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ぷらとにっく・ぎゃらくしぃ  作者: 松本まつすけ
Episode.3 Remain remember
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Punica Report

 プニカ(コロニー『ノア』の管理者。人類)が、ゆっくりと体を起こす。


 そしてベッドから降りると、腕元に付けた端末(この場合、住民に配布されている備品のこと。通信機能や情報収集など様々な機能を持つ生活の必需品)に触れる。すると、パジャマ姿から瞬時にして普段着へと着ているものが変わる。


 とはいっても見た目的には大して変化がないくらいにシンプルなデザインだが。


 続けて、何もない壁に向かって手を伸ばす。


 真っ白く平面的な壁が波打つように揺らぎ、次第に鏡のようなモニターがそこへと出現する。


『おはようございます、プニカ』


「おはようございます、マザーノア様」


 壁からやや突き出して浮いているモニターには、クリスタルのような立体的な映像が表示されていた。


 それはこのコロニー『ノア』のあらゆる面をサポートしているコンピュータ、マザーノアだった。


 この『ノア』において管理者権限を与えられたプニカの司令塔のようなものでもあり、はたまた親代わりのような存在でもある。


 ただし、そこまでの情緒はコンピュータであるマザーノアに備えてあるかどうかは分からない。


『今朝の目覚めはいかがでしたか?』


「良好です。今日のスケジュールをお願いします」


『こちらが本日のスケジュールです』


 マザーノアの表示されているモニターとは別に、表らしきものが表示される。


 淡々と、飄々と、感情があるのかないのか、曖昧な会話を酌み交わしながらも、プニカにとってはいつも通りの朝の時間が過ぎていく。


 新聞にでも目を通すかのように、一通りスケジュールを把握すると、プニカはそこへ向けて手を伸ばし、目の前に展開されていた表ごと、その手元の端末へと収納する。


『ガイドを展開します』


 プニカの目の前に、今度はマップが表示される。


 『ノア』の全域が事細かに表示され、現在何処に誰がいるのかも顔アイコンで丁寧に表示されている。


 マップ上、ルートを示すマーカーが点滅しており、万が一にも迷うことはない。


 そうでなくとも、プニカはこの『ノア』で何百年かは過ごしている記憶は持っているので、勝手は大体を把握できている。


「では、行ってきます」


『いってらっしゃい、プニカ。人類が繁栄していくことを願っております』


 退室していくプニカを見送り、部屋に残されたクリスタルは静かに音もなく消失していった。



 ※ ※ ※



 廊下を抜けた辺り、吹き抜けのエントランスの中央、そこにはアーチ状のゲートがあった。その傍らではエメラ(コロニー『ノア』の住居者。絶滅危惧種保護観察員。マシーナリー)が整備していたようで、色々なディスプレイを展開させていた。


 傍から見れば、いくつものボードに囲まれてミノムシ(かつて地球に生息していたと言われる蛾の幼虫。作る巣の形がミノに似ていたためこのような名称がつけられた説がある)のようにも見えた。


「あ、プニカ先輩、おはようッス。電送装置テレポーターの設定は大体完了したッスよ。あとは管理者権限を持つプニカ先輩が許可すれば稼働できるッス」


「ありがとうございます、エメラ様。それではここからはわたくしの方で最終仕上げをさせていただきます」


 そういって、プニカはゲートの近くに寄り、手を差し伸べる。ディスプレイが表示され、その上で何とも細かい文字列が右往左往する。様々な規約をまとめたもののようで、一人分の目で追うのも一苦労だ。


「――申請、許可」


 内容の確認を終えたのか、一言添える。すると周囲を取り囲っていたディスプレイが一斉に認証のサインを表示すると共にパッパと消滅していった。


「これで稼働可能になりました」


「座標は設定済みだからいつでも開通できるッス」


「では、早速稼働いたしましょう」


「了解ッス!」


 ゲートに動力が入り、駆動音と共にアーチ状の内側に虹色の膜のようなものがほわほわと出現する。その表面はシャボン玉(古代の遊びの一つ。洗剤等の液体によってある程度の強度を高めた膜を生成する。中に空気を取り込むと宙に浮かぶ泡となる)のようにてらてらと光っており、重力を無視した水面のようだった。


「開通完了ッス。そっちはどうッスか?」


 エメラは宙を見て言葉を発する。


『こちらもゲート、異常なしであります』


 何処からともなく、正確に言えば、エメラの頭付近から声が返ってくる。


『何か試験的に適当なものを入れてみるでござるか?』


「特に問題はないと思うッスけど、そッスね。何か転送してみてほしいッス」


『了解であります!』


 エメラがゲートから一歩、二歩と引く。


 端から見たらエメラが独り言をしているだけの光景だ。


 通信端末により『エデン』(自然生成ではない惑星。機械都市。主にマシーナリーの植民地)にいるジェダ(現時点では『エデン』在住。絶滅危惧種保護観察員。マシーナリー)とネフラ(現時点では『エデン』在住。絶滅危惧種保護観察員。マシーナリー)の二人と会話していたのだろう。


 少しの間を置いて、ゲートの内側のほわほわが大きく波を打つ。


 すると、アーチの中から台車のようなものが現れた。特に何の変哲もない台車だ。全体的に銀色をしたテーブルのように物を置ける一般的な物。下はスライダー(床との摩擦を抑えるための半重力装置。起動している間は僅かに浮遊し、運ぶ際の補助となる一般的なもの)も備え付けられている。物珍しいものでもない。


 アーチの反対側には何もなかったはず。台車もそれなりの大きさはある。一体こんなものが何処から現れたのかといえば、そう、このゲートだ。


 今プニカとエメラの目の前にあるゲートとは違う場所に、同じようなゲートが存在し、そちらから送られてきたものがこのゲートへと届いたわけだ。


『どうでござるか? 手頃なものがなかったので台車を送ったでござるが、何処か歪みなどはないでござるか?』


「大丈夫そうッスね」


 そう言ってエメラが台車の表面を眺めたり、撫でたり、ぺしぺしとしてみたりするが、見た感じどこもおかしいところは見当たらない。


 ついでに、データも照合し、送る前と送った後の形状もスキャンして確認するが、変化といえるほどの変化は確認できなかった。


『では、我が輩達も問題なく通れるでありますな』


『これよりそちらへ向かうでござる』


 再び、ゲートがほわほわする。

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