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ぷらとにっく・ぎゃらくしぃ  作者: 松本まつすけ
Episode.4 Paradox answer

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子供を産むのじゃ

 日没前に開催された結婚式も無事に終わり、すっかり夜の帳が降りた城の中庭は今、披露宴パーティでまた賑わいでいる。


 見渡した感じ、犬も猫も混ざって、どちらの国にいるのか分からないくらい。


 この空間だけは、ブーゲン帝国もサンデリアナ国も関係なく、まるで和平条約が結ばれたかのようだった。


 この状況に至った主な要因は、サンデリアナ国を圧倒した存在によるものだ。とどのつまりは、あまり言いたくはないが俺のことだ。


「なるほどのう。さすがはゼクラじゃ」


 披露宴の席でビリア女王がうんうんと頷く。


 事の一部始終、語弊がないように語ったが、あまりの軽い反応に本当に話の筋を理解してもらっているのか不安になる。


 ほんの数刻前、サンデリアナ国を襲撃した旨をどの程度のものと考えているのだろう。楽観視できる状況ではないはずなのだが。


「でもゼク、これからブーゲン帝国はどうなっちゃうの?」


 隣に座る、ウェディングドレスに身を包んだナモミが訊ねる。


「さっきも言ったが、今回の件は俺が独断で起こしたこと。勝手に惑星の破壊者(スター・ブレイカー)の名を使って威張り散らしている輩に腹を立てて報復に来た。そういうシナリオだ」


 念のために状況を確認し終えた後、無事に地上で避難していた兵士を何人かとっ捕まえて、そんなあらましを伝えておいた。


 無論、かなり怯えていたが、俺の正体を理解したからか、素直に話を聞いてくれた。


 だからそういうことになっているはずだが、向こうの王子も大臣もどのくらいまで話を汲み取れているのか不安を覚えないでもない。


「サンデリアナ国は十分な兵力を備えているが、その根幹には自軍が圧倒的な力を所持しているという認識があった。ソレを崩してやれば士気も低迷するだろう。そうなればブーゲン帝国への圧力も緩和される。俺はそう考えている」


「それって根本的な解決になってるの?」


「なっていないな」


「え?」


 希望的観測というやつだろう。実際問題、サンデリアナ国の兵力はブーゲン帝国を上回っているという事実は変わらないし、今も尚、状況としてはブーゲン帝国が制圧されてしまっていることもひっくり返らない。


 俺はただ、外野の立場から暴れたに過ぎない。


「サンデリアナ国にちょっと打撃を加えてやっただけだ。情勢が少々揺れ動いている程度で、このまま何もしなければまたバランスが整えられて元に戻る」


「え? え? じゃ、じゃあ、ブーゲン帝国は……?」


「そこから先は俺の関与する話じゃない。だが、まあ俺の名くらいなら関与するのかもしれないな」


「にゃふふ……サンデリアナ国の要である惑星の破壊者(スター・ブレイカー)は存在しなかった。それどころか妾のブーゲン帝国側にその存在が確認されたのじゃ。そして今、この国の救世主として広まりつつある。抑制力としては十分すぎるくらいじゃな」


「ええっと……つまり、どういうこと?」


「サンデリアナ国との関係をひっくり返すチャンスを、ゼクラがくれたということじゃ。妾の政策によってブーゲン帝国の今後が左右されるわけじゃな」


 俺の古い名が一人歩きするのは何とも気恥ずかしいものだが、長いことサンデリアナ国の上層部では好き勝手に使われていたようだし、今更どのように扱われようとも実情は何も変わりない。


 誤算、というほどでもないのかもしれないが、俺の考えていたシナリオでは、実はサンデリアナ国側についていると思われた惑星の破壊者が野放しになっているという事実が発覚してサンデリアナ国の士気が低下するところまでだ。


 それがどういうわけか、惑星の破壊者(スター・ブレイカー)はブーゲン帝国の救世主、はたまた神とまで崇められる存在にまで昇華してしまっている。これはあまりにも目立ちすぎる。


 感情に振り回されて、またもやってしまったと言わざるを得ない。俺はなんと軽率な男なのだろう。この異様な騒ぎの鎮静化を図るにはどうしたものやら。


「へへへ、随分とまあ盛り上がってるじゃねぇかぁ」


 中庭の片隅がざわめく。お祭り騒ぎだったこの会場に、不安が伝播するかのようにざわめきが飲み込み始める。


「早かったな、ジニア」


「ああ、破損個所が少なくて助かったぜ」


 ブーゲン帝国の城の中庭に現れたのは、サンデリアナ国の王族親衛隊、その隊長を務めているジニアと、副隊長のザンカ。あと、その後ろにズーカイもついてきていた。おそらくズーカイがここまで連れてきたのだろう。


 上空から飛行機ごと叩きつけてやったというのに、無傷に見える。手早に修復したのだろう。


「で、これは何の騒ぎだ?」


「なりゆきで結婚式をしている」


 そうとしか答えられなかったのだが、隣にいるナモミと、ビリア、そして浮かんでいるキャナにまで鋭く睨まれてしまった。


 その鋭さときたら、一瞬電撃が走ったかと思ったくらいだ。


 もっとマシな言葉を選べばよかった。


「おぬし、サンデリアナ国の王族親衛隊じゃろ?一体何のようじゃ!?」


 ふしゃーっとビリアが毛を逆立たせて威嚇する。対するジニアも、その隣のザンカも、はたまたその後ろにいるズーカイさえも怯みさえしない。


「ああ、勘違いすんなよ。別にオレは折角の旧友の結婚式をぶっ壊しに来たわけじゃねぇさ。むしろ祝うぜ。おめでとう、ゼクラさんよぅ」


 なんと白々しい男だろう。


「そちらが本物のビリア王女、いえ、もう女王に就任されたようですね。この度はおめでとうございます」


 ザンカ、お前も自分の立場を分かっててものを言っているんだろうな。


「手短に用件をお伝えします。王子の命令により、サンデリアナ国はブーゲン帝国から身を引きます」


「何?」


 随分とあっさり、とんでもない発言をしてきたな。怪しいくらいだ。


「何、じゃないですよゼクラさん。あなたのせいですからね。あれからラセナ王子もすっかり怯えちゃって、ガタガタブルブルと塞ぎ込んでしまったんですよ。惑星の破壊者の単語出すだけで悲鳴あげて小便漏らす始末です。ブーゲン帝国にいると聞いたら今言った通りですよ」


 そんなにも効果あったのか、惑星の破壊者。今後気軽に名乗るのは止めた方がいいな。そもそも愛着はないのだが。


「へへへ、こりゃもう王族親衛隊も解体かもな」


 愉快そうに笑う。むしろそうなってほしいとすら思えるくらい。


「それはないと思いますのでご安心ください、ジニアさん」


 むしろ、ラセナ王子がそんな状態なら必要以上に護衛の強化を命じられるのでは。


「ま、まあ、なんにせよ、俺も少し調子に乗りすぎたところはあるな。そこは反省しよう」


「でも、これでビリアちゃんの帝国は本格的に救われたということになるの?」


 そういうことに、なるのか?

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