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ぷらとにっく・ぎゃらくしぃ  作者: 松本まつすけ
Episode.3 Remain remember

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惑星の破壊者 (9)

 視界に移るのは、地平線と、無数の飛行車両。あの中のいずれかにはサンデリアナ国のラセナ王子とその大臣がいるのだろう。あと、間違いなくジニアとザンカも護衛としてついているはずだ。


 ふと、()()()()


 前方からの耳障りなほど猛烈なエンジン音が耳を刺激する。そこに混じって聞こえるのは、通信の傍受。


『前方、真正面に謎の影を確認』『レーダーに反応していません』『謎の飛行物体、接近中』『隊長、何やらこちらに接近しているものが――』『なんだあれは? 鳥ではないのか?』『周辺に飛行申請なし。全くの未確認』『生物なのか?』


 ざわざわと、連中が騒いでくれる。俺の姿を捉えられたのだろうか。


『謎の影、消失』『こちら何も反応していない』『計器の故障か?』『何事だ、報告しろ』『飛行物体が忽然と――』『解析ツールも全く無意味!』『新手の兵器か?』


 この土地の気候は穏やかななのだろうか。風が心地よく感じる。


『十三号機、何者かに狙撃されました!?』『こ、こちら三十七号機、左翼が何者かに切断されましたぁ!!』『報告! 報告ぅ! 七号機、何かと衝突。周辺に山脈なし、高度十分、不明、不明!』『四十三号機、炎上、エンジン異常なし、なのに機体が燃え――』『異常事態、異常事態、何者かの攻撃を受けています!』


 一機、また一機と目の前を飛んでいくソレが、はたかれた羽虫のように呆気なく落下していく。


『敵影なし!?』『ステルスか?!』『状況が分かりませんっ!』『どうした、何事だ。一体何が起こっているのか説明しろ!』『見えない大群の襲撃を受けているぅ!? 何も確認できません。レーダーにも何も――』『敵は何体だ! 敵の数を報告しろ!』


 無数の混乱した状況が濃密に伝わってくる。何が起きているのか誰も理解できていないようだ。何処を傍受しても的を射ない返答ばかり交錯している。


『十三号機、墜落! 何故か無傷です!』『四十三号機、いつの間にか隊員が全員機外に脱出し無傷!』『七号機、大破! ですが誰もケガはありません!』『敵の情報を解析しろ!』『三十七号機、こちら無事です。隊員にも異常ありません』


 数は順調に減っていく。清々しい青空がよく見えてくる。


『おい、おいおい、どういうこった。なんで一瞬でこんなにやられちまってるんだ。しかも無傷だと? ザンカ、解析はまだなのか?!』


『今やっていますが……全く反応が見られません。かなり高性能なステルスかと。無傷と報告のあった機体の周辺に謎のエネルギー反応。おそらく防護フィルターのようなものではないかと』


『なんで叩き落とした相手を防護しやがるんだ。敵はバカなのか?』


「……バカで悪かったな」


『その声はゼクラさん!? あなたの仕業ですか!』


『おま、お前、何やってくれやがるんだコンチクチョウが!』


 あの真ん中を飛んでいるデカイ奴が多分ラセナ王子が乗っている奴かな。アレは最後に残しておくとするか。


『ジニア隊長! ザンカ副隊長! 何やっているのだ! 俺様の護衛艦が勝手に次々落ちていっているじゃないか! アイツら運転ヘタクソなのかぁ!? ちゃんと免許証を発行させておけ!』


 やれやれ、さすがにこれだけ数が多いと処理するのも大変だな。


『王子、今、見えない敵の攻撃を受けておるのだ』


『何ぃ? 見えない敵だと? 何人いるんだ? おい、報告だ、報告しろ!』


『敵は……一人です』


『はあぁぁぁっっ!? たった一人に俺様の護衛艦が落とされているだと!? 何者だ? ブーゲン帝国の秘密兵器か何かか? どうやってこんなことを!』


 何かとびきりうるさい奴が騒いでいるな。まあ、アレは後に回しておくとして、そろそろカバーをしていくのも疲れてきた。あまり無理をしていると怪我人を出しかねないな。


 それに、そろそろ姿を現わしておかないと、ただの天変地異として片付けられてしまう。この辺りで顔見せといこうか。


『あ、おい、なんか飛んでるぞ! アレか? アイツがやったのか? なんだよ、アレ、マシーナリーじゃないのか? それともお前らと同じ機械人形オートマタか? 身体中に何か物騒なのがくっついてるぞ!』


