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ぷらとにっく・ぎゃらくしぃ  作者: 松本まつすけ
Episode.3 Remain remember
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夜更けの晩餐会 (2)

「ゼクラ、ここから先は妾の国の問題じゃ。当初の計画ではこのまま国を去るのじゃろう? あまり深入りすると支障が出てしまうじゃろう」


「ああ、そうだったな」


 一応、無事な形でビリア姫を送り届ける計画はこれにて完了だ。俺達が無事にこの国を脱出することで完遂となる。


「ゼクラのアニキ、今日のところはもう夜も更けてきたんで、何処かで宿をとった方がいいと思いますぜ」


「それなら妾の城に泊まればよかろう。そこら辺の宿に宿泊して変に足跡を残すよりも安全じゃ」


 確かに、下手したら宿泊記録によって俺たちの足がバレてしまう可能性も十分に考えられる。今回の計画は、あくまで俺達の存在が認知されることなく事を済ませるところまでが重要なところだ。


 不慮の事故によってナモミが誘拐されてしまったことにより計画にやや穴が空いてしまったが、エメラたちの情報操作の甲斐もあって、今のところ俺たちは一般的な観光客を装えている。


 問題となっているのはナモミだけだ。あちらの方がどうなっているのか一体分からないが、ただ救出するだけでも難しいところだろう。なんとか向こうの方だけで上手く誤魔化してくれることを祈るばかりだ。


「この度は我らが姫君を送り届けていただきありがとうございます。この爺から改めて感謝の言葉を。丁度客室は空いております故、そちらの方へご案内しましょう」



 ※ ※ ※



「ほぇ~……すっごいなぁ……」


 案内された部屋は想像していたよりも豪華という言葉が相応しかった。


 さすがは帝国といったところか。客室一つにしても驚くほどに広く、値の見当もつかない嗜好品の数々が目に入る。襲撃に遭った痕跡もなく、どうやら先の戦争でもこの場所には敵兵は手を付けなかったらしい。


「本当はもう少し良い部屋もあったのですが、あいにくとサンデリアナ国からの先客がおりましてな。まだお見えになってはいないようですが」


 ここよりも豪華な客室があることに驚く。それはなんだ、他国の王族や要人を泊めるための部屋だろうか。


「俺達が泊まっていることを怪しまれることはないのか?」


「この城も今は客人が多くなっておりますし、ある程度の確認はされるでしょうが、入城権を持っていることが確認されれば何も怪しまれることはないかと」


「正規の手続きを持って手に入れてますし、その点は問題ないと思われますわ」


「勿論足がつかないよう色々と手回ししてるんで、そこらも心配ご無用ですよ、ゼクラのアニキ」


「ふむ……」


 計画があまりに上手くいきすぎているせいか、かえって不安が募る。心配性が過ぎるだろうか。このまま何事もなければいいのだが。


「部屋は二つ借りたことだ。この部屋はキャナとシルル、もう一つの部屋を俺とブロロで使わせてもらおうか」


 一先ず簡単な部屋割りだけ決めておく。


「うち、ゼックンと同じ部屋がええんやけど」


「ダメですよ。お二人の安全を守るのが俺らの役割なんですから。護衛を外すわけにはいきませんて」


「ぇー……」


 またふてくされてしまった。その辺は聞き分けてもらわないと困るところだ。何事も用心に越したことはない。


「それでは何かありましたら使用人をお呼びください。といっても、こちらの城もサンデリアナ国の方々を優先にしております故、ご不便をおかけすると思いますが」


「いや、気にすることはない。状況が状況だからな」


「お気遣い、ありがとうございます。では失礼いたします」


 そういって、老猫が立ち去っていく。


 ブーゲン帝国に元々仕えていたものたちも相当数を減らされており、生き残っていたものでもこの城の地下に囚われているものも多く、深刻な人手不足らしい。


 実際のところ、この城を歩き回っていて、ブーゲン帝国の者と思わしき猫型の獣人族ブルートゥよりも、サンデリアナ国の者と思われる犬型の獣人族ブルートゥの方が数も多かったように思う。


 幸いにも、客人として受け入れられている状況なので、怪しまれている様子もなく、そのまま素通りできている。事と次第によっては交戦もありうると構えていたせいか、少々拍子抜けしてしまったかもしれない。


 最悪の状況ばかり想定してしまうのも考えものか。


「それではゼクラのアニキ、俺らの部屋に行きましょう。明日も長旅になるでしょうし、今のうちに疲れとっておいた方がいいっすよ」


「ああ、そうだな」


 まだ全てを終えたわけじゃない。これから無事に立ち去ることも考えていかなければならない。


 今、順調に事を進めているからといって、この後に何も起こらない保証など何処にもない。サンデリアナ国も何か動きを見せる可能性だってある。


「おやすみ、二人共」


「ええ、おやすみなさいませ、ゼクラ兄さん」


「また明日なぁ」


 そういって俺はそっと扉を閉める。俺たちの部屋は直ぐ向かいだ。振り向いて、そのまま真後ろの扉へと向かう。


 その扉を開けてみれば、先ほどの部屋とは大差ない、鏡写しのように豪華な部屋が広がっていた。


「ふぅ……、ブロロ、お前も楽にしていいぞ」


 扉を閉めて、一息。これまでの緊張感がほどけたような気がする。


「一番楽にするのはアニキの方だと思うんですがね」


 そう言われても仕方ないといえば仕方ない。


「確かに、こんなにも疲れるものとは思わなかった」


 別段、大して動き回ったわけじゃない。殆どが移動だ。常に何処から何が来るのか警戒し続けた結果がこれだ。なんとも情けない話だ。身体よりも心の方がまいるなんてな。


「やっぱりナモミ姐さんのこと、気に掛かってるんですかい?」


「そりゃあ、まあな。エメラたちからは特に連絡はないのか?」


「残念ながら、向こうの情報規制もありますし、盗聴の恐れもあって、通信の類いはシャットアウトされてるんです。一応、重要な情報を掴み次第、何らかの手段で報告するとは言っていましたけど、来ていないってことは大丈夫ということでしょう」


「だと、いいんだがな」


「本来ならこんなこともなかったはずだったんです。あらゆる事態を想定して取り組んでいたはずなんです。俺たちもエメラ姐さんも、手落ちはなかったはずなんです。なのにこんなことになってしまった。アニキには土下座したって足りませんよね」


「言うな。俺はお前達を信頼しているつもりだ。今も、これからもな」

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