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ぷらとにっく・ぎゃらくしぃ  作者: 松本まつすけ
Episode.1 Billions years later
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そのまま作っちゃう感じ? (2)

「先ほども申し上げた通り、規定により生き物の捕食等は禁則事項とされていますが、これらは規定外の扱いとなりますので当然認可が降りております。しかし動物性のたんぱく質という点には違いはありません」


 そんな解説よりも、ナモミがとんでもなく凄惨な表情をしていることに早いこと気づいてやれ、プニカ。


「ま、まあ、ことに食べ物に関してなら肉類とかだけじゃないからな。農業ってのもあるぞ。野菜とか穀物とかの栽培な」


「へ、へぇー、そういうのもちゃんとあるんだぁー。は、畑なんかもこの『ノア』にあったりするのー?」


 酷く青ざめたナモミが助け舟に全力で助走つけて飛び乗ってくる。ぎこちなさがメンタル面を如実に表しているが。


「はい、勿論ございます。土壌に種を蒔いて栽培する古来よりある農業を行っております。中には効率化のために手順を簡略化するものもありますが、『ノア』では品質や味を追求した結果、地球由来の手法を用いています」


 俺の時代とか丸いコケみたいなモッサモサな野菜の栽培が流行していたような気がする。土で育てたものと違ってかなりそっけない味だった記憶しかない。


 そんな紙クズみたいな野菜でも栄養摂取には十分な基準を満たしていたからタブレット化して常用する人もいたっけかな。


 さらに稀なケースではコケのままもしゃもしゃ食べるのが主義と豪語する人も。少なくとも俺自身はレーションなどに加工したものくらいしか口にしたことはない。


「農業の風景はこのような感じになります」


 またお前は断りなしにポンと映像資料を出してきやがるか。


 まあ、この映像ならさっきほどよりショッキングなものはないだろう。


 規則正しく耕された土のレーンの上を並ぶように青々しく瑞々しい野菜が生えているだけの映像だ。


 そしていずれも異質な形状の野菜でもない。


 どう見てもコケではないし、コケであったとしても先ほどのインパクトには劣る。


「はぁ~、なんだか意外ね。野菜とかは普通に栽培してるんだ」


 一瞬おっかなびっくりながらナモミも平然と見れている辺り、まあこれくらいなら普通の光景なのだろう。


 何十億年も前から受け継がれる手法がこうして目の当りにできていることに素直に感心し、驚いているようでもある。


 考えてみても凄いものだ。


 俺も地球での農業風景など見たこともないし、今見ている栽培風景の映像を当たり前として見ているが、当の地球人であるナモミまでもが違和感なく見られているということは、本当にこれは地球の農業と何ら変わらないということか。


「このように昼の時間帯は光合成のためサンライトを浴びせ、夜になったら消灯し、効率よく……」


「ちょ、ちょっと待って」


 なんだ、唐突にナモミがストップを掛ける。今の内容に変なことがあったのか。


「なんでしょうか、ナモミ様」


「今、物ぉ凄く気になったことがあるんだけど。えっと確認。太陽ってこの『ノア』から観測できるの?」


「それは恒星という意味でしたら、観測することはできませんね」


「じゃあ、時間ってどうなっているの?」


「と、言いますと?」


「昼とか夜ってのはさ、太陽の陽射しで決まるもんでしょ。地球は太陽の周りを公転してて、丁度太陽の当たる明るいときを昼、当たらなくて暗いときが夜って感じでさ。太陽がなかったらどうやって時間が分かるの?」


 正直、ナモミが何を言っているのか理解に遅れた。


 プニカもおおむねそうだったようで、珍しく思考が止まりかけたかのような顔を浮かべていた。


 地球ではそんな手法で時間を計っていたとは驚きだ。


 てっきり当時にもデジタル時計なるものが開発されているものだと思っていたが、さしもの俺の勉強不足も大概だったな。


 七十億年前の計測法を事細かに把握している方が少数だろうが。


 しかし、地球は太陽の周りを回っていたということは当然知っているが、完全な球体の太陽と異なって、確か地球は楕円形ではなかったか。


 そんな状態で日差しを基準に時間を計測したら徐々に時間の幅がズレていくのではないだろうか。


「ええと、率直に申し上げますと、時間というものはおおよそコロニー時計によって計測されております。これはコロニーそれぞれで異なるものです」


「太陽ないのに昼と夜に分けてるのも不思議な感じがする……」


 あまり深くは考えたことはなかったが、夜に消灯するのは地球の太陽の動きを擬似的に再現していたということになるのだろうか。環境を変えない工夫の一つなのかもしれない。


「これは活動時間の制限の意図もあります。人間には休息が重要ですから。昼の時間帯に活動し、夜の時間帯に休止する。これは地球でも同じだったと思います」


「ま、まあそうね」


「コロニーの規模によっては昼や夜の時間帯がズレることも珍しくないな」


「うぇ? そうなの? それ困らない?」


「測量時計というのもある。コロニー区間での移動が多くなれば時間のブレも酷くなっていくからな。移動した当人の単純な経過時間や移動距離から実質的な時間を計るんだ。まあそれでも個人の時差ボケについては悩みどころだが」


「うぅぅぅ、また難しくてややこしいこと言ってくるぅぅ」


「極端な話にしてしまえば、ここでの1年と、他のコロニーでの1年は異なる場合がある、って言い方をすればいいか? 要はソレの帳尻合わせだ」


「あー……、ぅー……? んー……? ぁー?」


 大丈夫か。そろそろ情報量で思考が追いついてこなくなってきたのか。


「あのさ。あたしって、七十億年ほど眠ってたって話だけど、それって事実なの?」


「いきなりまた何を言う。まだ気になってるのか」


「いやぁー、そうじゃなくてさ。時間の経ち方が場所? というかコロニー? とかで違うんだったらさ、この七十億年って何処から出てきた数字なのかなぁって」


「確かに七十億という数値は実際は正確な数値ではありません。誤差があることは間違いないでしょう。この数値は回収されたネクロダストの記録から推測されたものです。ナモミ様の場合、特に事細かに記録がされていましたし、それらを加味した上で弾き出された数値になります」


 ナモミが頭からネジの飛んだような顔をする。


「まあ、例えば物体は光速になると時間経過が止まるというが……ネクロダストが何億年単位で光速移動を継続しなければ大げさなズレにはならないだろうし、わざわざそんなことをする意図もないな」


「ですので、あまり深く考えない方がよろしいと思います」


「そ、そういうものなの?」


 すっかり目を回した顔でナモミが辛うじて言葉を発した。


「そういうものです」


 まるで子供をあやす母親のようにぴしゃりと言ってのける。


 納得しようがしまいが、まあそういうものなのだとしか言いようがないわけだ。


 やれやれ。

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