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ぷらとにっく・ぎゃらくしぃ  作者: 松本まつすけ
Episode.3 Remain remember

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修羅場 (4)

 ふと談話室に足を踏み入れる。前はこんな部屋はなかったはず。あったのはもっと簡素な会議用の部屋くらいだった気がする。


 扉の先は思っていた以上に開放的で広かった。天井から壁一面に至るまで張られたウィンドウから外の景色が見える。見上げるだけで外の光景、宇宙空間が見渡せた。リアルなプラネタリウムかな?


 部屋に入ったはずなのにいきなり宇宙空間に放り出されたのかと錯覚するほど。砂金が撒かれたかのような空を見回す。もう既に『ノア』は視界の中に映らない。


「おう、ナモミか」


 中央のソファを縄張りにするようにビリア姫が鎮座して毛繕いしていた。


 その一角だけを切り取ってジオラマにできてしまいそうなほど型にはまっている。このおもてなしにはご満悦の様子だ。


「ビリア姫、お、お加減はいかがでしょう?」


「よいよい、そんな他人行儀で堅苦しい挨拶。妾に遠慮するでない」


「そんなこと言われても、やっぱりお姫様だし……」


 どういう対応したらいいのか戸惑うばかりだ。


「そんなにかしこまっておると慇懃無礼とみなして不敬罪にするぞ! にゃははは!」


 冗談のつもりなのだろう、上機嫌に笑ってみせる。とはいえ、リアルに姫にそう言われてしまうと冗談じゃなくなりそうだから困る。


「妾のことはビリアちゃんとでも呼んでおくれよ」


 お恐れ多いんだけど。でもまあ、本人が言っているのならいいのかなぁ。


「えっと、じゃあ、ビリアちゃん」


「うむ、なんじゃ、ナモミ」


 にこやかに返事された。


「ゼクのところには、行かないんだね」


 てっきりべったりとしているのかと思ってた。プニーやお姉様みたいに。


「ぁー、ぅー、まぁ、あまり近くに寄りすぎると妾も理性が保てそうにないからの」


 ケダモノみたいなことを言う。実際のところ、リアルな意味で理性を失いかねないのかもしれない。猫被りな猫姫の姿を目の当たりにしているから何となくは分かる。


「ナモミこそいいのか? ヒューマンとやらの種の繁栄のためとはいえ、他の雌どももゼクを狙っておるのじゃろ?」


「あたしはほら、独占欲とかあまりないし」


 嘘だけど。


「割りきれておらんくせに、白々しい」


 バレたけど。


「妾は数少ないというヒューマンたちと会ってきたが、ナモミ、おぬしが一番ゼクラのことを好いておるよ。これは間違いない」


「そ……っ!」


 頬が破裂しそうなほど言葉が喉奥に詰まってむせた。げほっ。


「この妾に負けを認めさせたのじゃ。誇るといい」


 清々しく言い放ってくれるもんだ。プライドの高さ故なのか、そこには潔さすら感じられる。これでいて、あまり後には引きずらない派なのかもしれない。


「でも、いずれまたゼクを狙いにくる……んだよね?」


「妾の敗因があるとすれば、まだまだお互いに親密度が足らなかったこと。じゃから今度はゼクラに妾のことをよぉく知ってもらい、妾もゼクラのことをたぁっぷりと熟知させてもらうぞ」


 本気の目だ。獲物を狩る獣の目だ。


「そのためにもなるべく早く妾の国の再興に臨まねばな」


 慌てたところでゼクは逃げないと思うのだけれど。


「ナモミ、おぬしもうかうかしていられないからな。あぐらをかいている隙に他の雌にとられるやもしれぬぞ」


「……とるもとられるも、ゼクは誰のものでもないって」


 などと言いつつも焦燥感にかられている。


「ほほぅ? そのようなことを申すならば、あの翠のヤツにとりいってゼクラを妾の側近にしてしまうぞ。妾は落ちぶれようとも帝国の王たる存在。ルールすら書き換えるのも容易じゃよ」


 突然なんてことを言い出すのか。そんなことは不可能だ、と言い切れないのか怖い。本当にできてしまうのかもしれない。


 冗談なのか、そうじゃないのか、分からない。


 でも、でもだ。だからといって、その言葉をそのまま受け入れるのはまた違う。


「ゼクは誰のものでもないんだって」


 そう、思いたい自分がいる。分かっている。


 こんなあたしでもちゃんと分かっている。


「ふふん、それじゃよ、その目。妾の鼻じゃなくともその目を見れば全部お見通しじゃ。何を苦しんでおる? 何故ナモミはそこまで身を引こうとする? ゼクラは誰のものでもない? そうかもしれんのう。じゃが、自分のものにしたいと思っておる輩はおる。妾もその一人。ナモミもその一人。そこに嘘をついてどうする」


 そんなに分かりやすい顔をしているのだろうか。今度自分の顔をもっと鏡でよく見ておいた方がいいのかもしれない。


「あたしは、あたしはさ、ちっぽけなんだよ。優れた力も持ってない、誇れるほどの知力もないし、特異な能力だって。勿論、大きな物事を動かす権力も全然」


 あまり口にしたくはない言葉が出てくる。


「言ったよね、あたしには重すぎるの。種族の繁栄だなんて。何にも出来ないくせに、何でもかんでもできてしまえるみんなを差し置いて、幸せになりたいなんて、言えっこないじゃん」


「そうじゃの、ナモミは弱いの。妾にかかれば指先一つで宇宙の果てまで吹っ飛ばせるくらい弱い弱い」


 ふふん、と鼻で笑う。


「じゃがの、ナモミ。それで何が悪いのじゃ?」


「何が……って」


「ナモミはこの妾に敗北を認めさせた。ソレをただの寝言か何かだとでも思うておるのか?」


 未だにどうして姫様があたしなんかに負けただなんて思ったのか、あまつさえライバル扱いしてくるのか、よく分からない。あたしはただ、ただゼクが好きなだけで、それだけしかないのに。


「ナモミはゼクラの子が欲しくないのか?」


「欲しい」


「ゼクラとの将来を考えておるのではないのか?」


「それはまあ」


「なら、ナモミは種族の繁栄とやらに貢献できるじゃろう。責任がどうとか余計なことは考えるまでもない。他の雌どもに遠慮しようがしまいが関係ない。一人多く産むか、二人多く産むか、その程度の違いにしかならぬよ」


 ずいぶんと軽く言ってのけられてしまった。


「本能でぶつかれ。ナモミはあの雌どもよりもずっと将来のことを考えておる。本能で感じた妾よりもずっと、その気持ちが強い。おぬしは最強じゃよ、ナモミ」


「そう、なのかな……」


「王子様、なのじゃろ?」


 刹那、顔が弾けたかと思った。


 自分の言葉がこんなにも恥ずかしいと思ったことはない。


「真っ赤じゃぞ、ナモミ。にゃははははっ♪」

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