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ぷらとにっく・ぎゃらくしぃ  作者: 松本まつすけ
Episode.3 Remain remember
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子を孕まさせろ!

 いつも通りで、普段通り。極めて平和なコロニー『ノア』にて、ささやかながら、といっていいのか分からないが、警報のようなものが鳴り響いた。


「まもなく『ノア』に宇宙ゴミ(スペースデブリ)が接触するッスよ」


 今日の天気でもいうかのように、エメラちゃんが言う。


 そういえば少し前にそんな話をしていたような気がする。そう、あっけらかんと受け止めていると、言葉通りにまもなくして、エメラちゃんが言葉を続ける。


「今、宇宙ゴミ(スペースデブリ)の地帯を抜けたみたいッスね」


 みたいッスね、と呆気なく言う。何かあったのか、あたしにはよく分からない。何か衝撃でもあったのだろうか。


 かつてあたしは七十億年前に地震大国とまで呼ばれた土地に住んでいたことがある。日常的とまではいかないが、小さな地震も大きな地震もそれなりの回数は経験している。


 幸いのこと、命の危機に瀕したことはなかったが、その地震に遭った経験を持って自信を持ち、あえて言おう。


 なんの揺れも感じなかった。家具が揺れるわけでもなく、コップの中の水に波紋ができるわけでもなく、至って平穏だった。


 エメラちゃんのアナウンスが何のことのない独り言だったとしてもそのまま受け入れられる程度には、何のことはなかった。


 逆に驚いてしまうくらいだ。


「え? もう終わったの?」


 などと思わず口に出してしまうほど。


「次の衝突は数十年以上先ッスね」


 確かに、『ノア』が宇宙ゴミ(スペースデブリ)と衝突しても被害はないだろう、なんて話は頭の片隅においてあったが、まさかここまで何事もなかったなんて。


 なんかこう、ちょっとした揺れくらい感じるものかと思っていた。


 まもなく衝突するぞー! 総員、衝撃に備えて何かに掴まれー! 的な一騒動もなかった。拍子抜けといっちゃアレなんだけど、ここはまあ、何もなくてよかったと思っておこう。


「なんか……ちょっと気が抜けちゃった……もっと大変なことが起きると思ってたし」


「この程度で大事になっていたら長生きできないッスよ」


 ごもっともな意見だ。


 つい今しがたまで接触すること自体、頭からすっぽりと抜けていたくらいだ。この程度と言えてしまえるほど、大したことがない話だったっぽい。


「今、観測してみたところ、いくつかの宇宙ゴミ(スペースデブリ)が『ノア』の表面に漂着したようであります」


「まあ予測通りッス。さっさと除去する必要があるッスね。じゃあ、ちょっと外まで行ってくるッス」


 物事が淡々と進んでいく。なんだか事務的だ。


「それって危険じゃないの?」


「一応汚染状態の可能性も考えられるッスけど、相手はただの石っころやジャンクッスよ。それも、何百、何千年という単位で漂流してきたヤツッスね」


 ふと、そのとき、あたしの頭の中に何が過ったかといえば、やはりSF映画のワンシーンだろうか。


 こういう宇宙を漂っていた何でもないガラクタの中から未知の生命体の卵とかが発見されて、回収した直後に急速な成長と進化を遂げて襲いかかってくるという定番のパターンだ。


「なんだったら一緒に来てみるッスか?」


「え? いいの? 仕事の邪魔にならない? まあ確かに興味はあるんだけどさ」


 相手は数十年に一度しか出会うことのないものだ。モノがゴミとはいえ、生きているうちに何度も見られないようなものだ。


 端的に言って流れ星の実物。目の当たりにしたら本当にただの石っころで幻滅してしまうかもしれないけれど、不思議とロマンを感じてしまうところもある。


「なんの。たかが漂着物の撤去程度。それに我輩たちがいれば安心安全であります。ナモミ閣下の杞憂など吹き飛ばしてご覧にいれるであります!」


 ふんす、と力一杯にジェダちゃんがいう。危険でないという保証があるなら誘惑というものが何処からともなく沸いてくるというものだ。


「安全だったら、ちょっと見に行ってみたいかな、なんて」


 煮えきらないが、好奇心は高まる。


「な、なら、わたくしも同行させてもらってもよろしいでしょうか?」


 ここぞとばかりの瞳をキラキラと銀河のように輝かせたプニーが前のめりになる。こういうことに興味はあるようだ。


 好奇心の高さなら誰にも負けないと言わんばかり。


 宇宙ゴミ(スペースデブリ)くらいならかつて宇宙を延々と捜索していたプニーもよく分かっていそうなものだけれども、こういうのは別腹なんだろうか。


「全然構わないッスよ」


「それでは各自、準備を終えたらエアポートに向かうのであります」


 まだ行くかどうか返事も曖昧なままだったけれども、思いのほか、話はトントン拍子だった。



 ※ ※ ※



 改めて思ったのだけれど、そういえばあたしは宇宙空間に出ていくのは初めてのことだった。こういうのってもっと厳しい訓練とか必要なんじゃなかったっけ。


 一応はこれまで二度ほど、『ノア』を離れて『エデン』まで赴いたことはあったけれど、ここまでダイレクトに無重力の真空を漂うのは流石に初だ。


 体中の感覚が恐ろしく解放的で、これまでずっと全身を縛られていたんじゃないの、って思えるほどに、この浮遊感はたまらなく衝撃的だった。


 あたしの知る宇宙服なんてもっとこう分厚い着ぐるみのような重苦しいイメージだったわけだけれども、今のあたしの服装ときたら私服なのだから場違いが凄まじい。


 いやまあ、かの有名なフローラ・ブランドのオーダーメイドなのだからただの私服とはわけが違うが。


 仕組みとしては、なんやらかんやらで酸素の膜を生成しているらしく、呼吸もできるし、暑くも寒くもない適温が保たれている。


 いや、そもそも何? 酸素の膜って。宇宙空間に酸素なんて放出したら凍結するんじゃないの? アレはデマだったっけ?


 少なくとも生身の人間が宇宙空間に出て行ったら気圧がないから血液が沸騰して血管が膨張して破裂しちゃうんじゃなかったかな。


 標高の高い山に登ると気圧が弱くなり通常より低い温度で沸騰しやすくなるアレ。これも厳密には違うんだっけ?


 今のあたしってどうなってるの。考えると怖くなってくる。


 まさに宇宙人。これこそ宇宙人だろう。


 七十億年前の人類が目撃したら合成と疑うような光景なんじゃないのかな。真空を軽装で泳ぐ生命だなんて。


 ともあれ、宇宙空間を漂うという人生初の経験に感動を覚えるのも束の間、先導していっているエメラちゃんやジェダちゃんに遅れないようついていく。

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