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ぷらとにっく・ぎゃらくしぃ  作者: 松本まつすけ
Episode.2 Xanthium strumarium

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特別知的生物保護に関する特例法の施行とその議案

※別視点

 澄んだ空の下、『エデン』の都心部よりややズレた街道沿い、その一向は移動していた。徒歩でもなく、乗り物を用いていたわけでもなく、移動していた。


 明確に言うのであれば、その一向に足元にあるものこそ、乗り物と呼称していいものだろうか。ともあれ、思いの外、長距離を、高速で水平移動していた。


 数人ばかし、ガタイのよい巨漢らしきものに囲まれる中、その中央にはソレとは少々不釣り合いな二人が立っていた。


 長身で長髪の女が、不安げな表情を浮かべ、未だ見えない目的地を茫然と眺める。そのすぐ隣の小さな緑色をした女の子が見上げるようにして顔を伺う。


 緑色、というのは大雑把なものだが、髪の色も、瞳の色も、衣類も、はたまたブーツの先までも翡翠のようにキレイな緑色なのだからそうとしか答えられまい。


「キャナ殿、やはり不安でござるか? 心拍数が……」


 緑色の女の子が、その緑色の瞳をキリキリと回転、縮小させながら何かを計測するように言う。キャナと呼ばれた長身の女が、そっと頭をなでて返す。


「大丈夫や、ネフネフ。うちは大丈夫や」


「拙者はネフネフではなくネフラでござるが」


「ええやん、そっちのが可愛えぇよ」


 可愛がられるようになでられる、ネフラと名乗った女が不満げに俯く。


「正式名称で呼んでほしいでござる……。しかし、思えばキャナ殿も何故皆にキャナ殿と呼ばせているのでござるか?」


「……なぁーん?」


 誤魔化すように、猫なで声をあげる。


「リリー・カーソン博士とお呼びした方が良いのではござらぬか?」


 そこでキャナが、はああぁぁ、と大きすぎるくらいのため息をつく。


「ずっるいなぁ……、ほんま、ずっるいわぁ……、ぜぇんぶ丸見えなんやな」


「偽名でござるか?」


「その名前、あんま好きやないんよ。はあぁ……エメちゃんは特に何も言わんかったのになぁ……」


「エメラ殿は細かいことも気にしない大らかな奴でござるからな。拙者は護衛として、検知ソフトの類はいくつも搭載してるでござる。本人確認も取れない輩を護衛するわけにもいかんでござるからな」


 バツの悪い顔を浮かべ、だらぁんと姿勢を崩す。


「この先もその名前、バレるん?」


「バレるもなにも、コード認証ゲートを通るのでござるから即ち名札をぶら下げるのと同じでござるよ? 匿名での出席はできないとつい先ほど申したばかりでござる。口頭で自己申告した名前には何の意味も」


「はあぁ……せやなぁ……、せやろなぁ……。ぜぇんぶバレバレやろなぁ……」


「人類生物学の権威、リリー・カーソン博士ならばむしろ色々な制約を免除できる余地もあろう。恥じることなんてないでござる」


「ま、面倒なのをいくつかパッパと飛ばせるんやったらそれでええんやけど、正直な、うちはメカニシアン、あんま好きやないの。関わりとうないの」


超能力者サイコスタントはマシーナリー、当時でいうメカニシアンに対抗すべく造られた人工進化生物だからでござるか?」


 ネフラはなんともあっさりと答える。まるで答えの書かれたカンペを手元に置いてあるかのようにごく自然と。対するキャナは、やはり依然として不満げだ。


「うちはなぁ、望んでこんな力を手に入れたわけやない。納得して超能力者サイコスタントになったわけでもないんや」


「進化研究に最後まで反対だったという記録も残っていたでござるな。当時の研究員に強行されて改造されたという記録も」


 ここでまた、キャナが酷く深くて大きなため息をつく。自分の体の中身を全部外に出してしまいそうなくらい、吐露した。


「そーゆーの、どっから持ってくるん? うちは人間で、アンタメカニシアンやんか。勘忍してや。人の秘密、忘れておきたいもん、ひっくり返さんといてや……プライバシーの侵害やで……」


「す、すまぬでござる。アカシック・レコードにはヒューマンデータも集積する機構があっただけで、悪気があったわけでは……」


「知っとるよ。アレやろ、廃棄になったコロニーやら機体やら、宇宙を漂ってるゴミまでを回収して情報を引っこ抜いてるってアレ。歴史から見れば、うちは三百年も前に死んどるからな。どっかに流れとったんやろなぁ」


 ネフラがたじろぐ。何か一言、「そうでござる」とでも返せたはずなのだが、どうしたことか、キャナの言葉から気迫のようなソレを感じ取っていた。今さら、自分が地雷を踏みぬいたことに気付いたらしい。


 ネフラはマシーナリー。その身は機械でできている。持ち前の電子頭脳は様々なデータベースへのアクセスを可能とし、何百、何千、何億年前ものデータを今さっきのように取り出すことができる。が、キャナの前では仇になったようだ。


「ネフネフゥ、一応な、今日のこれからのとこはリリー博士でええよ。けどな、戻ったらうちはキャナちゃんやで。いつもふわふわ、優しい優しいキャナちゃん」


 一体その表情の何処にふわふわと呼べる要素があるのか、おののき一歩後退しかけたネフラだったが、「何故でござるか」などという言葉も飲み込み、肯定の意味を込めて必要以上に首を振り続けた。


「ありがとな、ネフネフ」


 了承されたと認識できたのか、ぽんぽん、とまた頭をなでる。なるべく優しく。


 ネフラの頭の中には大きな疑問符が浮かんでいた。


 先ほどまで押しつぶされそうなくらい不安に苛まれていたはずの人物が一転、異質ともいえる気迫をまとい、殺気のようなソレを漏らしていた。


 感情を読むなんて容易だったはず。しかし、どうにも大きな計算違いがあったらしい。キャナの内に秘めたモヤモヤとした感情は単純ではなかった。


 それは不安でもあり、それと同時に強い嫌悪でもあった。その混ざり合ったものが何を示しているのか汲み取るほど、ネフラの観察力は優れていなかったようだ。


「他のみんなも、よ・ろ・し・く・な?」


 くるっと振り返って、一言一言置きにきょろきょろっと首を傾けて見渡すようにして、笑顔を配る。その仕草だけを見るならば可愛いと認識できたかもしれない。


「は、はひ! 姉御!」


「イェスマム!」


「キャナ様の仰せのままにぃ!」


 周囲で黙って傍観していた護衛の連中もこれには会釈をとる。その表情はうかがい知れないが、「このまま見て見ぬフリできなかったか」といった様相だ。


 ここに集まってキャナとネフラを取り囲んでいる連中もただの通行人ではない。


 目的地まで無事に届けるための護衛だ。護衛であるはずだが、その護衛対象であるキャナに対して、何処か畏怖を抱きつつあった。

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