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ぷらとにっく・ぎゃらくしぃ  作者: 松本まつすけ
Episode.3 Remain remember

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やってしまった (4)

 露骨に納得した様子を見せないのは、キャナとエメラくらいのもので、プニカは相変わらずそしらぬ顔、ジェダとネフラも同様にそれがルールであるならばと黙認しているようには見える。


「で、結局のところ姫を届けたらどのようにするつもりなのでござるか? 他国の民衆を丸ごと敵に回すというのであれば拙者も容認できぬでござるが」


 とはいえ、そのまま「はい、分かりました」という姿勢でもないようだ。さすがに考えもない行き当たりばったりの無計画な話には付き合えないだろうしな。


「事は秘密裏に行い、国の上層部に掛け合ってしばらく隠匿してもらう。姫には窮屈な思いをさせるがな」


「国の情勢が最悪なのにでござるか?」


 当然のように鋭いところを突いてくる。


「悪いが、こちらも慈善事業で動いているわけじゃないからな。面倒を見るのはそこまでだ。それに彼女は王族だ。後継者がいないともなれば、彼女が新しい帝王となる。辛い話だが、彼女の国のことは彼女がどうにかするしかない」


 と、非道のように聞こえるが、これでかなり譲歩されている方だ。むしろ、そこまでする必要はない、と訴えかけてくる視線二つが未だ痛い。


「うぅむ……確かに」


 どうにかネフラには受け入れてもらえたようだ。


「ちなみに調べあげたところによると、現在政権を握っているのはブーゲン帝国の元大臣と家臣であります。復興に貢献したものの、未だ国民からの支持は前国王に依存している状況であります。満を持して正式な即位式もまもなく開催されるとか」


 さらっとジェダがいつ調べたのかも分からない情報の報告をしてくる。またなんとも内部事情に詳しい。むしろ、そんな情報を一体どのルートで調べあげたんだよ。


 しかも思っていたよりも切羽詰まってないか、それ? 一刻も早く姫を帰す必要があるじゃないか。


「なら、なおさらだ。姫には王になってもらわないとな。早急さっきゅうにな」


 キャナとエメラが苦虫でも噛み潰したかのような複雑な顔をする。他に対応策が出てこないらしい。これが最善策ではないことは確かだが、最も厄介ごとの少ない方法であることも確かだ。


「ところで、ビリア様を『ノア』に受け入れるという考え方もあるのでは?」


 却下、といわんばかりに多方面から睨みが飛んでいく。プニカ、やはりお前は空気の読めない奴だよ。この期に及んでその発想はないだろうよ。


 何のために今みんなここで集まってもらって苦い顔して知恵と意見を絞っていると思っているんだ。国を支える責任ってものを軽く考えすぎだろう。


「なら、採決をとりたい。挙手で頼むぞ」


 直後、ビリア姫は送り届けられることに決まった。



 ※ ※ ※



 宇宙空港にあるドック内にて、急ピッチで工事が執り行われていた。


 見る見るうちに、オンボロの運搬船だったはずのものが、何やら透明感のある小型の高速船へと変貌を遂げていく。ステルス加工とかいっていたが、何とも視認しづらくなりつつある。


「そこ、透明度をもう少し調整ッス」


「了解でござる」


 エメラが合図を送ると、パッと透明感のなくなった船が全容を現わす。これが完成すると、外観は元より、レーダーなどからも察知できなくなるらしい。


「ゼクラ殿、こちらのパッチでスーツのアップデートするであります」


「ああ、分かった」


 横からジェダにプレートを手渡される。端末に向けてかざすと、次の瞬間には俺の手が消えた。手どころか、足先から着ている服に至るまで、視界の中に俺の身体というものが映らなくなった。


「なるほど、上手いこと隠れるものだな」


「スキャンゴーグルも手配しておいたのであります。そちらを起動するであります」


 見えないので分かりづらいが、感覚で端末を操作してみる。すると、目の前にフィルターが掛かり、今消えた自分の姿が見えるようになった。


「これで同じステルス同士なら姿を確認できるということか」


 隠密に事を運ぶには最適だろう。何せ姿を消せるのだから。だが、これだけでは計画の遂行には足らない。


「ブーゲン帝国との通信についてはどうなっている?」


「難航中であります。やはり開通は難しいかと。現地の然るべき場所で手順を踏まないことには外部から容易に察知される危険性が高いのであります」


 やたら内部事情に詳しいニュースを引っ張ってこれた割には、そういう深いところではあまり融通が利かないらしい。そのまま上層部と通信一本でもとれたのならもっと簡単に事が運べたのだが。


 さすがに「今から姫を連れて帰ります」なんて通信を周囲にバレたらとんでもないことになるのは目に見えている。下手したら例のサンデリアナ国とやらに察知されて襲撃に遭う、はたまた目を付けられるなんてことにもなりかねない。


 こちらは秘密裏に姫を送り届け、ひっそりと去る。民衆やその周囲には俺達の存在を認知されないまま、ビリア姫が王へと即位されなければならない。


 実際に王になるかどうかは俺達の関与するところではないのだが、現状、ビリア姫以外のものが王になろうとしているということは、ビリア姫から政権が剥奪されるということになる。


 それで民衆が納得してくれるのなら何ら問題ないのだろうが、そうは問屋が卸さない。相手は帝国。王が国を統べる土地。王の信仰があってこそ成り立つ。


 情報によれば、まだ前王への依存が強いらしい。ここで王族以外が即位されるなどと言われて黙っている民衆はどれだけいることだろう。


 暴動だけに留まるのだろうか。


 その裏でただの猫と化したビリア姫がのうのうと生きていたらその矛先は一体何処に向くのだろう。間違いなく、俺達の方だろうな。


 そうなると、ビリア姫は生涯を世間の陰で過ごしてもらわなければならない。当然それを俺達がカバーする役回りになる。スリープから起こした責任ってヤツだ。


 そんなことできるわけがない。


「ゼクラさん、なんとしてでも姫を送り届けるッスよ」


 緊張感のある、ピリピリとした口調で言われてしまった。


 王の即位がどうとか、民衆の暴動がどうとか、小難しい話をあげてみたが、これもほんの一部に過ぎない。悪いパターンの話はこの他にも無数にある。これから行う計画にもリスクがないわけじゃない。


「分かっている。成功を祈るしかないな」


 俺は運搬船、改め護送船の完成を眺め、暗鬱な気持ちを紛らわした。

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