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ぷらとにっく・ぎゃらくしぃ  作者: 松本まつすけ
Episode.3 Remain remember

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夜更けの晩餐会 (6)

 ビリア姫がサンデリアナの王子と結婚するという噂がそこかしこから囁かれていたのは知っていた。この城でもその準備に追われている。それはてっきり偽物を手配した偽装結婚かと思っていた。


 まさか、その相手がナモミだったとは。いや、意味が分からない。第一、王子はビリア姫との結婚を目的としているはずだ。それで納得するはずがない。


「サンデリアナ国にはこのことは伝わっているのか?」


「言ったはずです。王女が偽物であることを知ったのはついさっきのこと。そこまで突き止めて、統計的な情報からゼクラさんがここにいる可能性が高いと踏み、我々は来たんですよ」


「な、なら今すぐにでも通達しろ。あの姫は偽物だと」


「そうするとナモミさん、処刑されてしまうのですが、よろしいでしょうか?」


「何?」


「だってそうでしょう。サンデリアナ国を欺いて王子との結婚を目論むなんて重罪です。当人がどう考えてるかはともかく、結果としてそうなってしまいますから」


「それは屁理屈だ。間違えてさらって連れていったのはお前らなんだろう? 責任を問われるのはお前らのはずだ」


「確かにそうかもしれません。こちらも処罰は下る可能性は十分あるでしょう。ですが、それでも無条件に解放されるような状況でないことくらい、ゼクラさんにも分かるでしょう?」


 サンデリアナの王子はビリア姫を執拗なまでに欲しがっている。そして手に入れたと思ったらそれが実は真っ赤な偽物だった。それが分かれば、どう転んでも怒り心頭に発するか。


「ご安心を。今のところはナモミさんは王女様です。丁重に扱われているはずです。何か言い訳を考えて解放させる手立てを講ずる必要は出てくるでしょうが」


「早急に考えろ。いずれにせよ、国が動くことになるんだ。いつまでも偽物のままでいられるわけがないだろ」


「少なくとも、それは今の話ではありません。今は、我々の話をしましょうよ。ゼクラさん」


「そうだぞ、なんでオレたちがわざわざここに来たと思ってんだ。お前に会いに来たんだよ、お前に」


 確かにそんなことを言っていた気はするが。


「端的に、直球に申し上げます。ゼクラさん、我々の方に来てくれませんか?」


「ちょ、アンタ、急に何言い出しやがるんだ」


「そっちのアナタには聞いていません。ゼクラさんに訊ねているんです」


 横からしゃしゃり出てきたブロロをぴしゃりと一蹴する。確かにこれは俺の問題だろう。それにしたって直球過ぎるのだが。


「急に言われても、困るんだがな。お前らが死んで蘇って新しい人生を送っているように、俺だってそれまでとは違う人生を歩み始めているところだ」


「ええ、分かっています。ですが、我々にはゼクラさんの力が必要なんです」


「そのためにお前の席も空けて用意してあるんだ。ずっと、ずぅっとな」


 まあコイツがリーダーやっているのもどうかと思うところはあるのだが。


「マシーナリーに飼い殺されることが本望なんですか?」


「そう挑発してくれるな。これでも悩んだ末に出した答えなんだ。お前らには滑稽極まりない話かもしれないがな」


 分かりやすいくらいにこちらの感情を逆なでしてくるものだ。動じないこともないし動揺するところではあるのだが、今更俺に何を望むというのか。


「マシーナリーは守ってくれませんよ。それはよく分かったでしょう? こちらにナモミさんがいることがその証拠です。別に皆さんとお別れしようって話じゃないんです。なんだったらまとめてこちらについてもらってもいい」


 ザンカも必死だな。


「ふ、不手際はあったけど、俺たちは護衛として――」


「黙ってくれませんか。言わなきゃ分かりませんか? 我々はマシーナリーは嫌いなんですよ」


 鋭く口にする。強い感情を弾丸のように放たれたかのようだ。ザンカのソレを俺が理解できないはずがない。そうだ、俺は、俺たちはマシーナリーに作られて、マシーナリーのために動いてきた兵器であり、奴隷だった。


 二十億年眠り続けていた俺とは違い、コイツらはより長い時間を過ごしてきたことだろう。言葉では言い表せないほど凄惨な日々を。


「まあ、落ち着けザンカ。確かに俺はマシーナリーに管理される立場にはなった。自分から望んでな。だが、このブロロも含めてコイツらには信頼を置いている。無論、俺たちをよく思っていない輩もいるが、ソイツらはまた別だ」


「アニキ……」


「それにだ、お前らのところにみんなを置くわけにもいくまい。血生臭い戦場を見せたくはない。それとも丁重に匿ってくれるほど優しい場所はあるのか? このブーゲン帝国を攻め落とした傭兵部隊の連中に俺たちの求めるものを差し出せるのか?」


「そ、それは……」


 あるいは、他者から略奪したものから得られるものはあるかもしれない。しかし、そんな施しを受け取れるものか。


 それに戦いの渦中にある組織に繋がっていれば、戦や諍いなど醜いものを避けては通ることはできまい。


 一つの戦いを終えても、待っているのは次なる戦いだけだ。


 ザンカからの返事が途絶える。どうやら俺に返せる言葉をなくしたようだ。


「俺は一線を退いた。平穏が欲しくなったんだ。臆病者なんだよ。お前らの求めるような男は二十億年も昔、とっくに死んだ」


 もう俺は奪う側にはなりたくない。そう決心したはずだ。


「はっ、死んだって? じゃあ、ここにいるお前はなんなんだよ」


 この酔っ払いは本当どうしようもない奴だな。


「死んだってならオレだって死んでるぜ。だがよ、ここにピンピンしてる。こりゃあ一体どういうことなんだよ、なあ」


 テーブルをバンバンと叩かれる。ジニアの回りの食器が崩れて落ちて、がしゃんがしゃん音を立てて床へと散乱していく。


「……今更俺の力なんて、要らないだろ? 俺は生身の人間だ。機械人形オートマタとは違う。お前らからすればこんなちっぽけな力、なくても変わらないはずだ」


「うるせぇ、いいからオレたちについてこいよ、惑星の破壊者(スター・ブレイカー)さんよ」


 懐かしい呼び名だ。そんな風に呼ばれていた頃もあったな。


「その呼び名は、やめてくれ」


 正直言って、恥ずかしいから。


 体面とかそういうのじゃなく、純粋に恥ずかしいからやめてくれ。何処の誰が呼びだしたのか知らんが、やめてくれ。


「ああもうジニアさん酔いすぎですよ。今日のところはお開きにしましょうか」


「ああ、そうしてくれると助かる」


 こっちは酒を一口も運んでいないというのに顔が熱くなってきてしまったよ。


「ですが、はいそうですかと引き下がるわけではありませんから。またの機会に話を付けましょう」


 勘弁してほしい。


 一先ずは、この晩餐会は酔っ払いの退場によってお開きとなった。だが、またいずれ近いうちに会うことになるのだろうと思うと、なんともやるせない気分になるものだ。


 やれやれ、面倒な連中と再会してしまったものだ。


 だが一つ、ナモミが今のところは安全な状態だということは知れた。それだけでもこの晩餐会は有意義なものだった。そう思うことにしよう。

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