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ぷらとにっく・ぎゃらくしぃ  作者: 松本まつすけ
Episode.3 Remain remember

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子を孕まさせろ! (4)

 ガタッと重いものが揺れる鈍い音が響いた。


 ふと見ると目の前のポッドの蓋が空いていた。


 中身は空っぽ。何も入っていないし、誰も眠っていない。


「上だ!」


 ゼクが叫ぶ。慌てて見上げると十数メートルの高さはあっただろう高い天井に何かが張り付いているのが見えた。


 室内は明かりはついているものの、生活スペースではないためか薄暗く、姿をハッキリと確認できない。


「照明のレベルを上げるッス!」


 そう言い終えるや否や、室内がパッと明るくなる。咄嗟にゴーグルの暗視機能を使おうかともたついていたら正体不明の生物の姿を見失ってしまった。


「ふしゅううぅぅぅ……っ!」


 なんだろう。とてつもなく荒い吐息が何処からか聞こえてくる。視界の外、何処かから威嚇しているのか。


 判断が全くできない。頭がパニックに陥ってしまって、どうしたらいいのか分からない。天井にも、床にも、右、左、何処にも姿を確認できない。


 ここはただでさえポッドが大量に並んでいる。死角なんていくらでもある。


 ガン、ガン、ゴッ、バタン!


 頭の整理がまるでできていないというのに、周囲からは荒々しい物音がステレオで鳴り響いてくる。


 室内を、得たいの知れない何者かが暴れまわっている。


「グルルルルウウゥゥゥ……」


 車のアイドリングかと思うような低く、重い唸り声。威嚇のソレとは違うような気がしたが、なんなのかを判断するまでもなく、周囲にまたけたたましい騒音が轟く。


 ガコッ、ボコッ、グギャッ、バッコン。


 何の音? 何が起こっているの?


 何か、途中、ケダモノの悲鳴のようなものが聞こえたような気がする。蹴飛ばされた子犬の鳴き声の、ちょっと可愛くないバージョンみたいな。


「なんだ、コイツは?」


 ハッと向き直ると、いつのまにかちょっと距離を置いた先で、ゼクが何かを抱え込んでいた。正体不明のソレを捕獲したらしい。


 エメラちゃんはソレに向けて腕から銃口を生やし、プニーはまるであたしのようにポケーっと突っ立っている。


 暴れまわっていた未知なる生命体はどんな容姿をしているのだろう。恐る恐る、そこに視線が伸びる。


 まず、目についたのは毛むくじゃらなものだった。真っ先にもふもふとしたイメージが飛び込んできた。


 かと思えば、顔立ちは妙にスッキリしていて見えた。てっきりタコみたいなグニャグニャなものを想像してきたから逆に驚いた。


 頭のてっぺんからは三角の耳がぴょこぴょこと動き、体の下の方からは細長い何か、尻尾のような、というか尻尾そのものが振り子のようにフリフリと動いていた。


 あれ? これってあたしの知識の中に該当するものがあるような。


 猫?


 ひょっとして、もしかして、猫?


 キャット的な猫?


 ただし、あたしの知っている猫と呼ばれる生き物とは大きくことなる点がある。


「うううぅぅぅ……貴様ら、無礼なるぞ! 妾と知っての狼藉かっ!」


 それは、女の子だった。辛うじて人の形をした、猫の女の子だった。


 あたしの記憶の中に猫型の女の子と遭遇した経験はなかったが、こういうのに該当する言葉はあった。


 人と獣の間の存在。読んで字のごとく獣人。じゅーじん。


 現実で目の当たりにしたことはないが、目の前でゼクの腕の中、ワタワタと抵抗している女の子は猫の獣人としか思えなかった。


 そうか、人類ではないのか。猫だから。


 というか、この時代では猫も進化して人になっているのか。


 思いのほか、膨大な情報量が雪崩れ込んできて、あたしの思考はパンク寸前だ。


獣人族ブルートゥ……」


 エメラちゃんが小さく呟く。聞いた覚えはあるけれど、全く知識の中にない、謎の単語だ。


「ふしゃああぁぁ」


 猫の女の子は大層不機嫌なご様子だ。しかし、ゼクの怪力の前には無力なようで、次第に力関係を理解してか、観念してか、ぐったりと頭をもたげる。


「あたしはナモミ。突然のことで驚かしちゃってごめんなさい。あなたは?」


 興奮状態が冷めてきた頃合いで、なるべく優しく語りかけてみる。あまり上から目線にならないよう、膝を折って目線の高さを合わせつつ。


「……(わらわ)はビリアじゃ」


 ふと、ゼクの方に視線を泳がせて、渋々と答えてくれた。見た目の割に低く渋い声だ。重々しいと言った方が適切か。何処と無く気品を感じる。


 しかし、暴れまわった割になんだかずいぶんと素直に名乗ったね。


 いや、ゼクには敵わないということを理解して抵抗は無意味と察したのかな。


「貴様らは、敵国兵ではないのか?」


 ピリピリとした口調だ。


「敵国というものではないだろうな。ここは現在何処の国にも属していない。一応マシーナリーの保護されている区画のコロニーだが、敵対組織はないはずだ」


 ゼクが静かに優しく言葉を綴り、ビリアと名乗った女の子を離す。すっかり観念した様子で抵抗の意思はないようだ。


 その場にぺたりと腰を下ろす。


 まだ真横でエメラちゃんも銃口を突きつけているし、逃げようもない。


「えっ、ブーゲン帝国のビリア姫……?」


 エメラちゃんが何かを読み上げるように呟いた。何処かからか情報をダウンロードしてきたらしい。


「お姫様?」


 思わずオウム返ししてしまった。急にファンタジーめいた単語が出てきた。


「そうじゃ。妾はブーゲン帝国のビリア・ノルウェージャンフォレスト・ヴァナディース二十三世なるぞ。といってもその様子だと貴様らは知らないようじゃがの」


 猫耳のじゃロリもふもふプリンセスだなんて、またえらく属性を盛ってきてるな。


「それで、お姫様。なんであなたはあんなポッドなんかに眠っておられたので?」


 そういって目の前でゼクはパッカリと開いた空っぽのポッドを指す。


 ビリア姫は小声で「ええと」と漏らす。あまり覚えていないらしい。まあ、寝起きなのだから仕方ないといえば仕方ない。


 さっきのは、突然目覚めさせられたから興奮して襲いかかってきたのだろう。寝起きに機嫌が悪くなるのはまあまあ珍しいことでもないし。


「ブーゲン帝国が攻められたからッスよ」


 本人が答えるよりも先にエメラちゃんがまるでニュースをネットで調べてきたかのように言う。さすがはマシーナリー。プニーよりずっと早い。


「のぅ、そこの翠の。今はいつじゃ? 妾の祖国は無事なのか?」


 ぺたんこ座りのまま、エメラちゃんに向き直る。


 姫特有のソレなのか、態度がデカイな。だが、声は怯えたように震えている。

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