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ぷらとにっく・ぎゃらくしぃ  作者: 松本まつすけ
Episode.3 Remain remember
184/304

惑星の破壊者 (10)

 ※ ※ ※



 余計な厄介ごとを抱え込んでしまった自己嫌悪に苛まれながらも、俺はブーゲン帝国の領土の上空を飛んで帰還していた。ブーゲン帝国の城に戻るのが非常に億劫な気分だった。


 ふと、城の中庭を見下ろしてみると、そこには結婚式場が出来上がっていた。そういえばずっと準備を進めていたんだったな。別に俺も中止にしろとも、中止になるとも言わなかったし。


 しかし、この城からでもおそらくは先ほどまでの様子は見てとれたことだろう。今日のところは王子が来られないということくらいは。


 感情に身を任せ、俺も随分と暴れてしまった。両国の関係はまた少し難しいものになってしまったかもしれない。もうこの国で歓迎されることはないだろう。


 見に纏っていたZeus(ゼウス)を解除し、見回す。


 サンデリアナ国の犬兵士共も、ブーゲン帝国の猫の従者たちも、揃いも揃って俺に注目している。


 まさかこの場で「俺、なんかやらかしちゃいました?」などとしらを切るのも無理がある。 罵声を浴びたって仕方がない。


 早いところ、キャナを連れて、向こうと合流次第、さっさとこの惑星も去ろう。まだ、事態の終始までは把握されていないはずだ。


「ぬしさまあぁぁぁ」


 突然の黄色い声。犬猫の群衆の向こう側から掻き分けるのも面倒だと言わんばかりに飛び越えてきたのは、なんとビリア姫だった。しかも既に発情全開状態だ。


 なんとか受け止め、受け流す。空中で三回転くらいして綺麗に着地された。


「やってくれたのじゃな!」


 やはり、気絶させて放置してその間にあれやこれややってしまったことだろうか。


「あ、ああ、すまない。あまり事を荒立てるつもりはなかったのだが」


「しゅごいのにゃあぁぁ……百機もの戦闘機を生身で全て破壊するにゃんてぇぇ」


 めちゃくちゃしがみついてくる。ものすごいスリスリしてくる。


 実際には百機もなかったはずだが。それに戦闘機というか、あれは護衛機。いずれも空中戦向けのものではなかったぞ。


 そう、言い訳を呟こうか迷っていたら、周囲のざわつきがボリュームをあげたかのように歓声になっていた。なんだ、なんでこんなに騒いでいるんだ。


「神様だ」「なんと偉大なるお方」「空から降臨なされた」「サンデリアナが滅びた」「ブーゲン帝国に神の使いが」


 しまった。明瞭に物事が伝わっていないせいで、とんでもなく話が飛躍し始めている。せいぜい遠くで爆発があった程度の認識だとたかをくくっていた。


 あってせいぜい無名のテロリストくらいに思われる覚悟はしていたが、予測を越えてしまっている。ここまで発展するとは思っていなかった。


 ビリア姫を引き金に、俺を英雄、それも過剰に神格化した認識になったのか。

 

