夜更けの晩餐会 (4)
「よぉ」
なんでここにいるんだ。脳と言葉がズレて不一致だ。正しく認識ができていない。目の前のソレをどのようにして解釈すべきなのだろうか。
「なんで、ここに、いるんだ」
ようやくして言葉が処理落ちから脱して追いついた。
ソイツは愉快そうに笑い、食卓の上から酒をボトル取って呷る。
「二十億年ぶりだな、ゼクラ」
俺は今、夢でも見ているのだろうか。目の前にいるのは、見間違いようのない人物ばかりだ。だが、俺の記憶の中ではそいつらはもういないはずなんだ。
「お久しぶりです、ゼクラさん」
食卓に着いているソイツらを、俺は全員知っている。
「お前の席は空いてる。ま、積もる話もあるだろうが座れや。そこの連れもな」
真正面に座る男、かつてジニアと呼んでいた男が促す。
まだ地に足が着いていないような気がする。ともあれ、俺の足は徐に歩を進め、テーブルに辿り着く。どうやら夢を見ているわけではないらしい。
「お前ら、生きていたのか?」
「へへへ、死んでたよ。いやむしろ死んでるさ。色々とあってな。今はこういうなりで雑用して船長になって遊んでるんだ」
適当にもほどがある、説明にもなっていない言葉で返されてしまった。
「ザンカ、すまないがコイツに代わって説明してくれないか」
「やっぱりこういう役割なんですか。まあ本当に長い話になるんですけれど、何処から話したものか」
ザンカが手元のグラスを空ける。一息ついて、思案に耽る。
「そうですね。まず簡単なところから。船長、つまりジニアさんの言った通り、我々は死にました。それはゼクラさんもご存じのことと思います。何せ、あのとき一緒にいましたからね」
明確に言葉にされる。
そうだ、コイツらは、俺のかつての仲間、シングルナンバーにしてコードZ。俺と同じくマシーナリーによって作られた兵器だ。
ジニア、ザンカ、ズーカイ。長いこと組んでいた奴らだ。忘れることはない。
「ゼクラさんはどのくらいまでご存じか分かりませんけど、あのときの戦いは歴史に残るほどまでに至ったんです。何せ、マシーナリー、ああこの時代のマキナの呼び方ですね、このマシーナリーの内乱が色濃かったものですから」
「その辺りは耳にはしている。俺たちが一部では英雄扱いされていたとか」
「ええ、そうです。マシーナリーの兵器として生み出され、マシーナリーに仇をなし、マシーナリーの脅威にまで昇華したシングルナンバー。あのときの我々の任務は失敗には終わりましたが、人類の可能性というものを再認識されたそうです」
後にそれまで奴隷だった人類が立ち上がり、マシーナリーへと反発するようになり、またマシーナリーもそんなシングルナンバーの存在を知り、人類の見方を変えていったのだとか。
「ここが主題となるのですが、そんな脅威なる力を持ったコードZを欲しがるものが現れたのです。至極当然の話ですよね」
「それでまさか」
「そう、我々は蘇ることとなったわけです。まあ、見ての通りとなりますが」
「機械人形としてか」
一目見て気付いた。コイツらは人類ではない。露出した肌に金属を覗かせている。生身の部分があるのかどうかは分からないが、少なくとも内面的には大半が機械によって補われていることは間違いない。
マシーナリーとは違う。人類とも違う。機械と生物のハーフのような存在。
「やっぱりゼクラさんは察しが良くていいですね。話も早い。今のところはジニアさんがリーダーなんですが、てんでしっくりこなくて」
「別にオレのこたぁいいだろうよ」
「ま、そういうことです。腐敗、破損状態が深刻だった我々は機械人形として蘇り、それからまあ、本当に色々あったんですよ。全部を話すと朝になっちゃいますから今の話をしましょうか」
多分、朝になるというのは誇張なしに本当のことだろう。蘇ったというのも最近の話でもなさそうだ。
おそらくは気の遠くなるほど長い年月を過ごしてきたのかもしれない。
「端的に申し上げますと、我々は仲間を募って傭兵となりました。そしてサンデリアナ国に雇われることとなり、軍事力、兵力の提供をしています」
「数奇な巡り合わせもあったもんだな」
まさかこうやって二十億年ぶりの仲間に出会えるなんてな。
「ええ、こちらもそう思います。まさかゼクラさんがそちら側にいるなんて思いもしませんでしたから」
「よぉ、よぉ、ゼクラよぉ、こっちにこいよなぁ」
あの酔っ払いのことは一先ず放っておこう。
「サンデリアナ国の意向によりブーゲン帝国を攻め落とすことに成功。新たな条約を結び、国の統合にまで話が進みました」
「ようやく今の話まで追いついてきたな」
「ええ。国のルールに従い、暫定的に新たな王を迎え、その王から国を譲渡される。ここまでがサンデリアナ国の書いたシナリオです。しかし、それでも不満があると言い出したものがいるんです」
「アイツだよアイツ、あのバカ王子の野郎だ。面倒くせぇこと押しつけやがってよ」
「ま、まあそういうことです。サンデリアナの王子は国だけが目的じゃなかった。ブーゲン帝国の王女を自分のものにしたかったんです。そこで、即位式までに戦火の中、いずこかへと消えた王女を探す任務にあたったわけです」
予想、予測していた話が繋がっていく。概ね真実に繋がってきたようだ。
「強引な手段も色々と使わせていただきましてね。渡航領域を跨ぐものから拉致してきたりなど、王女と思わしき者は片っ端からかき集めていました。そんな中ですよ、ゼクラさん。あなたを見つけたのは」
「どうやって見つけたんだ。こちらもカモフラージュには事欠かなかったはずだが」
「解析しました」
あっさりと、そして自信満々に言われてしまった。そういえばザンカはその手のスペシャリストだった。当時でさえ右に出る者はいなかったし、あれからまた腕を上げたとなると計り知れないポテンシャルを秘めているのかもしれない。
「申請ルートや記録などに改竄された形跡があったので調べてみたらマシーナリーのコードが検出できたので、追ってみたら絶滅危惧種保護観察員というじゃないですか。登録された対象を調べ上げたらコードZ、つまりゼクラさんにヒットしたわけです」
横にいるブロロが引きつった顔をしている。