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ぷらとにっく・ぎゃらくしぃ  作者: 松本まつすけ
Episode.3 Remain remember
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Punica Report (3)

「もう少し談笑と行きたかったところッスけど、今日のミーティングはいつもの性教育のガイダンスは取りやめッス」


 打って変わって神妙な顔つきで、エメラが言う。


「何かあったのか?」


 伝染したかのようにゼクラも顔つきを変える。


「先日の天体観測結果、この『ノア』が近辺の惑星軌道に乗りました」


 プニカの発表に、ナモミはきょとんとした顔をする。重要そうな言い回しのように聞き取れるようだが、あまりその意味までくみ取れてはいない様子。


「今まで自由浮遊惑星やったんやな。てっきりゴフェル系天体やと思っとったんやけど」


 関心するような口ぶりで、キャナが言う。またしてもナモミは思考の何処かを麻痺させた表情を浮かべる。しかし、毎度毎度分からないことばかりの連発で、言うに言えないといった感じだ。


「例の大規模爆発事故で天体が大きく変動したのです。また、ゴフェル系天体も大きく乱れて現在は存在しません」


 ゴフェル系などと言われても、当然のことながらナモミには何のことなのか、そもそも何を示している言葉なのか、分からないに違いない。


「それが今日の主題か」


「惑星軌道に乗ったこと自体は、まあ些細な話ッスね。もう少し込み入ったところがあるんスよ」


 そういってエメラがジェダとネフラに目配せをして、指先でちょんちょん、と宙をタッチするような動作をする。


 すると、ミーティングルームの中央に巨大な何かが投影される。


 白くて丸くて大きい物体。これはこの場にいる全員がよく知っている、コロニー『ノア』そのものだ。そこから少し離れた位置、室内的に言えば壁側の方から何かが突き出てくるかのように迫ってくる。


 あたかも壁の中からボールが生えてきているかのような光景だが、これはあくまで立体映像。おそらくこの巨大な物体こそ、『ノア』が接近した惑星なのだろう。


「この惑星が先の説明にあったものであります。惑星の名称は『サイプレス』。生物の活動は認められない無人の惑星であります。環境も不安定。八万六千二百五十六年ほど前に開拓された形跡あり。ただし、観測目的であり居住は無し」


 ジェダがたった今手配したであろう資料をさも長年研究してきたもののように語り始める。まだ『ノア』に来たばかりで先ほどまでゲートの調整くらいしか携わっていないはずで、その間も一切の打ち合わせもなかったはず。


「以上がこの惑星の簡単な情報でござる。御覧の通り、『ノア』よりも約四倍ほど大きく、今後はこの『サイプレス』の衛星になるというわけでござるな」


 リレーするかのようにネフラがそのままジェダの解説を引き継ぐ。いつの間にかネフラはネフラで投影されている『ノア』や『サイプレス』、そのほか周辺の星々に解説の注釈や軌道を示すマーカーなどを併記させていた。


「で、込み入った話というのは?」


「これであります」


 ネフラがマーカーを目立つようにピカピカと光らせる。その場にいる全員がその先に注目する。そこには惑星にしては小さく、『ノア』よりもずっと小さい、何かホコリのようなものが舞っているように見えた。


「これは、宇宙ゴミ(スペースデブリ)、か?」


「そう、この『ノア』の軌道上に大量の宇宙ゴミ(スペースデブリ)が漂っているのでござる。計算上、このままでいけば数日後には『ノア』はこの中に突っ込んでしまうのでござる」


「ダメージ計算を行ってみたッスけど、まあ軽微なもんスね。ただし、被害は被害。少しビックリしちゃうかもしれない、ってとこッス」


 エメラが軽い感じで流す。


「じゃ、じゃあどうするの? 回避とかするの?」


 ナモミが事態の深刻さをなんとなしに察する。多分話の具体的な内容はまだ頭には入っていないが、それくらいは流石に理解できた様子。


「いえ、回避はできないかと。『ノア』は宇宙を漂うコロニー。宇宙を自在に移動するような推進力がございません」


「その通りッス。まあ、『ノア』そのものをワープさせてしまう、といった方法もあるっちゃあるんスけど、結構な手間も掛かる上に、軽微な被害のためにそこまでする必要性がない感じッスね」


「ここは真っ向から受けて、後は拙者たちで修繕作業にあたるでござる」


 力むようにジェダが拳を合わせる。


「だ、大丈夫なのかなぁ……?」


「ご安心を、ナモミ様。『ノア』もハリボテではありません。過去に累計数千回ほど宇宙ゴミとの衝突が記録されておりますが、『ノア』内部に著しい被害があったという記録はございません。今回の規模も従来のものと大差ありません」


 そこでようやくナモミがホッとする。


 急に今住んでいる場所が得体の知れないものと衝突することを予告されても、それを早々に受け入れるのはそう容易いことではないだろう。


 先ほどから目の前に投影されているシミュレーションの映像も相まって、尚のこと不安が煽られてしまったのだろう。『ノア』が無数の石つぶてに襲われている光景が流れている。


「決して脅してるわけじゃないッスよ? ただこういったことが確定された、というのを予め知ってもらうことが目的ッス」


「ともあれ、数日後、『ノア』に何らかの影響が出てくるということであります。我が輩達もその対応に当たるわけでありますからな」


「重ね重ね申し上げるでござるが、心配御無用。拙者達にお任せあれ」


 三者三様、自信たっぷりに何の問題がないことをアピールする。絶滅危惧種保護観察員という立ち場として、ここで何かしら無視のできない問題を解消できないのであれば、存在意義を否定されるも同義だろう。


「いざというときの保険として、この『ノア』にゲートも手配してあるのであります。万が一、億が一、とんでもないことが起きたとしても、人類の避難場所も確保済みであります」


 それは先ほどジェダとネフラの二人が『ノア』に来るときに使ったもののことだろう。主な用途としては『ノア』と『エデン』を通じて円滑なやり取りを行うことだが、緊急時の脱出口としても使うことを想定していたようだった。


 話の大まかな筋は理解できたのか、ゼクラもキャナも安堵した様子で、幾分か険しい顔が緩む。キャナの方はどちらかといえば、面倒くさそうな話が終わったことに対する安堵だったようにも見えたが。


 少なくとも本日の会議は以上のようだ。

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