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ぷらとにっく・ぎゃらくしぃ  作者: 松本まつすけ
Episode.3 Remain remember

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子を孕まさせろ! (5)

 ブーゲン帝国なんて今初めて聞いたものだし、一体どんな国なのか、どういう立ち位置にあるのかなんて知るよしもないが、目の前の猫姫様にとっては自分の国の話。それが攻められたとあっては気が気じゃない。


 きっと内心、聞くのも怖いのだろう。


 気丈に振る舞っているけれど、ゴーグルを使うまでもなく隠しきれていない。


「ボクが答える義務はないんスけど……」


「頼む」


 間髪入れず力強く言う。


 さすがにここまで強く言われると断りづらかったのか、エメラちゃんも苦そうな顔をしつつも手を大きく振る。端末を起動させたらしい。


 目の前にモニターがふわぁんと出現する。いつでもどこでも好きなところでこういうのが出せるのは便利だなぁ。今度プニーに使い方とか教わってみようかな。


「まぁ、ボクも無責任に口を滑らしたのが悪かったんスけどね……」


 はふぅ、と溜め息交じりに宇宙空間の立体映像を手配していく。ついでに室内の電灯も元の通り薄暗くなり、ちょっとしたプラネタリウムと化した。


「まず、ブーゲン帝国は現在もあるッス。おそらくビリア姫の知っているような状態じゃないと思うッスけどね」


 猫姫がゴクリと唾を飲み込む。緊張が走っているのが傍目から見て分かる。


「ポッドのスリープ期間や収集した情報から算出してみたところ、ブーゲン帝国が攻められたのは今より大体一年前。この数値はこのコロニー『ノア』換算ッスね。ああとビリア姫以外にも分かるように言っておくとこのブーゲン帝国というのは惑星『サイプレス』からやや離れた位置にある惑星『フォークロック』にある国のことッス」


 立体映像からマーカーが伸びて位置を指し示す。


 惑星『サイプレス』というと確か少し前にもミーティングで話に上がってたヤツか。今この『ノア』は『サイプレス』の衛星になっている……んだったよね?


「ビリア姫は、もう分かってる話だとは思うッスけど、ブーゲン帝国と同盟を組んでいた隣国、同じく惑星『フォークロック』にあるサンデリアナ国が互いに結んでいた条約が破られたことが発端となり、戦争まで発展し……」


「もうよいっ! 妾が聞きたいのはそこではない……」


 まだ話の頭すら始まっていないところだが、姫様は遮る。ぷるぷると震え、溢れ出てしまいそうな感情を押し殺し、エメラちゃんを睨み、懇願する。


「我が祖国が今、どうなっているのかを教えるのじゃ!」


 トラが吠えたのかというくらい強い慟哭。目元が光って見えるほど涙ぐんでいる。


「ぁーと……」


 とてつもなく言いづらそうな顔をしている。あたしは世界情勢も宇宙情勢もゼロといっていいくらいに疎いけれども、もう大体察しはついた。


 エメラちゃんが宙をスワイプしてモニターを切り替える。プラネタリウムからガラリと変わり、周囲に違う映像が流れ始める。


 まず真っ先に目に付いたのは瓦礫の平原だった。先ほど『ノア』の外で見てきた岩場など比較にならないような、酷い有様だった。何が起こったのかはもう説明された通りだ。それにしたって、痛ましい光景が広がっている。


「復興は大分進んで、生活環境はある程度は整っているらしいッスけれども、まあ、その見ての通りッスね……」


 首都の近辺はさほど荒れていないのか、あるいは復興された後なのか、瓦礫も多くはなく、都市部らしい姿をしていた。それでも戦争の爪痕は隠しきれない。


 食い入るように、ビリア姫がその光景を見る。穴が空きそうなほどに。


 町の様子が映る。やはり住民も獣人ばかりなのか、何処を見ても二足歩行の猫の姿がそこかしこに闊歩していた。たくましく日常を生きている様が見てとれた。


 じくり、と胸の何処かが痛んだ気がした。


 この『ノア』での生活があまりにも豊かすぎて、平穏すぎて、平和すぎて、心の何処かが柔らかく、脆くなっていたのかもしれない。


 その外ではこんなにも凄惨な場所があるということを目の当たりにして、脆くなった心を押しつぶすには十分すぎるくらい衝撃が走った。


 勿論あたしは帝国がどうとか、戦争がどうとか、なんて話には微塵も関わってはいない。かすってもいない。対岸の火事だ。


 だが、当事者であるビリア姫が、うつろな瞳でその映像を眺めているのを見て、何も感じないわけがなかった。


「父上と……母上、は……?」


 ポツリと呟く。訊ねていながらも、答えを知っているような口ぶりだ。


「……残念ながら」


 あのネクロダストには中身が入っているポッドがビリア姫の一つしかなかった。他は全て空っぽだった。


 どうしてたった一人だけしか乗っていなかったのか、その理由は分からないけれど、無事に脱出できたのが一人だけだったということは、残されたものはどうなっているのか、想像に容易い。


「私はどうしたらいいのでしょう?」


 空気を割るようにプニーが言う。あたしと同様に蚊帳の外にいたからそう言いたくなる気持ちは分かるけれど、もう少し空気を読んでほしい。


「そち、妾の助けになってくれるのか?」


 変な勘違いをされたらしい。プニーはそういう意味で言ったわけじゃない。これは確信を持って言える。


「……? もし、私にできることなら助力いたしましょう。申し遅れましたが、私はプニカ。この『ノア』の管理を任されているものです。私の権限をもってすれば船を出し、惑星『フォークロック』まで送り届けることも可能です」


 話を聞いていないようでしっかりと聞いているようだけど、プニーの提案はどうなのだろう。


 つい先ほどまで住民として受け入れるつもりでいたけど、実は人類じゃなかったから繁栄計画に影響ないし、元の住処に戻そう、という発想にも聞こえなくもない。なんとなく、プニーはその感覚でものを言っている。


「それは願ってもないことじゃ。よきにはからえ。……といいたいところじゃが、今すぐに帰るというのは無理じゃな」


「そうだよね……、せっかく逃げてきたところにまた戻るのも危険だし」


 何のためにネクロダストを使ってまで脱出してきたんだ、ということになる。それに国の情勢が劣悪な中、お姫様一人戻って状況が改善するものなのか。


「いいや、そこは問題ないであろう。事は沈静化しておるようじゃしな」


 意外にも冷静な言葉を紡ぐ。あの状況を見てその言葉が出るのか。

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