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ぷらとにっく・ぎゃらくしぃ  作者: 松本まつすけ
Episode.2 Xanthium strumarium

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命短し恋せよ乙女 (3)

 接近し続けるアラート音。着実と把握されている位置。


 急かされ、駆り立てられ、のんびりとしていられない、この状況。


 今にも取り囲まれて総攻撃をされてしまう、窮地のこの現状。


 あたしの脳みそは、理解不能なドロドロとしたソレによって、マグマのように熱を帯びつつ、答えを浮かび上がらせる。


 マザーノアに干渉できるのは誰か。


 この『ノア』で多くの管理権限を持っているのは誰か。


 端末を容易に書き換えられるのは誰か。


 そして、その上で『エデン』ほどの技術力を持っていないのは誰か。



 潜伏者の正体は、プニー?



 そんなはず、あるわけがないし、あまりにも稚拙な推理だ。


 でもあの場で、宇宙空港で真っ先に何事もなく姿を消したのもプニー。


 それは管理者を拉致するため? そう考えるのが合理的じゃないの?


 プニーだけ連絡が取れないようになっていた。他のみんなは繋がったのに。


 それは管理者であるプニーから遠ざけるため? でも、後から通信用アプリが削除デリートされたのは何故? 最初から消しておけばいいものを。


 プニー自身が着信拒否ブロックしていたからなのでは?




 頭がおかしくなる。プニーであるはずがない、と考えているはずなのに、あたしの頭はどんどんプニーに疑いを掛けていくばかり。


 どうしてこんなことを考えてしまうのか、あたしはあたしが分からない。


 だって、プニーが何のために。


 そう、目的が分からない。元々『ノア』はプニーが何百年も過ごしてきたコロニーで、あらゆる管理権限を持っていた。元々が元々、ここはプニーの領地みたいなものじゃないか。


 それがなんで、今になってこんな乗っ取りみたいなことをするのか。


 人類繁栄のための任務を放棄するなんて、それが一番ありえない。




 ビィーーッ、ビィーーッ。


 回避し切れていないビームが、あたしに向け、四方八方から放たれてくる。


 さっきまでは感じなかったビームの熱がじわじわと肌に触れているのが分かる。キャンプファイアーのあの感じを思い出す。目の前に大きな炎がある、あの熱量。


 それがまた一層、どんどん熱くなっていく。


 きっとあと何度も受けていたらこの服でももう耐えることができないだろう。


 しかし、蜂の巣をつついてしまったかのように、あたしの周囲はその()に取り囲まれていた。




 ビィーーッ、ビィーーッ、ビィーーッ。


 また、()が増える。そして、あたしを狙撃してくる。


 こんなの、避けられない。振り切れない。


 『エデン』で新しい服を新調していなければ、あたしは今頃、何回死んでいたんだろう。ゲームなら残機も残らない、コンティニューもない、ゲームオーバーだ。


 ぼんやりしているわけでもないし、もっと冷静に逃げて隠れていくべきなのも分かっている。けれど、もうすぐそこに答えがあると分かっているから、その足は理性的には動いてはくれなかった。


 そうだ、もうゴーグルは示している。


 もうすぐそこ、ここを抜けた先に、プニーがいることを教えてくれている。


 しかし、そこに安心感なんてものはなかった。


 だってここはまだ工業区域の中だ。あれだけ走り回ったのに、あたしはまだ工業区域の一画に立っていた。


 それは、ここまで逃げ回ったのに追っ手を振り切れなかったという意味じゃない。


 ()()()()()()()()()()()()()という事実をも指し示していることになる。




 そこは、やけに広い空間だった。


 さっきまで通ってきた工場のような通路に比べると、ごちゃごちゃしたものが何もない更地だ。


 何のためのスペースなのかは分からない。


 新しい機構を設置するための空きスペースなのかもしれない。


 ただ、今のあたしにはそんなことはどうでもよくて、ソレを見たら、もう今までのもやもやが全部吹き飛んでしまっていた。


 このだだっ広い空間に、ぽつりと誰かが立っている。


 それは後ろ姿でも分かる、よく知っているシルエットだ。




「プニー?」


 声が届いたのか、振り返る。


 間違いなかった。その影は、プニーだった。


 ふと、ずっとあたしを追い回していたあの()が、いつの間にか攻撃を止めていた。正確に言えば、群がっていた全てがプニーの方へと集合していた。


 赤いランプが重なり、スポットライトのようにプニーを照らし出す。


 先ほどのようにアラート音は鳴らない。だってそうだ。あの()はノアのセキュリティ。そしてそれを管理しているのはプニーなのだから。



「よぐ……、こごまで、ごれました、ね……」



 ドキリとする。


 プニーは確かにプニーだった。そのことには間違いはない。なのに、プニーではなかった。


 このしわがれた声。確かにプニーの声だけれど、あまりにも掠れている。


 そして、あの顔。紛れもないプニーの顔なのに、壊れた人形のようにひび割れのようなものがあちこちに入っている。


「あなたは、誰……? プニーじゃない、の?」


 今になって、おかしな質問を口にしてしまう。


 さっきまでプニーだと確信していて、今もプニーだと思っている相手に、あえてそう訊ねていた。


「初めまじて、ナモミ様……。ばたくしは貴方がプニーと呼んでいる者……つまり、プニカで間違いありまぜんよ……、ゲホ、ゲッホ」


 咳払いというにはあまりにも息苦しそうに、喉奥から息を放つ。


 まるで病人だ。それもかなりの重症な。


 さっきまであたしたちと一緒に『エデン』にいたプニーではない。


「……クローン?」


「はい、そのどおりです……。ばたくしはプニカのクローンです……」


 クローンというと合点がいく。プニーと同じ顔であることにも、プニーと同じ権限を持っていることにも説明がつく。


「で、でも、クローンは今のプニーしか生き残っていないって」


 確かに本人からそう聞いていたはず。それに新しいクローンも作れないとも言っていた。


「そう……ばたくしは一度()んだ身……。エンドナンバーのプニカは、はぁ……はぁ……、私が生きているごとを……、認知しでいません」


「死んだ……って、じゃあどうやって生き返ったの?」


「ネグロダスト……、ゲホッ! ぁー……、復元機能を、使い、え、え、延命を図ったのです。本来の用途とは、違いまずが。ばたくしは、ばたくしにたくなかった……。記録を改竄し、ばたくしは、密かに眠って……ぐっ……」


 とびきり酷い滑舌に話の端々が途切れ、よく分からないが、つまり目の前のプニーは先代のプニーということなんだろうか。

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