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ぷらとにっく・ぎゃらくしぃ  作者: 松本まつすけ
Episode.3 Remain remember

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渡さないよ

※別視点

 目の前ですやすやとお姫様が眠っている。その寝顔は猫そのものだ。撫でてあげたらゴロゴロと喉を鳴らしそうである。


 そんなことをしたらフシャーっと怒られそうだからやらないけど。


 安請け合いだったのかな、なんて今さら思う。猫姫の介抱なんてあたしにできるものなのかどうか。


 小さな子猫ならまだしも、人間サイズの猫に噛まれたり引っ掻かれたりしたら冗談じゃなく命の危険性もあるのでは。


 しかし、自分から引き受けたからには覚悟を決めなければならない。それに、あの場で他に適任がいたように思えない。プニーは論外だし、エメラちゃんは立場的に無理だし、ゼクに至っては一番任せられない。


 さっきビリア姫の容態を端末のアプリで診てみたけどスゴいもんだった。的確に関節や急所を狙い撃ちしたかのように各所の骨が痛々しいことになっていた。


 スリープに入る前にやられたかのと思いきや、いずれもごく最近のもの。明らかにゼクの仕業だ。


 まあ確かに、確かにまあ、正体不明の何者かが暴れまわられたら対処するのがゼクだろう。まさか姫様だなんて知らなかったわけだし。


 それでも、それでもそう、これは酷くない?


 女の子をメタメタにのしちゃうなんて。物理で。


 それでメロメロになるビリア姫もよく分からないんだけど、あのまま二人をほったらかしにしていたらよくない結果しか見えてこない。


 ゼクのことだからもうこれ以上乱暴なことはしないだろうけど、求愛しまくるビリア姫をはねのけようとしてうっかり怪我させてしまう構図は目に浮かぶ。あれでいて力加減も分からん男だし。


 可愛そうな姫様。あそこまで物理的にもボコボコにされて、あんなにも求愛したのに精神的にもボコボコにされちゃって。かといってじゃあどうぞ世継ぎのために励んじゃってくださいなんて言えないが。


 ともあれ、ゼクや他の誰かに任せるくらいならいっそあたしが面倒見るのが妥当なところだろう。


「ふぅー……ふぅー……」


 可愛い寝息を立てている。治療の方は大体済ませた。『ノア』に配備されていた医療器具が全自動で全部やってくれた。


 ゼクにやられた分が九割くらい。残りは長期スリープによる衰弱。こちらも栄養を与えたのでもう快復しているはずだ。


「ふにゅぅ……、んにゃ? こ、ここは何処にゃ?」


 姫様が目覚めたらしい。仕草がいちいち猫だな。まあ猫なんだけど。


「ここは『ノア』の医療施設のリフレッシュルームですよ、ビリア姫様」


「おぅ……そなたはナモミじゃったか。そうか、妾は気を失って……」


「ああ、あまり無理をなさらず、安静にしてください」


「何、心配はいらぬ。もう具合はよい。そんなやわな身体はしておらん」


 そういって上体を起こす。治療をしたとはいえ、やはりこの姫、なかなかタフネスだな。


「はぁ~……フラれてしもうたわ。あんなにも回りくどく妾をフるとは、ゼクラめ。かなりの大物じゃな」


 やっぱり引きずっているらしい。


「会ったばかりなのに、そんなに好きになれるものだったのかな?」


 とか、他人事のように言ってみたりする。


「ニャハハハぁ、ナモミ。おぬし番いのくせに分からぬか。あの男、かなりの豪傑じゃったぞ。この身で受けて分かったぞ。妾の好みじゃと」


 物凄く上機嫌そうだ。やっぱりこの姫とは少し価値観が違うようだ。


「強きものこそが全てじゃ。妾はゼクラに完膚なきまでにしてやられた。スリープで多少なり衰弱していたとはいえ、万全でも敵うまいて」


 自分がやられた話だというのにえらいまた武勇伝のように語る。


「世間は銃器だのなんだの、武装を持って虚栄を張るものの多いことよ。じゃが、ゼクラはその自身の鍛え抜かれた武力を持って、この妾を退けた。あれぞまさに豪傑じゃ。身分をひけらかすあの忌々しい許嫁とは違う」


 めちゃくちゃうっとりとした顔をされてしまった。本気で恋をしている乙女の顔だ。全く知らない相手ではあるけれど、全く相手にされていない許嫁の犬王子さんに少し同情する。


「して、ナモミはどうなのじゃ?」


「え?」


「妾に答えさせておいてそれはなかろう。ナモミはゼクラの何処を好いておるのじゃ?」


「え、あ、いや、その……」


 急に振られてしまうと言葉に詰まってしまう。


「妾の目と鼻は誤魔化せぬぞ。にゃふふ……っ♪」


 こう見ると、姫様も年頃の女の子なんだなと思わされる。さっきは恐そうな猛獣のイメージだったけれど、こんなにも可愛らしい笑顔もできるのか。


「妾が気付かぬと思うてか? 先ほどゼクラにすり寄ったときのナモミの視線。あれはまごうことなき嫉妬の眼じゃった。番いがとられるのがそんなに嫌だったのかのぅ?」


 露骨にニヤニヤと言われる。意外と小賢しいぞ、この猫。


 ふぅ……と、一息つく。嘘つく必要もなく、隠すことでもない。意地をはったところで何がどうなることでもなし。


「あたしはちょっと姫様が羨ましいかな」


「うにゃ?」


「だってあたし、姫様みたいに素直に好きだなんてそんなに言えないもん。まだ会って間もないのに、何が好きか、何処が好きか、はっきり言えるなんて、やっぱ羨ましい」


 ふと思い出すのは、まだ記憶には新しい、ゼクとあたしが出会った、そのときのこと。


「あたしね、姫様と違ってゼクのこと、最初は大嫌いだったんだよ」


「それはまた何故じゃ?」


 話せば長いような、短いような、そうでもないような。


 最初の出会いはあまりにも唐突だった。七十億年もの長い長い眠りから覚めて、プニーから最初に聞かされた言葉はセックスしろ、なんていう寝ぼけた頭も弾けんばかりの戯言。


 しかも相手は誰だか分からないけど、男だから問題ない、って問題だらけの発言に押されて、そして、言われるままに連れていかれてそこで出会ったんだ。


「ビリア姫にとっての許嫁みたいなものかな。勝手に決められて、婚姻よりも先に子孫繁栄のためだとかさ、あたしの意思も関係なしに。相手のことどころか、お互いに何も知らないのに、だよ?」


 人類が滅亡するから、だからセックスしなければならない。今、聞いたって冗談のようにしか聞こえない。


「姫様はこう言ったよね。王族の血を絶やさないためにゼロから建国する覚悟でスリープに入ったって。凄いよ。立派すぎるよ。あたしにはそんな覚悟とてもできない」

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