夜更けの晩餐会 (5)
驚くほどあっさりと言ってのけるが、恐ろしく不可能に近いものも多く含まれているに違いない。そうでもなければ、ブロロがここまでうろたえることもないだろう。
「ゼクラさんらしい行動だと思いましたよ。自身を絶滅危惧種として登録し、身の安全を守るなんて」
「人類擁護派がマシーナリーにいたからできた芸当だ。俺の知っている時代じゃできなかっただろうな」
「なんにしても、今こうしてまた出会えたことを嬉しく思いますよ」
ザンカの、純粋な笑みを見る。懐かしいものだ。時間が巻き戻ったかのように錯覚してしまうくらいに。
「ぁー……? 話ぃ、終わったかぁ?」
「ジニア、お前飲み過ぎだろ」
「いいだろよ別に。ようやく、ようやっと、ゼクラ、お前に会えたんだからよ。へへへ」
本当に愉快そうに笑う男だ。
「そうですよ、ゼクラさん。今日のところは許しといてくださいよ。我々もずっとゼクラさんの行方を追っていたんですよ。ネクロダストに入って、バラバラになって、何処の宇宙を彷徨っているのかも分からなくなって」
「お前でも見つからないこともあるんだな」
「そりゃあ万能じゃないですからね。ネクロダストが何処を経由していったのかとかそういう足跡も全部が全部詳細まで記録されてればよかったんですけどね」
「オレなんかよぉ、宇宙の塵だったんだぞぉ」
べろんべろんになって言う。そういえばコイツはネクロダストに入っていなかったな。一体あれからどうなっていったのやら。
「ああと、ジニアさんはあれから爆撃されて、間違いなく死にました。死体だけ奇跡的に残っていたので回収されて研究材料として保管されていたのだとか」
想像していたよりも壮絶だった。俺たちを守るためにちゃんと身を挺してくれたんだな。そんなことをされていたとはこちらとしても頭が上がらない。
「んでよ、勝手に生き返らされてまた仕事やらされて、大変だったんぞオレは」
泣き上戸に入り始めた。こうなるとジニアもうるさくてうるさくて仕方ないんだ。
「全くコイツは相変わらずだな。お前らもよくこんなのをリーダーにしたな」
「でも、それから例のコードZの捜索団体に上手いこと取り入って我々を見つけ出して蘇生するまでに至ったんです。一応これでもジニアさんには感謝してるんですよ」
「ゼクラぁ、お前なぁ、何処の宇宙を漂ってやがったんだよチクショウが。勝手に泳ぎ回るなっつうんだ」
テーブルの向こうから酔っ払いが喚いてくる。近くまで寄ったら大層酒臭いんだろうな。すっかりべろんべろんに酔ってしまって椅子にずぶずぶともたれて、ぐったりとしている。
こんな酒浸りは余所に置いておいて、俺からもそろそろ聞きたいことを聞くべきだろう。
「なあ、ザンカ。聞きたいことがあるんだが」
「ああ、ナモミさんと言いましたか。可愛らしい娘ですね」
「ゑゎ?」
思いもよらぬ返しに声が裏返ってしまった。お前、一体何処から何処までを知り尽くしているんだ。
思わずむせ返ってしまい、声が詰まってしまった。
俺の言葉をあまりにも予測しすぎだろう。お前の思考回路はどうなっていやがる。
「調べ上げましたよ。かなり遠回りしちゃいましたけど。こっちの作ったオートシステムのトラップに引っかかった女の子。ゼクラさんの乗っていた船からでしたからね。コードが検出できなくて本当頓挫しました」
「ぉ、ぉまぇ……っざ、ザンカぁ」
「今、ゼクラさんと一緒に子作りのため共同生活してるとか。笑い転げてましたよ、ジニアさんが。全く女性の方と複数人お相手するなんて節操がないですね。状況が状況だから仕方ないといえばそうなんですが」
急激に顔が灼熱の如く燃え上がってきた気がする。
「ナ、ナ、ナモミは今、どうしているんだ。ぶ、無事なのか?」
「ぁー……ごめんなさい」
なんだ、ごめんなさいってのは。無事なのかそうでないのかぐらい分かるだろう。
「ここまでの情報を引き出したのはほんの少し前なんですよ。それまでは分かってなくて手違いというのかなんというのか……」
「はぐらかすな、ザンカ。情報を正確に洗うのがお前だろ」
テーブルの向こうでジニアが大笑いしている。さっきまで泣き明かしてたのに。
「非常に言語化するのが難しいのですが……」
「ナモミならあのイヌのネコだぜ、へへへ」
また意味の分からんことをいう。酔っ払っていると尚のこと意味が分からん。
「端的に申し上げますと、ナモミさんはブーゲン帝国の王女と間違えられてしまい、サンデリアナ国の王子と結婚することになりました」
ザンカ、お前も酔っ払っているのか? 何を言っているのかサッパリだぞ。
「ズーカイ、お前は知っているのか?」
「え? こっちに振る? てっきり無視されてるのかと。ええと概ね言葉通りですけど。ナモミさんはマシーナリーが厳重に警護する船に乗ってきていかにも怪しいからってことでコードも調べたりしたんですけど、コードもヒットしない。そんなことありえない。これはきっと権力の高い何者かに違いない、って話になって王女だと断定されたんですよ。だからザンカの言ってることはその通りで、そのナモミさんって人、向こうの王子と結婚することになっちゃったわけです」
ああ、そうだった。酒の入っているズーカイに話を振るんじゃなかった。早口で聞き取りづらい。普段は比較的無口で必要最低限のことしか喋らない大人しい奴なんだが。
「いや、いやいや待て。ナモミが王子と結婚だと? それは違うだろう」
コイツらが何を言っているのか分からない。突拍子もなさ過ぎる。
俺はさらわれたナモミの安否を心配していたのに、どうして結婚なんて話が出てくるんだ。一体何処をどうしたらあの猫のビリア姫と人類であるナモミを間違えるというのか。
「ですけど、ナモミさん、結構やり手でしてね、ジニアもザンカも騙しちゃうほど口車が上手くて上手くて、こっちもすっかり騙されちゃったんですよ。だってまさか王女くらいしか知らなそうなこともペラペラあたかも知っているかのように喋っちゃうなんて普通分からないでしょ。あれは本当凄かったというか、付き合いの長いサンデリアナ国の王子様もコロッと騙されちゃってました。必死になって本物の王女様の身代わりになろうとしたんですかね。いやぁ本当驚きましたよ」
お前の早口にも驚かされるよ。いいから水を飲んでおけ水を。
「その結婚は撤回だ、撤回させろ。どうしてそんなややこしいことになってるんだ」