『いえ、あれはマシーナリーではありません。ヒューマンという種族です』


『う、う、うそを言うなよ。全身がギンギンしてて鋼鉄みたいなんだぞ? それに生身の生物が空を飛んだりするもんか!』


『へへへ、アレはシングルナンバーの中でもコードZしか使えない代物だ。アイツあの玩具、なくしたはずだが、何処で拾いやがったんだ?』


『どうせまた自分で造ったんでしょ?』


『おい! おい! お前! そこの飛んでるお前! 名前を名乗れ! 俺様を誰だと思っていやがるんだ!』


「俺か? 別に俺には名乗る名前はないのだが……お前が呼んでいる名で答えるなら、惑星の破壊者(スター・ブレイカー)だよ。あの伝説の何とかだ」


 面倒だが、こう名乗っておいた方がまだマシだろう。この状況においては。


『バ、バ、バ、バカなぁ!? お、お、お、お前が惑星の破壊者(スター・ブレイカー)ぁぁ!? ど、ど、ど、どうやって俺様の護衛隊たちを?』


 ああ、焦ってる焦ってる。ビビっててくれるならこちらとしても好都合。むしろそうなってもらわないと困るところなのだが。


「コイツだ、これはZeus(ゼウス)Zeus(ゼウス) ex(エクス) machina(マキナ)と呼んでいる。俺たちコードZの兵器だ」


『ゼウス? 何を言っているのだ、お前何も持っていないじゃないか!』


『へへへ、王子様。Zeus(ゼウス) ex(エクス) machina(マキナ)は形を変える兵器なんだ。持ち主が望めば、銃にも剣にも鈍器にも何にでも変質する。すっげぇ武器さ。あんな風に空だって飛ぶことさえもできる』


『オメガチタニウムなど特殊な可変合金を加工し、形状記憶性能を付与させ、超高圧縮掛けたエネルギーを動力源として使用する代物。コードZの持ちうる技術と、マシ……マキナの技術を掛け合わせた最終兵器です』


『は? オメガチ? カヘンゴー? なんだか分からないけど、お前らもコードZなら同じ奴持ってるんだろ? お前らだって使えるんだろ? ゼウスなんとかっての』


Zeus(ゼウス) ex(エクス) machina(マキナ)は使用者の身体と融合する特殊な金属。神経さえも融和し、それによって手足の如く、あるいはそれ以上に使用者の意のままに動かせます。ですが、我々にあれを扱うことはできません』


『へへへ、オレも昔使ってみようとは思ったんだがダメだったわ。脳みそが十個、手足が百本くらい生えたみたいな気分悪い感じになっちまう。なんつーか、制御しきれねぇのよ。オレはアイツみたいに頭脳組織の遺伝子改造はされてないからな』


『正直アレは特殊すぎて今の我々でも使用したら自我を失いかねません。使ったところで自滅するだけです』


『な、なんだよぉ、それ、よく分かんねぇよぉ、なんだってんだ、アイツは、アイツは一体、何者なんだよぉ!』


 犬がキャンキャンと弱々しく吠えてくる。もう一押しか。


「覚えられなかったのならもう一度言おう。俺は惑星の破壊者(スター・ブレイカー)。数々の武器を使いこなし、あらゆる敵に適用し、惑星そのものを破滅に導いたZeus(ゼウス) ex(エクス) machina(マキナ)唯一の適合者だ」


『ひ、ひぃ、ひぎゃあぁぁぁ……っ』


『王子! 王子ぃ! だ、誰か! 王子が泡を吹いて倒れてしもうたぞい!』


 どうやら向こうは戦意を喪失したようだ。通信からは王子の乗っていると思われる艦内のバタバタとした様子が窺える。


『おい、ゼクラ、お前一体どういうつもりなんだよ。Zeus(ゼウス)まで持ち出しやがって』


『しかもわざわざ艦隊以外の被害をゼロに抑えるなんて正気の沙汰とは思えません』


 二人からうるさい通信が飛び込んでくる。


「サンデリアナ国を説得するのは無理だと結論づけた。そして、今回の襲撃を持って力の差を理解したのならもうこちらには危害がないだろうと踏んだ。力に従う種族だからな。それだけの話だ」


 それに何より、こちらにとって脅威と思えていた技術力についてはザンカが大きく暗躍していただけのことだということも分かった。


 ザンカの足下にも及ばないなら話は別。まさかマシーナリーを凌駕するような文明を相手にするわけにもいかないしな。


『しかしこのままではブーゲン帝国はどうなると思っているのですか。また戦争を引き起こすつもりですか』


「何言ってるんだ。別に俺は最初からブーゲン帝国とは何の関係もない。今回のことは俺個人の意志でやったことだ」


『くぅぅ、さすがはゼクラ。狡い奴だ。なぁにが臆病者だ。なぁにがとっくに死んだだ。そんな力を引っさげて枯れたフリするのは無理があるぜ』


『わざわざこちらに飛び込みに来る必要もなかったでしょう。殲滅する気が一切ないのなら特に』


「久しぶりに出会ったお前らに一発二発おみまいしたくなっただけだ」


『……全く。そんなに心配だったんですか? あの人のことが。すっかり情が沸いてしまったのですね』


『ゼクラ、お前いつも冷静ぶってたくせに、なんであの女のことになったらムキになっちまうようになったんだよ。ま、確かに可愛かったが』


『こんなゼクラさん知りませんでしたよ。よっぽどなんですね』


 お前ら好き勝手言ってくれるな。


 まあ、確かにその通りだ。


 ナモミをこんなくだらない厄介ごとから遠ざけたかった。そのためには少なくともサンデリアナ国の無力化をせざるを得なかった。


 その国の主力がお前らと、あのバカ王子率いる軍だと確信したとき、この計画は決まった。


 もし、相手にコードZなんていなかったら別にZeus(ゼウス)まで持ち出すことはなかったのかもしれない。俺も大概、感情的になりすぎるところがあるようだ。


「さて、最後はお前らの番だ。お前らは機械人形オートマタだから保護しなくても大丈夫だよな。正直もう遠隔操作で衝撃緩和式バリアを張るのも結構面倒くさくてな。他の兵士どももとっくに脱出しているようだし、遠慮はいらないな」


