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ぷらとにっく・ぎゃらくしぃ  作者: 松本まつすけ
Episode.3 Remain remember

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お留守番

※別視点

「無事に出発できたようですね」


 宇宙空間へと発進していく護衛艦をモニターで追いながらプニカが呟く。推進力や速度、エネルギー量など、無数のデータが言葉通り飛び交う管制室内は、一先ず安堵の息がこぼれていた。


「プニカお嬢様。それではしばらくの間ですが、これからどうぞよろしくです」


 身長のやや低めのプニカからすれば対比的に巨人とも言える金色の甲冑男、ゴルルが膝を折ってプニカへと握手を求める。


「はい、ゴルル様。こちらこそよろしくお願いいたします」


 握手を返す。


 たった今、コロニー『ノア』から出発していった護衛艦は、いつ帰ってくるかは分からない。低い可能性ではあるが、ひょっとすれば帰ってこなくなることも考えられる。そうなるとプニカはこの『ノア』に残らざるを得なかった。


 笑顔で見送り、とまではいかなかったが、全く心残りがなかったのかと言えばそれはウソになる。小さな胸の何処かがひしゃげるような、そんな違和感を残しながらもプニカはただ帰りを待つことにした。




 途轍もなく広大なる宇宙のいずこかにある無人の惑星『サイプレス』の軌道上を走る、衛星となったコロニー『ノア』。


 そこには今、人類と呼ばれる種族はただ一人しかいなかった。


 便宜上、プニカ・ブランフォードを名乗っている少女だ。かつて彼女は数百年も前に病に倒れ、死亡している。床に伏す前に造られたクローン、それが今ここに生きているプニカである。


 本来の用途であれば、オリジナルのプニカから記憶を引き継ぎ、二度目の人生を歩んでいたところだったが、クローンとして生み出されて間もなく、クローンにまつわる法律が改正され、使用を禁じられてしまった。


 今の彼女は、正確にはプニカ・ブランフォードの記憶を引き継いでいない、ただの少女だ。何者でもない、ただの抜け殻として宇宙の果てで忘れ去られる可能性すらあった。


 そんなプニカが今こうして目覚めて、『ノア』の住民として過ごしているのは偶然の重ね合わせによるものだ。


 クローンプニカは『ノア』で眠っていた。オリジナルがいなくなってからも長い年月を、ひたすらに眠りについていた。そんなあるとき、『ノア』の中枢コンピュータは人類の滅亡を予見した。


 このままではこの宇宙から人類という種が根絶やしになってしまう。それを危惧したコンピュータにより、緊急の措置としてプニカは目覚めさせられた。そして『ノア』の管理者の権限を与えられ、人類の未来のために生きてきた。


 何者でもない彼女はこれまでに宇宙を彷徨い、人類の埋葬された棺桶なるもの、ネクロダストを集め、蘇生することで人類の繁栄を目指していた。


 その結果、この『ノア』でゼクラ、ナモミ、キャナの三人の人類の蘇生に成功することができた。あまりにささやかで、あまりにも大きな功績だ。


 とはいえ、たかが三人。プニカを含めても四人。繁栄するには心許ない。


 そこで出た発案が、人類以外の手を借りるというものだった。


 プニカを含む人類は、人類よりも優れた種族、機械民族マシーナリーの力を借りることを決断。そうして『ノア』には人類を保護するための観察員が派遣されるようになった。


 そんな折。プニカは偶然にも『ノア』に漂着したネクロダストを発見した。それは緻密にカモフラージュされた代物だったが、無事に保護することに成功。すぐさま、それの蘇生に至った。


 蘇生者の命には何ら別状はなかった。ただし、それは人類ではなかった。人類とは別の進化の過程を経た、別の種族、獣人族ブルートゥだった。


 ことはそれだけでは済まされなかった。


 現在『ノア』は機械民族の保護される区域。獣人族は住民としては受け入れられなかった。そのため、蘇生された獣人族は故郷の星へと送り届けられることとなった。


 そうして、管理者であるプニカはこの『ノア』へと残り、蘇生された三人の人類たちは獣人族を護衛艦に乗せ、まさにたった今、旅立っていったというわけだ。




「どうかしたですか? プニカお嬢様」


 ゴルルがいぶかしげにプニカの顔を覗き込む。自分が長くぼんやりとしていたことに気付いていなかったのか、ハッとしてプニカは見上げる。


「いえ、なんでもありません。惑星『フォークロック』までのルート構築で少々時間を取ってしまったので睡眠不足だったのかもしれません」


「そうですか。あまり無理はよくないですよ。寝れるときに寝ておかないとお肌が荒れてしまうかもしれないです」


 金色をした金属のボディで言われてもピンとはこない。少なくともゴルルは人類とは違うのだから荒れる肌すらないはずだ。


「やはりわたくしはもう少しこういったことにも気配りした方が良いのでしょうか。化粧といったことも今まで考えたこともありませんでした」


 言われている以上にプニカは何処かしょんぼりとしたオーラを漏らす。プニカには自分を磨くことはあまり縁もなく関心もないことだった。それまで人類の繁栄のためにはネクロダストの回収とその蘇生を目的としてきたから。


 いざネクロダストの蘇生が行われるとその目的は人類の繁殖へとシフトしてきた。それはつまり、男女で生殖行為をするということ。そこに至るには単純な交渉だけでは済まされない。


 そのときにプニカは気付いてしまった。性行為をするには、男の気を惹かなければならない。そして、それには己の魅力を磨かなければならないということを。


 何者でもない抜け殻のクローンだったプニカには何も分からなかった。


 どういう格好をすればいいのか。どんな化粧の仕方があるのか。どうやったら男の気を惹くことができるのか。調べたところでどうしてかどれもピンとはこない。それをすることによる意図や意味が上手く汲み取ることができなかったからだ。


「女の子とは一体何なのでしょうか?」


 思考が回らないあまり、プニカの口から漠然と、そして不可解な言葉が漏れ出す。プニカは間違いなく女の子という区分ではある。それを真っ向から否定することはできないだろう。


「プニカお嬢様はずいぶんとお悩みのご様子ですな。どうして今回はゼクラのアニキについていかなかったです?」


「それは以前、私が『ノア』を離れたことで管理に不備があったためです」


「その話は聞いているです。ですが本当にそれだけが理由ですか?」


 プニカが首を傾げる。それ以外の答えを自分の中に持っていなかったからだ。

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