穢される! (2)
なんだ、この人。言ってることの意味は殆ど分からないけれど、多分こっちの動きをメチャクチャ読んでる。プニーやエメラちゃんたちがあれだけ頑張ってカモフラージュしまくったのに、全部看破したっていうの?
どう考えても、この人ら、ただ者じゃないじゃん。やばいヤツじゃん。
「やっぱりな。どう考えても怪しい。この小娘、ただ者じゃない」
「本当にビリア王女なんですか? こちらの持っているどのデータも一致していないのですが」
そらそうだ、あたし、ビリアちゃんじゃないもの。
なんで物凄い細かいところまで調べ上げられてるのに、そこんとこだけ間違った推理になっちゃうわけ? 頭が良いのか悪いのか分からない。
「よぉく考えて見ろ。このタイミングでわざわざこっちに来ようとするヤツがあるか? しかも何重にも手の込んだことをしやがって。そんで、お前の仕掛けたシステムに掛かったんだろう? 逆にビリアじゃない可能性はどんくらいさ」
どう考えてもあたしは百パーセント違うんですけど。
「データと照らし合わせると九十六パーセントは違いますよ。容姿も種族も違いますし、せいぜい体格が似ている程度で、行方不明になってからの時間経過を考慮したってあまりにも……」
そうだ、そうだ。あたしはナモミだぞ。ビリアちゃんじゃないぞ。
「持っているデータじゃあ仕方ない。だが、ここまで手の込んだカモフラージュやってんだ。整形くらいやりかねない」
「確かにそういったことを考慮してしまうとこちらのデータも信用できなくなってしまいますが」
負けるな、知らない人! そんな屁理屈なんかに言い負かされるなって! 絶対アンタの方が頭良いから! データを信じなさいよ!
「なんなら、本人に聞いてみるか? お前は姫なのか、ってよ」
「ちゃんと答えてくれますかね?」
ちゃんと答えるよ! あたし、ナモミ! 地球人!
「違うなら違うでいいさ。処分するだけだ」
……え? 処分?
「そうですねぇ、実際に厄介なところからさらってきたのは間違いないですし、このまま連れたまんまだと間違いなく面倒なことになりますもんね」
「発信器の類いはあったか?」
「一応見ての通り、身ぐるみも剥いでありますし、大丈夫だとは思いますが、何分、コードが全く感知できていませんので、ひょっとするとこれも巧妙にカモフラージュされているのかも」
ないから! そんなの持ってないから! というか、こっちはガチのすっぽんぽんなの! そろそろ恥ずかしくて泣くぞ!
「なら、こうしよう。ビリア王女だったら『フォークロック』へ連れていく。そうじゃないんだったら、あー、そうだな。可愛そうだが奴隷商にでも売っ払うか。そんでオレらは素早くおさらばって寸法よ」
何勝手なこと言ってんだこの男。何よ、奴隷商って。本当にガチでそんなのあんの!?
「ええと、この近くで立ち寄れそうなところというと……ああ、ありましたよ。どんな種族でも扱ってるのが。でもちょっとこれは可愛そうかも。相当違法なことやってるみたいですよ。調教するのに薬物も改造も厭わない感じで。うわ、ちょっと吐きそう」
何それ、ちょっと待ってよ。そんなドン引くほど酷いの? いやだよ、そんなの。いやいやいや、薬物だの、改造だの、勘弁してよ。
やばい、まずい。このままだと穢される! あり得ないくらい穢される!
「いいんだよ、原型とどめないくらい好き勝手やってもらった方が都合が良い。どうせ売った後のことはオレたちには関係ないしな」
なんも良くないっての! この人でなし!
あ、いや、コイツ、人じゃない、のか? 見た目人型してるけど、どう見ても人間っぽい感じだけど、でも絶滅危惧種認定食らってるのあたしたちくらいだし、人間じゃない、のか?
「おい、フィルターを解除しろ。話がしたい」
「いいんですか? 大分興奮気味のようですし、会話にならなかったりしたら」
「そんときも面倒だから売り飛ばす」
いやあぁっ! やだやだやだやだ、どうすんのこれ。奴隷にされちゃうよ!
薬漬けにされてぐちゃぐちゃに改造されて、調教三昧とか勘弁してよ!
「分かりました。では、フィルターを解除します」
ガラスケースがなんとなく薄くなったような、そんな気がする。どうやらこれで向こう側に声が届くようになったっぽい。とはいえ、依然としてこの中から出られないみたいだけど。
「よお、話は聞いてたよな。面倒くさいの嫌いなんでな、率直に答えだけ聞きたいんだが、お前さん、ビリア王女か?」
え? これ、どう答えればいいの?
だって違うなんて言ったら奴隷行きだし、かといって適当に変なこと言って誤魔化してもやっぱり奴隷行きだし、無理じゃね? 詰んでね? 奴隷確定?
「答えないならそれでいいさ。厄介なことは背負いたくないんでね」
「……ふん、妾に脅しかけようなどとは大したヤツじゃのぅ」
って、おい。
「いいか、もう聞かないぞ。お前は誰だ?」
「妾の名はビリア。ブーゲン帝国のビリア・ノルウェージャンフォレスト・ヴァナディース二十三世なるぞ!」
何言ってんの、あたし。こんなんで誤魔化せるわけないじゃん。バカか。
「ふぅん、そうか」
「声紋不一致。全くデータと異なります。喋り方の癖は似ている程度で」
ほら、ダメじゃん。何にもなってない。どうすんのこれ。
「いや、本人がそう言ってるんだ。そうなんだろうよ。オレたちはビリアとしか言っていないが、コイツはフルネームで答えやがったぞ」
「ですが……」
「じゃあ、面倒だがもうちょっと質問してみるか」
ひぃぃ、やばい、やばい、やばい。
「なぁ、アンタ、確か許嫁がいたんだったな」
「ああ、あのバカ王子のことか?」
「そうだ、あのバカ王子だ。せめてソイツの名前くらいなら言えるよな?」
うわ、そういうクイズやめてよ。あたしの命が掛かってるんだよ? 普通に間違えられないヤツじゃん。うっかり適当なの答えて誤魔化せそうにもないし。
「あやつの名前など言いたくもないわ。顔も見とうもない」
とか言ってどうにか許してくれない?
「それならそれでいいんだけどな。おい、そろそろ船を発進させるぞ。行き先は」
うーわ、これ誤魔化せてないヤツじゃん。ピンチじゃん。どうしたらいいのさ、この状況。こうなったら頼みの綱、端末から情報をこっそり検索して……って、ないわ! あたしすっぽんぽんだったわ!
ああもう、明日から奴隷ライフが待ってるっていうの? いやだー。助けてー。