 通信機器の類いがないとこうも想像や妄想で補われてしまうとは。


 というか、ビリア姫、メロメロすぎるだろう。力を誇示したのはよかったが、思わぬところにまで影響してしまったものだ。がっしりとしがみついてくる。


「にゃにゃにゃあぁん」


 キャラが崩壊しすぎだ。お前はいずれこの国の王になるんだから、それだと民衆に示しがつかないだろうが。


「し、しっかりしてくれビリア姫、王になるんじゃなかったのか?」


「妾はぬしさまに王位をゆずるのにゃ」


 そんな無責任なことを軽々しく口にするな。


 周囲がざわざわとざわめく。新たな帝王誕生だの、何やらそれもいいだのとまで聞こえてきた気がする。冗談じゃない。


「俺は神でも王でもない! ヒューマンだ! 」


「ヒューマン様ぁ!」「我らの神、ヒューマン様ぁ!」「偉大なる我らの救世主ヒューマン様ぁ!」


 違う、そうじゃない。


 獣人族は力こそが全ての種族だと分かっていたが、まさかここまで効果があるとは思わなかった。ビリア姫の様子を見てもう少し理解を深めるべきだった。


「なにやっとんねん、ゼックン」


 不意に俺の身体が浮き上がる。ビリア姫ごと宙へと浮かんでいく。


「どうやらやりすぎたようだ」


「分かっとるわ、アホぅ。こっからでもよう見えたわ。アホッタレ王子の護衛隊片っ端からぶっ飛ばして、王子を城に追い返してたの。どうやったんか知らんけどようやるわ」


 というか、お前もそんな能力を使っていいのか? ここの連中は空を飛ぶ生物なんて知らないはずだろう。


「おお、今度は女神様だぁ!」「女神様ぁ!」「空から降臨なされたぁ!」「ヒューマン様ぁ!」「なんと美しい女神様ぁ!」「神秘的だ。空を自在に飛んでいるぅ!」


「ふぇ!? 女神様ってうちのこと?」


 そのようだ。犬も猫も関係なく地に膝を折って俺たちを崇拝しているぞ。高みから見るとますます神様にでもなった気分だ。


「えへへ~、そんなん照れるなぁ~」


 そんなこと言ってる場合じゃないんだがな。


「何の騒ぎッスか? これ?」


 ふと庭の出入り口の方からエメラらしき声が聞こえた。随分と早かったじゃないか。てっきり日没くらいまで掛かると思っていたのだが。


「キャナ、向こうだ。出入り口の方に向かってくれ」


「ほぇ? なんで? 出入り口ってあっちの方? あっ、あれはエメちゃんたち? それにあの後ろにおるんは……ナモナモちゃう!?」


 キャナがふわふわと中庭の出入口へ。そのおまけのように俺とビリア姫もふわふわと 追いかけていく。


「ゼクラさんにキャナさん、それにビリア姫も。一体全体この城に何があったんスか? なんか妙な騒ぎになってるみたいッスけど」


「ここにくるまで世界の終わりの如く絶望に包まれた感じだったのでありますが」


「城の者はみな、何やらおおはしゃぎでござるな。まるであべこべでござる」


 城下町からだとそういう反応になるのか。どうやら一連の流れを目撃できたのはこの城にいた者たちだけになるらしい。まだ少しは言い訳の余地がありそうだ。


 いや、それよりも、そんなことよりもだ。


「説明は後にする。ところでナモミは何処だ?」


 俺の位置からだとよく見えない。主にビリア姫が足下に絡みついているせいでふわふわも不安定すぎて、低空飛行状態だ。


「そりゃ!」


 俺の頭上からそんな掛け声が聞こえた。ちょっと苛立ったような声だったような。そう思う前に俺の身体はふわふわから解放され、ビリア姫ごと落ちていく。


「うおっ!」


 エメラたちの方へと頭からダイブしていき、受け身の体勢を取ろうと思うも、ビリア姫がしがみついているせいで上手くバランスが取れなかった。


「きゃっ!」


 何とか地面に這いつくばるように着地。


 何か今、声が聞こえた気がする。顔を見上げると、そこには何処かの国の姫様……いや、ナモミが立っていた。


 何故か綺麗なドレスに身を包み、俺を見下ろしていた。


「ナモミ……」


 何かもっと言える言葉があったはずだ。何処か怪我をしてないかとか、寂しい思いをしてなかったかとか、無事で何よりだったとか。何故か、上手く口に出せない。


「ゼク、ごめんね」


「な、なんで謝る必要があるんだ。俺はお前の無事な顔が見えて……ええと、ああ、安心しているんだ」


