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6.光の誘惑と抑制

 翌日の昼頃、ずっとカードを眺めていた努はメータが変化していることに気づいた。錯覚ではなく確かに変化していた。それは昨日のメータの状態をメモ帳に記録しておいたことから確かであった。老人は昨日の帰り際、思いついたように努にそのようにするようにと言ったのであった。それは、何日かのデータを見て、明らかに他と違うデータを除いたとき、残ったデータを見ればより特定しやすくなるからということであったが、なるほどと努は思っていた。それで、抵抗もなく自宅に帰ってすぐにメモに記録したのであった。

そして、今回の変化においても同様にメモに記録した。


場所:自宅

水平距離:・・・

鉛直距離:・・・

方角:・・・


 夕方になり、そろそろ約束の頃であった。母に今日の仕事は終わったから気晴らしに散歩をしてくると伝えた。母は遅くなるようだったら連絡をしてくれと言ったので、努はそれに返事をして玄関を飛び出した。そのままの勢いで、隣の家へと行き、例のプチジャングルを抜け、扉の前に立った。すると、すぐに扉が開き、老人が努を迎えた。

「変化はありましたか?」

 老人は挨拶のようにその言葉を発した。

「ええ、昼頃のことです。ちゃんとメモに取りました。それからは変化していないようですが・・・」

「そうですか、壊れていなくてよかった・・・」

 ボソッとそう言った。

「それでは早速、ランプのありかを特定しましょう。さあ、どうぞ中へお入りください」

 努は言われるがままに老人の後について、昨日の応接間に入った。


 老人は少し大きな、そして、普通のものとは違う世界地図をテーブルの上に広げ、物差しやコンパス(方位磁石)などを取り出した。

「そうですね・・・、マシンのさしているところはイギリス、ロンドンの辺りですね」

「え、そんなところまで行くのですか?」

「やめますか?そうですね、家族のこともありますでしょうしね・・・」

「いえ、こういうことも覚悟の上に決めていたことなので、行きます。金銭面はどうにかしてくださるのでしょう?」

「もちろんです。ところで、英語は話せますか?」

「全く・・・」

「それでは通訳も用意しておきましょう。明日の朝一番に準備をしてこちらにいらしてください。空港までお送りいたします」

「そんなに都合よく飛行機の予約とれるのですか?」

「任せてください」



 努は運よく、韓国に家族旅行に行ったときのパスポートの期限が残っていたため、すぐにロンドンに行くことが出来た。


 そして、右も左もわからないロンドンに降り立ち、通訳と合流した。言うまでもないがロンドンは大都市であるため、努は、こんな街中にランプが落ちているとは思えなかった。だが、そんな考えはすぐに払拭されることになった。

 街のあちこちに異国の人種があふれており、現地の人に何か聞き込みを行っているかのようであった。

(これがじいさんの言っていた機関の人間か?それとも、ランプハンターか?)


 努は、国際電話であの老人にロンドンに着いて、そういう人々がいることを伝えた。すると老人は、その人たちに自分もランプを探しているということを明かしてはいけないと、強く言った。そして、マシンになにか大きな変化があったときにまた連絡するように言った。


(こんなところでどうやって探せと言うんだ?)

 努は、イギリスに来てしまったことを後悔した。いずれまた、日本にもランプが来ることがあるのだろうから、そのときまで待っていてもよかったのではないかと思ったからであった。だが、そのころにはすでに何人かがあのランプを使ってしまったことになるが・・・。


 努は、通訳と供にバスに乗った。老人は正確ではないかも知れないと言ったが、ここにあるのではないかという具体的な場所を示していた。


 努は、バスに乗ってちょっとほっとしたとき、まだ外は明るいというのに急激な眠気に襲われた。その眠気にはとてもじゃないが勝てそうになかった。仕方がないので、通訳に着いたら起こしてもらうことにし、そのまま眠りに堕ちた。


 グリニッジというところに到着した。努はここが本初子午線の通るところだとかつて習ったことを覚えていた。教科書で知ったところに来るというのも楽しいものであるが、今回はその観光にきたのではないことをすぐに思い出した。


 努は、通訳と供に、何人かの警官に絡まれつつもあちこちを探した。また、同じような人々がここにもいた。努は、ランプがここにあることが確かではないのだが、なんとしてもこの人たちよりも先に見つけてやるという気になった。それは何の目的があったわけでもなく、ただの負けず嫌いであった。

 努は、見晴らしのいいところから老人から借りた高性能な双眼鏡を片手に光るものを探していた。そのとき通訳はかなり暇そうであった。金がもらえるから一緒にいるだけで、ボランティアとしての通訳ならすぐに帰ると言っていたかも知れない。なんと言っても、ずっと通訳らしい仕事をするでもなく、依頼主のそばに立っているか、座っているかだけであったからであった。

 ボーっと双眼鏡を眺めていると、ロンドンに行くと言ったときの家族の反応をふと思い出した。金の心配はないと付け加えたので家族は一つの不安は取り除かれたようであったが、その他の多くの不安に比べれば、ほんの一部にもならないものが取り除かれただけであった。


 そろそろ休憩しようかと思っていたときだった。グリニッジ天文台でなにか光るものを見つけた。ひょっとしたら見ているうちに太陽の傾きが変わって何かの金属が光っているのかもしれなかったが、努にはなんとなくランプであるような気がした。こんなに簡単にランプが見つかってしまっていいものなのかと思ったくらいであった。とにかく、グリニッジ天文台へと向かった。


 天文台の辺りにも聞き込みを行っていると思われる人々がいた。その人々の目をかいくぐり、ただの観光客を装って天文台の中へと入った。

 なんと、そこにランプは落ちていた。まさかと思ったが、まさにそれのようであった。ほんの数日前に見たランプ。それがここ、ロンドンに落ちているのである。


 さて、老人から受け取っていた飛行機のチケットにはまだ日があった。到着してから3日間は探すのにかかるだろうということから3日後のチケットであったのだ。そのため、努は、初めての単独海外旅行と称して、イギリスの観光を行うことにした。

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