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ぷらとにっく・ぎゃらくしぃ  作者: 松本まつすけ
Episode.3 Remain remember

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王子、邂逅す

 とうとう着いてしまった、惑星『フォークロック』。ビリアちゃんの祖国がある星だ。予定とは大分違う形になってしまったが、無事にこの地に足を踏み入れることになった。


 問題なのはここがビリアちゃんのブーゲン帝国ではなく、その敵国にあたるサンデリアナ国という点か。


「さあ、王女様つきましたよ」


 さっきまで乗っていた船の乗組員や、既にそこで待っていた国の従者らしき面々に優しくエスコートされる。どういうわけか、あたしが。


 もっと問題があるとするならば、あたしがビリアちゃんとして扱われている点だろうか。いつバレるか分かったものではない。


 あの窮屈なガラスケースに閉じ籠ったままのがよかったような気がするほど。見回すと怖そうな顔した犬が二足歩行で列をなしている。鼻をヒクヒクさせてこちらを伺っている感じがまた怖い。


 あの顔はいずれも「あれ? 王女様ってこんな匂いだったっけ?」みたいに思っていそうだ。犬の表情なんて読めないんだけどさ。


「おお、隊長殿、待ちかねておりましたぞい」


 なんかちっさいブルドッグみたいな犬が現れた。身なりからして結構偉そうだ。


「よお、大臣。ただいま帰還しましたぜ、へへへ」


「それで、ビリア王女は? 話ではカモフラージュとして姿を変えているとのことでしたが」


「ああ、こいつだ」


 そういって、あたしを前に押しやる。もうちょっと丁寧に扱ってくれないかな。


「ほうほう、これはまた、上手く化けましたな。かつてのビリア王女とは似ても似つかない。本当にビリア王女なのですかな?」


 違います。あたしはナモミです。なぁんてこの場で言ったらとんでもないことになるんだろうなぁ。


「一応こちらで簡単な確認はしましたが、もしかしたら影武者の可能性も十分考えられます。我々よりも王女に詳しいものに確認をしてもらった方がよいでしょう」


 詳しく調べられたらアウトだよ。どうすんのこの状況。サンデリアナ国だと顔見知り多いんじゃないの?


「ふむふむ、そうですな。ここはひとつ、王女とも付き合いの長い王子に会わせてみるのがよいでしょうな」


 絶体絶命すぎる。ただでさえあんなバカ王子なんかに会いたくないのに、出会ったらもう処刑が決まったようなものだろう。


 何せ、帝国に戦争ふっかけるようなバカ王子だよ。あたしが王女じゃないってバレたらどんな野蛮なことをされることやら。下手したら死んだ方がマシなレベルの拷問をされてしまうのでは。


 そんな、不安に不安を巾乗させた不安の塊に背筋を凍らせていると、不安の権化が足をつけてやってきていた。


「王女が見つかったって本当か?」


 向こうから駆けてくるあの男。実物を見るのは初めてだが、よく知っている。あの悪趣味なまでに高級そうな装飾品をこれでもかというくらいに身に纏う直立歩行で長身の犬。


 あれが誰かなんて説明も要らない。あれこそ噂の、歴史に名を残すレベルで悪名高き悪逆非道のバカ犬王子、サンデリアナ国の汚点にして、ビリアちゃんの幼馴染み兼許嫁のラセナ・ビションフリーゼ・ユングヴィ十七世だ。


「王子、こちらですぞい」


「こいつが本物の王女かどうか確かめてくれや」


 うわぁ、目の前にすると本当に気持ち悪い。


「ビリアのことにかけてならオンリーワンにしてナンバーワンでワンダフルな俺様に任せたまえよ」


 ワンワンうるさいなこの犬。そして鼻を近づけてくんくんするんじゃない、気色悪い。


「ふむふむふむ。姿も匂いも変えているようだが、俺様には分かるぞ。かすかに我が愛しのフィアンセ、ビリアの残り香を感じる!」


 ひぃぃ、気持ち悪いよぉぉ! た、助けてゼクぅぅぅ!


 ビリアちゃんの匂いなんてするわけないじゃん、と思ったけど、そういえば本物と接触しているんだから本当にわずかばかり匂いがついていたのかもしれない。何せ、こいつ犬だし、そんくらいはかぎ分けられるのかも。


「王子、何か質問をされてはいかがかな? 王子と王女にしか分からないようなことを」


「ふむ、そーだな。俺様とビリアだけの秘密は無限にあるからな。なんといってもこの俺様のフィアンセなのだから当然だ! 秘密の数だけ愛があるということなのだよ!」


 何言ってるのか分からないし、ただただキモいんだけど、このバカ王子の頭の中ってどうなってるの? 想像していたよりもずっと気持ち悪い。


「では、あれだ。俺様がビリアに贈ってやったものでも答えてもらおうか。初めて出会ったあの日、ビリアにプレゼントしたものだ。勿論答えられるはずだな?」


 喋る度に虫唾が走る。その口を閉じてもらえないものだろうか。香水だか口臭だか分からないけど何か物凄く臭いし。


「……ネズミの死骸じゃったな」


 仕方なく答えてあげる。


「そうだ、そうそう。あのときの驚いた顔は今でも思い出せる! 素敵なプレゼントだっただろう? はははははっ」


 ビリアちゃんもバッチリ覚えてたよ。思い出すだけでも怒りのあまり、拳を握りしめるほどに。曰く、初対面の相手にあんなものを渡す輩は絶対に信用できないと確信したんだとか。まだ当時も幼かったというのに、災難な話だ。


 ちなみに、このネズミというのはあたしの知っているものとは大分違うらしい。


 ネズミといったら手に乗るくらい小さくて、尻尾が長く、すばしっこい獣ってイメージだ。でもここでのネズミは実際にデータで見てみたけれど、小さめのカピバラのようなもので、家畜としてポピュラーなものみたい。


 人類目線で言うところの豚に近いのかな。


 ブーゲン帝国では食用のものとして養殖されているとのことだが、よりにもよって王子がプレゼントしたのは野生で捕まえた雑種のものと言っていた。何処の山から拾ってきたのか知らないが、勿論こちらの食文化の中でも食えたものじゃない代物。


 いくらビリアちゃんが猫の獣人だからといってソレは無理だ。そうでなくとも、腐りかけた生肉を渡されて喜ぶ女がいてたまるか。


 以来、ビリアちゃんはネズミが嫌いになってしまい、国内でも幼少期はこれをネタに虐められた時期もあったくらいトラウマを抱えてしまったそうな。可愛そうに。


 隣国のくせにこういう文化の違いも理解できなかったらしい。まあ、まだお互いに幼かったからよかったものの、今同じことをやったら国交断絶ものだ。いや、王子の方からソレやらかしてるから結局同じなんだけど。

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