 ナモミとは毎日のように顔をあわせているし、離れていた時間など、ほんの一瞬だったはずだ。なのに、どうしてだろう。もう何年も会っていなかったみたいに感じる。


 俺はこんなにもナモミに会いたかったのだろうか。


「なんか色々迷惑かけちゃったしさ」


「お前のせいじゃないし、気にすることはない。その元凶も俺が直接ぶん殴っておいたしな」


 訂正。殴ってはいない。上空から地上に護衛機ごと叩きつけてやっただけだ。


「はは、なんかよく分からないけど、ありがとね、ゼク」


 何処となく気恥ずかしい感情が込み上げてくる。ずっと、ナモミのことばかり考えていたせいだろうか。やっと会えて、何かが胸のうちから溢れてくるようだった。


「ふにゃっ!? にゃも、ナモミ!?」


 かなり遅れてビリア姫が立ち上がる。妙に慌てた様子だ。


「無事じゃったのじゃな。サンデリアナにさらわれたときには妾は心配で心配で」


 何か唐突に理性を取り戻し、冷静になった感じがする一方、何処となく ナモミに対しての態度が何かよそよそしい気がする。


「ええと、これはその、スキンシップという奴じゃな」


 先程までの恥態をなかったかのように振る舞う。まるで悪いことをしてしまったから、それを誤魔化すかのように。


 王女だというのに妙に弱腰じゃないか? まるでこれではナモミには敵わないと本能で思い知らされているかのよう。獣人族は力の差を知ったとき、異性なら発情するが、同性なら服従に近い感情を抱く、んだったか? ほんの一部の例で、全てが当てはまる話ではなかったか。


 まさかナモミに対してそんな感情はないとは思うが。


「ふぅ……改めて言うが、ナモミの無事な姿を見れて妾もホッとしたぞ」


 仕切り直すように一呼吸置いていつも通りのように振る舞う。


「それにしても、よく似合っておるの。それはサンデリアナの王族の正装じゃな」


 通りで王女のような風格があるはずだ。格式の高いドレスだったのか。そうでなくとも、あつらえたかのようにナモミにはよく似合っていた。最初にソレを俺の口で言えなかったのが少し残念だ。


「あっ、やっぱりそんないいものだったんだ。あの王子にもらった服だったから高そうだなとは思ってたんだけど」


「本来ならもっと上に重ね着するはずじゃが」


「ああ、邪魔だったし、動きづらいから脱いじゃったのよね」


「そうじゃの、妾もあれは苦手だったのじゃ」


 ナモミもビリア姫も何のこともなかったかのように談笑する。


「というか、あたしよく分からないんだけど、この城ではこれからパーティでも始めるところだったの?」


 中庭には何やら急ごしらえの会場と、ブーゲン帝国とサンデリアナ国の両国の者が揃って俺たちに向けてひざまずいている。確かになんの集会なのか分からないな。


「ああ、あの王子が結婚式を始めるところだったんだ。ナモミがいなくなったことで代役をたてて強硬されるところだったが、俺が主役を追い払ったせいでそれも中止だな」


「ああ、そっか。ゼク、相変わらず知らないところで何か凄いことやってたのね」


 感心するように言われてしまった。相変わらずなのだろうか。


 下手したら自分があのバカ犬王子と結婚するところだったと思ってか、妙に安堵した顔を浮かべる。


「でも勿体ないよね。ここまで準備してもらっておいて片付けちゃうのも」


 確かにそれは思う。ただでさえ国の情勢が大変な状況、あのラセナ王子のバカバカしいわがままに振り回されて逆らうこともできず泣く泣く手配した会場だ。逆によくぞ間に合わせたと感心するくらい。


「せやったら結婚式すりゃあええやん」


 さっきから俺たちの頭上を飛んでいたキャナがいう。


「な、なにを言ってるんだ。王子はもうしばらくは来ないぞ。誰と誰が結婚するんだ」


「にゃふふ、そんなの決まっておるじゃろう」


 今の一瞬で謎の連携が取れているのか、ハッと察したビリア姫がニヤニヤと笑ってみせる。


「いや、だから俺は姫とは結婚は……」


「妾ではないわ。おぬしたちじゃよ!」


 そういって、俺と、何故かナモミが突き出される。


「わっ!?」


「ほら、ゼックン、こっちこっち」


「そんな格好では不釣り合いであろう?」


 よく分からないまま、キャナにふわふわと飛ばされたり、ビリア姫に引っ張られたりと、謎の連携プレイによって誘導される。いつの間にこんな意思疎通の取れる仲になったんだ。その先には猫の召使いが並んで待機していた。


