「大分手荒いことをしてしまったからな。穏便に、とはもう無理だが、これ以上の厄介事を避けられるのならそうしたいところだ」
「あれだけ暴れまわった人が何か言ってますよ、ジニア隊長」
「へへへ、女一人、取り返すためによくやったもんだぜ。俺たちと相談すりゃあ何もせずとも解決できたかもしんねぇのによぉ」
自己嫌悪で潰れてしまいそうだ。
「あなた、ナモミさんといいましたか。本当にゼクラさんに愛されているのですね。いやはや、あなたをうっかりさらってしまったせいでこちらの計画は無茶苦茶ですよ」
そんなことを言われても、という戸惑いの表情でナモミがこちらをちらちら見てくる。そして、ほのかに頬を染めながら俯いてしまった。なんだよ、その表情は。
「で、お前らの予定としてはどうなんだ?」
強引に話をねじ曲げる。あまりこの話を継続させたくはない。
「なんだったらサンデリアナの命令に背いてでもナモミたちを人質に俺を仲間に引き入れるか?」
「いやぁ、それはもう余計に厄介なことになりそうですし、こちらもなんだかんだ命も惜しいので強行手段は無しですよ。流石にね」
「おっ、今の目、ゾクゾクくるねぇ、さすがはゼクラだな。へっへっへっ」
とびきり愉快そうに笑いやがる。
「お前の席はいつだって空けてある。心変わりしたらいつでも来いよな。とまぁ、今日のとこはこんくらいにしとくか。俺よぉ、酒飲みたいんだが。結婚式だから飲んでもいいよな?」
もう少し真面目を維持する努力をしないのかコイツは。ジニアらしいといえばジニアらしいが。
「全く……この人は」
ザンカも大変そうだな。
「ビリア女王としてはいいのか? こいつらサンデリアナ国の王族親衛隊だぞ」
下手すれば、ビリアの両親を殺した相手かもしれない。そうでなくとも、さっきの今までこのブーゲン帝国を事実上、支配下に置いていた側の連中だ。
「一応我々は結婚式の招待状も持ってますよ。まあ、あの王子の結婚式の予定だったものですがね」
「妾は構わん。今宵はゼクラの結婚式。それにサンデリアナ国の呪縛はゼクラによって解かれたのじゃからな」
随分とあっさりと言ってのける。さっきまで毛を逆立たせて威嚇してなかったか。
そこまで切り替えの早い性格ではないだろうに。
「なんじゃその顔は。妾が無理してるとでもいいたげじゃな」
まだ、俺は何も言っていないのだが。
「確かに妾も踏ん切りのつかないところがあるのも事実。じゃが、戯れで女王の座につくほどうつけではないぞ」
色々な覚悟があったからこそ今この場にいると思えば、それはその通りではあるんだが、対立していた国の連中を前にしてよくそんなことが言える。
「ゼクラももう分かっておろう? 妾たちは力の種族。力の誇示がどれだけ大事であるか。今、妾の傍らにはゼクラという力を携えておる。おぬしの本心がどうであろうとブーゲン帝国はサンデリアナ国より強き国であると誇示せねばならなのじゃ」
「力を持っているからこそ、寛容に受け入れる姿勢を見せる、ということか?」
正直なところ、そんな尻尾をピンと立てて、無理に強張った顔で笑いを取り繕っても、虚栄にしか見えないのだが、それも仕方のないことか。
ビリアはこの帝国の女王。弱い顔を見せてはいけないのだから。
「それにな、この惑星では争い事など日常茶飯なのじゃ。一つのいさかいでいちいち感傷に浸っていてはそれこそ持たぬというものじゃ」




