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ぷらとにっく・ぎゃらくしぃ  作者: 松本まつすけ
Episode.3 Remain remember
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お・ね・え・さ・ま♪

「なぁー? ゼックンもプニちゃんも酷いやろ?」


 あたしの隣で横になるお姉様がいつものふわふわではない、いつになくもやもやした調子で愚痴ってくる。


 珍しいこともあるものだ。くたくたとした疲労感に浮かされる頭で、あたしはそう思った。


「まさかプニーがそこまで強引にしてくるなんてね。ちょっとビックリかも」


「なぁ? ほんま酷いわぁ」


 聞くところによると先日、ゼクとお姉様が二人きりのときにプニーが乱入してきたらしい。プニーの本能に素直な性格からすれば、まあ、不思議ではないとは思う。お姉様もとんだ災難だったことだろう。


 それよりもゼクが、その状況で悪ノリしてきたという点については聞き捨てならない。なんか羨ましいような気もするし。


 もうちょっとあたしもゼクにワガママを吹っ掛けてみようかしら?


 いやいや、そもそも、そんな他人のプライベートに突っ込んだ話を聞かされることがまずおかしなことなんだろうけれども。


「でも珍しいね、お姉様からこんな話をしてくるなんて」


 しかも、こんな状況で。


 あたしはまたいつものようにお姉様にお持ち帰りされて、いつものように遊ばれるだけかと思いきや、事の終わりにこんなプライベートな愚痴を聞かされるとは思ってもみなかった。


 それほどまでに嫌な出来事だったのか、あるいはそんな他愛もないことも打ち明けるようになったくらい、ちょっぴり親密度が上がったということなのか。


 割とお姉様は一方的に自分の方からベタベタしてくる反面、意外と自分をさらけ出すところまでにいたらず奥手なところがある。


 だってあたし、お姉様のこと、こんなことされるような関係でありながら、知らないことが沢山あるんだもん。


 せいぜい知っていることといえば、超能力者であるということ。身体の何処が一番感じやすいのか。ほくろの数はいくつぐらいで何処にあるのか。そんな程度じゃない?


 あとは、なんだろう。生物学がどうとか、何やら妙な知識が豊富で、そういう感じのことをやってるっぽい。そのくらいか。


 どういうところで生まれたのとか、どういう生活を送ってきたのとか、聞かされたことはないし、聞いてもはぐらかされてばかりだ。


 お姉様にとってあたしというのは、これだけ密に接しても、気晴らしのオモチャくらいの立ち位置だと思っている節はある。


 なんだかんだ、結局いつも強引だし。


 お友だちくらいになれていたのか、ちょっぴり不安に思っていたところもある。それくらいに、お姉様は自分の胸のうちを明かすことはなかった。


「なぁに? ナモナモそんなに珍しい?」


「ちょっ、ちょっとだけ……あひぃっ!?」


 唐突に攻めてくるお姉様の見えざる手。思わずまた仰け反ってしまう。


「ぁん……っ。そ、そこはも、もうダメだってぇ……」


 お姉様が唐突に攻めに入るのは何かを誤魔化そうとするときだ。こうやっていつもはぐらかされる。怒っているのか、ふざけているのか、はっきりとは分からない。


「きゅううぅぅぅ……っっ」


 脳天まで何かが貫いて、目の前がフラッシュした。記憶がなんかもう色々と吹っ飛んでいそうだ。


「はぁ……はぁ……」


 なんでまたあたしは、お姉様の部屋の、お姉様のベッドの上で、服もひん剥かれて悶えなければならないんだろう。誰か理由を教えてほしい。


「ナモナモはええこやなぁ……」


 なでなでされる。まるで寝かしつけられる子供みたいだ。状況的に言えば、お気に入りの人形だかぬいぐるみだかで散々おままごと遊びで振り回した挙げ句、毛布をかけられて一方的におやすみさせられているようなものなのだけれども。


 今更ながら、今更すぎる話ではあるけど、これだけはハッキリと言えることがある。


 お姉様はあたしのことをとても気に入っているようだ。色々と気にかけてくれているところもある。心配もしてくれている。


 それは間違いないこと。でも、それは対等なものとしては見ていない。これも明らかなことだ。


 そして、そしてだ。あたしはどうなのか。あたしの本心はどうなのか。


 これは本人には直接はいえないが、きっとそうだ。


 あたしはどうやら、お姉様のことが好きじゃないみたいだ。


 もし、状況が状況じゃなかったら。


 人類は繁栄していて、お姉様には超能力者の力などなくて、むしろあたしにそんな力がありでもしたら、あたしはきっと、お姉様からそれなりの距離を離しているに違いない。


 人類が絶滅に危機に瀕している「今」というこの状況。お姉様にも何度も助けてもらっているというこの現状、お姉様には多大な感謝の言葉を贈れはするが、お姉様自身は受け入れがたいという本音が喉あたりに引っ掛かってしまっている。


 ありがとう、お姉様。いつもありがとう、お姉様。親切にしてくれてありがとう、お姉様。親身になってくれてありがとう、お姉様。


 だけど、あたしは、お姉様のこと、好きじゃないみたいなの。


 ごめんなさい、お姉様。


「はっふ……」


 大体、あたし、そっちの気はないし。そういうあれじゃないし。そんなんじゃない。ゼクにもプニーにも、エメラちゃんたちにも誤解されちゃってるんじゃない?


 だから。


 だからさ。


 たまには、いいよね。


「んにゃ?! な、ナモナモどないしたん?」


 仕返しくらい、させてもらうよ。


「ふっふっふっ……お・ね・え・さ・ま♪」


 この手に収まりきらない、圧倒的なふわふわ感がほとばしる。むんず、と遠慮なしに鷲掴みにして揉みしだく。


「ふにゃあぁっ!? ちょ、ちょ、ナモナモ?」


 いいなぁ、ほしいなぁ。分けてもらいたいなぁ。もみもみ、もみもみもみ。あたしもほしいよぉ~。


「ほにゃあっ!? ナモナモ、ちょおっ!」


 あたしは一方的っていうの、あんま好きじゃないの。でもお姉様ったら不思議なミラクルパワー使っちゃってズルいじゃない。


 だから、もうそろそろ仕返ししなきゃ気がすまない。そんなところまできている。後が怖い? 知ったことか。もう堪忍袋の緒が切れたんだから。


 お姉様は思いの外、反撃してこない。分かってる。そういうのは分かってる。


 サイコなんちゃらとかいうパワーはある程度の集中力が必要だということを。半端な精神状態だと暴発することもあるけど、度が過ぎると使用不能まで陥る。


 あれだけ何度も使われていれば嫌でも覚える。

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