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ぷらとにっく・ぎゃらくしぃ  作者: 松本まつすけ
Episode.3 Remain remember

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修羅場 (3)

 ※ ※ ※



 あたしの決断は、あるいは、軽い気持ちだったのかもしれない。


 思いの外、緊迫した空気が広げられた投網のように張る宇宙空港のエントランススペースで、めまいのようなものを覚えていた。


 夜更かしというほどではないにしても、それほど寝つけなかったことは事実だけど、目を覚ましてから身支度を調えて、この場所まで足を運ぶまでの記憶がしっかりあるのにも関わらず、どうして、どのようにして自分がここに立っているのか、頭の中はあまりにもぼんやりとしていて、疑問に思い始めていた。


 先ほどから忙しなくマシーナリーの面々が右往左往している。この『ノア』にはいなかったはずだ。正確に言うなれば、昨日くらいまで三人くらいだった。それが今は何人だろう。二桁は余裕でいる。


 この宇宙空港にくるときは、いつも数人ばかりで寂しくだだっ広い、そんな空間だというイメージを持っていたけれど、もし人類が将来的に繁栄していくのなら今のように閑散という言葉とは無縁なくらいに賑わいでいるのかもしれない。


 どうしてまたこんなにも慌ただしいのかなんて説明するまでもない。


 これから、始まるわけだ。お姫様を国に送り届ける任務が。


「よく眠れたのか?」


 いつの間にかそこに立っていたゼクが話しかけてくる。


「ああ、うん、バッチリね」


 本当は寝不足気味で、頭がボーッとしているけど。


「なら、よかった」


 ……? ゼクが優しいのは、まあいつものことだ。生真面目で糞真面目で愚直な男であるということは周知の事実なのだけれども、今の優しい言葉は、あの優しい顔は、何を意図したものなのか掴みかねる。何のことのない言葉のはずなんだけども。


「ゼクラ様、ナモミ様。おはようございます。護衛船はいつでも出発できるよう待機してあります。あとはビリア様の乗船を待つだけです」


 プニーがペコリと会釈を添えて現れる。相変わらずの無表情で、今日は少し疲れ目のように見えた。昨日のやたらと小難しい会議をずっと続けていたのだろうか。あたしだったら一分でもギブアップだ。


「ビリア姫は今、何処に?」


 そういえば姫の姿が見えない気がする。仮にも今回一番の重要人物なのだから、そこら辺を自由に歩き回っているとは思えないが。


「エメラ様たちと共にこちらへ向かっているそうです」


 何か話し合いでもしてたのかな。大事な話は一つや二つで済まされないだろうし。


「ほわぁ~、みんなおはようさん」


 何処を飛んでいたのか上からお姉様が飛来してくる。少しは機嫌が直っているのか、ピリピリ感は昨日ほどでもない。ただ、どことなくいつものふわふわ感がないような気がする。


 というのも、あれだけふわふわ笑顔なのに、裏にもやもや感が透けて見えている。いつものお姉様だったら仮面被ってるみたいに何を考えてるかなんて分かりようもなかったというのに。すっぴん状態のように見えて仕方ない。


「お、おはよう、お姉様」


 へっへっへ~、と返事される。どうしてだろう。サイコパワー的な攻撃がこない。普段ならこのくらいのタイミングで挨拶代わりにしてくるはずなのに。やっぱり引きずってるものがあるのだろうか。


「皆の衆、もう集まっておるようじゃの」


 タイミングでも見計らっていたのか、ビリア姫、それと続くようにエメラちゃん、ジェダちゃん、ネフラちゃんが並んで現れる。端から見ているだけで緊張感の増してくる並びだ。


「ビリア様、出発の準備は完了しております」


「うむ、良きに計らえじゃ。それでは早速乗船じゃの」


 いよいよもって、出発の時が訪れる。足下に絡みつく針金のようなソレを振り切りながらも一歩、また一歩と船へ向けて進む。


 誰にも迷惑を掛けないようにしなくちゃ、という考えが頭をよぎっている辺り、あたしはどうにも自分が足を引っ張る未来しか想定していないような気がした。


 その実、あたしにできることはいつも以上に少ない。やっぱり、あたしの決断は軽かったのでは。不安にまみれた悲観的なソレを、グッとお腹の下まで落とし込んで、今度こそあたしは力強く宇宙空港の床を踏みしめた。



 ※ ※ ※



 確か、この船には何度か乗った記憶がある。いずれも『ノア』と『エデン』を行き来したときのことだ。最初に乗ったときはメンテナンスが不十分だったせいか、快適とは言いがたい船旅だった。


 二度目以降はエメラちゃんによる手厚いメンテナンスの甲斐もあって、不備を感じるところもなくなっていった。


 あまりよろしくない思い出もあれば、言葉で言い表せないような素敵な思い出もある、そんな船だと思っていた。けれども、どうも何やら様相が違う。乗り込むまでに気が付かなかったあたしも、相当頭ボーっとしてたんだろうな、とは思う。


 模様替え、という言葉では足りない程度に大規模な改装がされていた。


 記憶の中では、もうちょっとメカメカしいというのか、サイバーチックで未来的とでもいうのか、ちょいと堅苦しい、そんな感じの船だったと思う。プニー曰く、作業用を目的とした運搬船だったらしい。


 それがどういうわけか、ゴージャス感なんていうと大げさかもしれないけれど、何やら内装が小綺麗な感じになっている気がする。廊下もホテルみたいだったし、部屋もなんか増えてるっぽいし。


 操舵室辺りは相変わらずのメカメカのサイバーで未来的なイメージは残してはいたけれども、機材的なものが以前と比べるとゴッチャリ増えてる。


 護衛船に改造した、とか言っていたっけ。


 カモフラージュ的な意味も込められているのかどうかは分からないけれども、旅客機のようなそんな感じがする。飛行機でいうところのファーストクラスとでもいえばいいのだろうか。


 以前までの運搬船の思い出もあってか勝手なイメージで、なんかこうもっと武装しまくったおっかないものかと思っていた。武器とかそこらに配備されて、兵士が銃器を構えて待機して、みたいな。


 休憩室一つにしても下手したら今ある『ノア』のあたしの部屋よりも豪華で贅沢な気がする。あの部屋は、あえてあたしが無理言ってそういう作りにしてもらっただけなんだけどね。


 お姫様を送り届けるんだから、まあこんな感じが丁度いいのかもしれない。


 なんだかんだ、こういう気配りは徹底しているようだ。

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