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ぷらとにっく・ぎゃらくしぃ  作者: 松本まつすけ
Episode.3 Remain remember

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隠密作戦 (2)

 ※ ※ ※



 サンデリアナ国、王都の城の地下、明かりは安価な電灯くらいなもので、じめじめと薄暗く冷めた空気の流れる通路があった。


 自然洞と大差ないくらいに苔むした管理の行き届いていないこの場所は城の者であっても滅多に訪れることはない。


 囚人たちの独房に続く通路と、城内の廊下へと続く通路がある程度で、踏み潰された苔の足跡の数を見ても、ここを通る者がどの程度かなど容易に想像できる。


 様子を見て、好機をうかがったかのように、石の壁から微かに振動が伝わる。かと思えば、次の瞬間、壁はカタカタと崩れ落ちて、大きな穴がぽっかり。


 しかし、瞬きをする間もなく、染みとも見間違うこともできないはずの大穴は消失していた。そこにあるのはもう何年、何十年、何百年と歴史を束ねてきた代わり映えのない石の壁だけ。


「侵入成功ッス」


 多分、その場にいても認識することのできない透明な声が報告する。


「穴も塞いだのであります」


 そこに誰かがいる様子はないが、返答がくる。


「少し音を立てすぎではござらぬか? いくら見張りがいないとはいえ」


 小鳥のさえずりよりも小さかった音に文句を垂れる呆れた声が続く。


「時は一刻も争うんスよ。そこまで丁寧にやってる暇はないッス。早く独房のナモミさんを救出して出ていくッスよ」


 そういって、姿の見えない一行は足音も立てず、足跡も残さず、まるで幽霊のように移動していく。


 仮にこの場に誰かいたとしても、気配を感じることもなかっただろう。穴が空いたことにしても、何かの見間違いだったと思うに違いない。


 細く狭く長く湿っぽい通路を抜けて、独房へと辿り着く。しかし、一行は落胆せざるを得なかった。それはあまりにも人気がなかったから薄々気付いていたことではあったのだが。


「誰もいないじゃないッスか」


 もぬけの殻とはまさにこのことだ。使われたような形跡はあるものの、それも最近ではなさそうだ。少なくとも、昨日今日に誰かがいたような痕跡はなかった。


 古ぼけた石造りの内装に反して、比較的最近改築されたのだろう真新しく不釣り合いな牢獄は囚人を待ち惚けているかのよう。


「最後に使われたのは数週間も前であります。以降でここに収監されたものの記録は残ってないのであります」


 石壁に備え付けられた、妙に不釣り合いなタッチパネルを見る。触れはしない。タッチもせず目で見て解析し、データだけを引き出して確認した。


「じゃあ、上に出るしかないのでござるか」


 想定の範囲内とはいえ、ジェダが渋ったような声を漏らす。


「城内のマップは大丈夫ッスか?」


「ダウンロード完了であります。一先ず分散してそれぞれ客室辺りを目指すのが妥当かと」


「遠距離通信は傍受されステルスを看破される恐れがあるのでござる。ここから先はナモミお嬢様を見つけ出すまでは不用意な連絡は無しでござるよ」


「それじゃ各自、気を引き締めて、任務続行ッス」


 エメラの言葉の後に、空っぽの独房近辺から何者かが消えた。最初から気配など何もなかったが、確かに消えた。



 ※ ※ ※



 地下とは打って変わって、上の廊下は別世界のようだった。


 まず明るい。安っぽい電灯なんかではなく、文化レベルが数段上のきらびやかななライトだ。外が夜であることを忘れさせるほどに眩い。


 そして、広い。二人、三人で両手を広げたらそれだけでとおせんぼできてしまえる通路とは訳が違う。小型の船舶なら余裕ですれ違える程度には猶予があり、ただの車両すらないこの廊下ではがらんどうのように空間が広がっている。


 さらに言えば、大袈裟なくらい賑やかだ。針一本でも落としたら確実に察知される程度には密度が高く、また皆、見るからに訓練された兵隊たちだ。


 エメラたちであっても見つかれば直ぐ様取り囲まれて捕捉されることは間違いない。数も戦力も途方もない。


 よしんば抵抗したところで十数人撃退ほどするのが関の山。その程度では逃げ切れないほどに廊下の警戒体制は万全だ。


 そも、このようなところで交戦すべき状況でもなく、そんな立場でもない。エメラたちは絶滅危惧種を保護する観察員であり、戦闘員でもなければスパイでもない。れっきとした公務員という立場であるということを忘れてはいけない。


 本来であれば、この場に立っている時点でもう重罪だ。たった一人、保護対象をロストしただけならそこまでの重罪にはならないが、不法侵入にまで至っている現状、罪状は数十倍と膨れあがってくる。


 それは責任感か、プライドか。


 いずれにせよ、異常事態へと自ら足を踏み入れていた。


「ビリア王女、城のバルコニーへ移動中。監視せよ」


 ふと、姿を消していたエメラの横をすれ違う兵士の一人が通信する。かなりのアナログ式だ。通信用端末に繋がった物理マイクを通して、複数人に宛てて同時に声を送信している。


『了解。引き続き任務続行されたし』


 スピーカーらしき媒体から声が漏れてくる。こんな程度の通信機では、傍受されることは勿論のこと、簡単に盗聴することも容易だ。


 そう、丁度そこにいたエメラのように。


(ビリア王女……?)


 無視することのできない単語だ。


 現在、エメラたちとは別働隊がビリア王女を保護している状態のはず。あらゆる情報網から情報を統括してみてもこのサンデリアナ国に王女がいるとしたら偽物以外の何者でもないと断定したばかりだ。


 エメラは城のマップを頭の中で確認する。そしてバルコニーの位置をすぐさま検索した。そこまでは遠くない距離だった。


 ひょっとすると、このバルコニーというのもこの城のことではないのかもしれない。ブーゲン帝国側の城のことを指し示している可能性も否定はできない。


 だが、もしたった今、兵士の報告していたビリア王女が本物であった場合、事態はさらに困窮を極めることになる。


 何せ、向こうはソレを監視すると言っているのだから。


 もしブーゲン帝国側だとすれば今頃、別働隊がそこにいるはず。


 別働隊には、同様にエメラたちの保護対象である絶滅危惧種が含まれている。危害を加えられる可能性は皆無ではない。


 冷静に判断するには、情報を得る必要がある。


 バルコニーへ向かおう。そしてそこにビリア王女がいるのかどうかを確認すべきだ。少なくとも、エメラはそう判断した。

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