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ぷらとにっく・ぎゃらくしぃ  作者: 松本まつすけ
Episode.3 Remain remember
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子を孕まさせろ! (3)

 しかし、このゴーグルを持ってしても目の前にある鳥の彫刻のようなソレは岩であるという情報しか教えてはくれない。いよいよプニーの発言があやしくなってくる。


『私も知らない型ですが、おそらく……』


 そういってプニーが鳥の大岩に触れる。丁度腹の位置かな。おなかをさすさすとさするようにして何かを探る。


 するとお腹の部分が音もなくへこんで内側に空洞が生まれる。音がなかったのはまあ真空だったからだろう。空気があったならガッコンガッコンと派手な音を立てていたのは間違いない。


 鳥のお腹は立体パズルのようにガコガコと勝手に形を変えていく。もうこの時点でこれがただの大岩であることが否定された。


 これは間違いなく機械だ。それもとんでもなく精巧に造られた。


 これがただの大岩ではない。そう認識した途端、目の前のソレが鳥の彫刻なんかではなく、飛行機のような何かを模したものなのだと気付いた。先入観というヤツか。


 岩のような外見でカモフラージュした飛行機だ。ようやくして、そう見えてきた。


『ま、まさか本当に……? マジッスか?』


『まだ我輩のセンサーは反応してないでありますが……いや、内部に今生体反応を確認したであります。数は一体。仮死状態のようであります』


 エメラちゃんもジェダちゃんも驚きっぱなしだ。さっきの今まで岩としか認識していなかったものが突然機械のかたまりに変貌したのだからそりゃそうなんだけど。


『でもなんでプニーには、これがネクロダストだって分かったの?』


 当然の疑問を振ってみる。


『ネクロダストは本来窮地に陥った場合の一時しのぎの措置としてスリープモードが搭載されていますが、窮地をしのぐためにはただスリープするだけでは本末転倒。周囲に位置を特定されないためのカモフラージュ機能もあるのです』


 多分この辺はあたしでも知っている内容のはずだ。


『しかし当然のことながら窮地をしのいだ後、蘇生する必要があり、そのためにはカモフラージュを看破しなければなりません。そのツールが私の端末に搭載してあったのです』


 割と意外でもない、妥当な答えがもらえた。プニーも長年、ネクロダストを探し続ける苦行とも言える日々を生き抜いてきたのだ。


 なら、そのためのツールを持っていない方がおかしいという話か。


『でもそういうのって、エメラちゃんやジェダちゃんにはないの?』


『簡単に見破れたら苦労はしないッスね。カモフラージュプロテクトはかなり複雑に構築してあって、本当に限られたものにしか信号を受信できないようになっているんスよ』


 不可能があるという事実を自らの口で説明しなければならないことに不満を持っているようなバツが悪い顔で答える。マシーナリーでもダメなものは存外あるらしい。ふてくされているのを悟られないようにしているノーダメ顔は一周まわって可愛い。


『では、こちらはどうするでありますか?』


『まず空港まで運び、状態を確認します。蘇生を検討しなければなりません』


『わ、分かったであります』


 ジェダちゃんはあまり釈然としないような顔だ。横にいるエメラちゃんもまた同様。二人はあくまで絶滅危惧種保護観察員。読んで字のごとく、絶滅が危惧されている種を保護し、観察するのが仕事。


 じゃあ、ネクロダストってなぁに、って話で、端的に言えばあれはもう命の境界線を曖昧にするものなのだ。


 箱の中にいるのは生きているものなのか、それとも死んでいるものなのか。


 生きているものを守る立場にいる二人には、死んでいるものをどうにかする権限がない。とてつもなく、不安定と言わざるを得ない。確定のしないソレをどうするべきなのか、明確な決断が下らない、そんな状況なんだ。


 かといって、目の前のソレを宇宙のはてに放り投げるわけにもいかず、複雑すぎる心境のまま、『ノア』の中へと運ばれていった。



 ※ ※ ※



 別にあたしはついていく必要もなかったのでは。


 そう気付いたのは数秒前。普段行き交いしている明るい住宅区とうってかわって薄暗い倉庫のような場所に立っていた。


 ここはネクロダストを収容している施設らしい。それはつまり言い換えれば倉庫なんかではなく、霊安室なのでは。


 自分の意思、自分の足で来ておきながら今更不気味さに身体が恐怖に震えてきた。心なしか手足も物凄く重く感じる。が、つい先ほどまで無重力空間にいたからこれはそのなごりか。


「で、どうなんだ、プニカ」


 話を聞いて駆けつけてきたゼクが言う。まだネクロダストの中身についてはあたしも聞かされていない。


 この場にいるのは、そこにいるゼクと、あたしを含めて宇宙から帰還してきたプニーとエメラちゃんの四人になる。ジェダちゃんは例の作業が完了次第また戻ってくるとのことで、ネクロダストを運び込んですぐまた宇宙へと飛び立った。


 一緒についてきたあたしが今一番状況を分かっていないのかもしれない。


 今、目の前にあるのは怪鳥の彫刻だったものの中から運び出されたポッド一つ分。他にもいくつか同じようなポッドがあったけれど、残りは空だったらしい。


 この中には間違いなく、何者かが眠っている。


「一先ず、いくつかのプロテクトを突破できたので解析が進みました」


 しきりにプニーはボード状の端末をカタカタとタイピングしながら色々と調べているようだった。


 ちなみに、エメラちゃんはすぐ側で見守っている。保護観察員という立場である以上、ネクロダストをどうこうする権限もないからだ。


 もしそんな権限があったなら、今目の前に広がる無数の収容されたポッドを存外いとも容易く蘇生させていただろうし。


 なんだか歯がゆそうだ。


「状態良好。ごく最近のもののようです。蘇生のための復元の措置も不要。現在、覚醒に向けて快復進行中です」


 相変わらすの無表情で、ほのかに喜びの感情をこぼしていた。


「しかし、一つ、問題が」


 表情は変わっていないが、何か険しくなった気がする。


「こちらに収容されているものは、人類ではありませんでした」


 あたしはふと、ドキリとしてしまった。人間ではないものが、この中に眠っている。じゃあ一体、どんなものが。何者が眠っているのだろう?


 まさか本当に未知の生命体、エイリアン的なものだったりするのだろうか?


「人類じゃない?」


「ええ、こちらはーー」


 プニーがゼクに向けて何かを言おうとした、そのときだった。

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