『って、おいおい勘弁してくれよ。いくらこの身体だって痛いもんは痛いんだぜ?』


『も、もうちょっと冷静になってもらえませんか、ゼクラさん』


 ああ、すまない。もう斬ってしまった。エンジンごと真っ二つだ。


 通信が途絶え、護衛隊最後の一機が動力も制御も何もかも失い、そのまま落ちる。こうなってしまえばただの巨大なガラクタ、鉄クズの塊だろう。


 地上で爆ぜて、まるで真逆の花火だ。そこまでキレイではないな。


 ま、予定通りアイツらを成敗できたから良しとしよう。どうせ死にはしない。


 ふと、見上げる。王子の乗っている船だけが単体で残っていた。


 あれを落としても良かったのだが、もう王子も気絶してしまっているし、余計なことはしないでおこう。


「サンデリアナ国の大臣に告ぐ。もう聞いての通りだが、俺はシングルナンバー、コードZの残党だ。先ほどはブーゲン帝国で世話になったな。俺の平穏を害するようなことがあればどのような結果になるか分かったはずだ」


『わ、わ、分かったぞい……あ、あなた様と敵対するわけにはいきませぬ』


「もうしばらくは予定通りブーゲン帝国に滞在するつもりだが、またろくでもない騒ぎを起こそうものなら、今度は城を破壊してやろう。何、分かってると思うが、造作もないさ。何故なら俺は、惑星の破壊者(スター・ブレイカー)だからな」


 自分で言ってて恥ずかしくて死にそうだ。


『は、はひぃぃ! 了解ですぞぉぉ! そ、総員、待避、待避じゃ! 早く城へと帰還するのじゃ! この者を刺激してはならぬ!』


 これだけ脅しておけば大丈夫だろう。とはいえ、本当に滞在する予定はないから一時的な処置にしかならない。こんなことでブーゲン帝国の全てが解決するとは思えないが、これからのことを考えるのはあのビリア姫だ。


 ちょっとお節介すぎることをしてしまったかもしれないが、俺もあの姫には悪いことをしてしまった。果たして何回この手でぶん殴ったことやら。


 国の今後を考えれば俺のしたこともささやかなものになってしまうが、おわびとして受け取ってもらおう。


『ゼクラのアニキ! 聞こえますか? 発見できましたぜ!』


 通信が飛び込んでくる。これはブロロの声だ。


『すみません、ゼクラさん。ボクたちのためにわざわざサンデリアナ国まで来てくれたんスね……』


「エメラか。ナモミは無事か?」


『大丈夫であります。今は疲れて眠りについているところであります』


『現在拙者達は首都を離れた街にきているのでござる。検問が厳しく、国境を超えるのを断念し、一先ず騒動の少ない土地に移ってきたのでござる』


『本当に申し訳ないッス。もっと早くに国境を抜けていたらこんなことには』


「いや、ナモミが無事で何よりだ。お前達には感謝の言葉しかない」


 ということは、サンデリアナの護衛隊やら親衛隊やらはある意味ではやられ損ということになってしまうのだろうか。まあ、いずれにせよブーゲン帝国が厄介なことになっていたのだから全くの無意味ではないが。


「王族親衛隊をこちらで対処しておいた。この混乱に乗じればおそらく検問も容易に抜けられるだろう」


 王子にせよ、大臣にせよ、あれだけの目に遭った状態だ。サンデリアナ国も酷い混乱に陥っている。面倒なジニアやザンカも今頃ガレキの下でうめいているところだろうし、アイツらの厳重な警戒がなければ存外、この国の能力は対したことはない。


 何せジニアたちも含めただの一人として、俺の攻撃に対処できなかったのだから。


 思えば、ビリア王女に掛けられたプロテクトを破れなかった。存在を認識できていなかったのがその証拠だ。やはりザンカは肝心なところが抜けているようだ。先ほどもステルスによって俺の正確な位置も感知できていなかったようだし。


 念のためにブロロたちに追加でプロテクトを強化してもらって正解だったようだ。今回のことでエメラたちも随分と責任を感じているところがあるようだが、有能であったことは確かだ。少なくとも、向こうよりは。


『それではこれから、超特急でブーゲン帝国までナモミさんを送り届けるッス!』


「ああ、よろしく頼んだぞ、みんな」


 通信の向こうから力強い返事が、合掌のようになってこちらに届いた。

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