「予定変更じゃ。今日の主役二人の仕立てを頼むぞ」


「はい、ビリア女王様。おまかせください」


「ん? 今、ビリア女王って?」


「言うておらんかったか? もう即位式は済んでおる。向こうの到着が遅れたからのう」


 確かに聞かされていない。そんな予定はなかったはずだ。状況が状況だけに姿を隠しておけ、と言っておいたビリアが普通に出てきていることをもっと不思議に思うべきだった。誰も王女を止められなかったのか。


 確かに当初の予定では即位式の前にビリア姫を送り届けて、王位を継承させる手筈だったと思うが、それがあっさりと済まされてしまったことに驚きを隠せない。あのラセナ王子のわがままのせいで色々と予定が狂わされていたはずなのに。


 俺のいない間にかなり大事なことが進んでしまっていたらしい。俺が王子を止めてなかったら相当厄介なことになっていたのでは。


 そんなことを考えている余裕はなく、俺は猫の召使いに取り囲まれ、何やらかんやらやられた後、俺のサイズに合わせて調整しなおしたであろう服を着させられていた。この国の正装だろうか。真っ白に統一された小綺麗な服で、何とも慣れない格好だ。


 一仕事終えた猫の召使いたちが統率の取れた動きで俺の周りから散っていく。その先にはナモミが待っていた。


「へぇ、ゼクも結構似合うじゃん」


「そんなこと言ってる場合か。いいのか? ナモミは。こんな急に」


 キャナとビリア姫、じゃなかったビリア女王がこんなにもノリノリで手回ししている理由もよく分からない。


「ふーん、あたしじゃダメ?」


「いや、そんなことはないが、なんかこう、もっと色々やるべき過程があるんじゃ……」


「妾の権限をもって結婚式を開いてやろうと言っておるのじゃ。何が不服かのう?」


 具体的に何が不服という話ではないが、ブーゲン帝国の者でもない、全く無関係な俺たちの結婚式なんてこの場で執り行っていいものなのか疑問はある。第一、獣人族(ブルートゥ)式の結婚の作法なんて勉強してきてない。


 それ以前の問題として女王に就いて早々、公私混同に走るのも正直どうかと思うぞ。


「ほれ、皆のものも祝福しておるわ」


「ヒューマン様ぁ!!」「ああ、なんと素晴らしき日だ。ビリア姫様がご帰還なさり、神の結婚に立ち会えるとは」「もう神々しくていつ死んでも構わない!我らが救世主様のめでたき日よ!」「我らの神、偉大なるヒューマン様ぁ!」


 何処を見回しても誰も疑問視する者はいないらしい。


 どうしてくれよう、この状況。大体は俺のせいなんだが。


「さっさと覚悟決めなさいよね、ゼク」


 そして、どうしてお前もそんなにノリノリになっているのか。結婚というものに憧れのようなものを抱いている眩い目をしている。


 こんな結婚なんて形式にこだわることもないのだが、そんなことをいちいち口に出していては無粋というものか。


 俺は今、望んでいたものを目の当たりにしているんだ。


「ああ、これからもよろしく頼むよ、ナモミ」


「うんっ!」


 こんな幸せを、俺が手にしていいのだろうか。


 そんなことを思いながらも、俺はナモミをそっと優しく抱き寄せる。


 ナモミからお返しにギュッと肩まで腕を回してくる。真正面、間近にナモミの顔を見たとき、俺はこの上なく幸せを感じていた。


 こんなにも愛おしいなんて、こんなにも自分の中でナモミの存在が大きくなっていたなんて、自分でも気付いていなかった。


 人類の繁栄、種族としての繁栄のための本能なんて言葉で片付けていいのだろうか。俺は、もう何も考えることもできず、周囲から盛大に祝福される中、ただ、唇を重ねた。

Episode.3 Remain remember <END>

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