BOY MEETS BIKOUOU!
人の滅多に踏み入らない、深山の大岩の前で私は思わずこぼした。
「一体どうなってんだ?」
こんな事は、生まれてこの方見た事がなかった。
毎朝のルーチン作業で、会社にいく途中の大岩に向かって、
朝礼の予行練習をしていると、
山中の霊気ともいうべきものが鳴動して、岩から猿のような獣が生まれたのだ。
恐ろしい霊気を纏った猿が、私の存在に気づき言葉を発した。
「朝礼の練習を岩に向かってしている奴の方が、どうなってるの!?って感じなのだが」
思っていたより、前の段階から私に気づいていたらしい。
猿が身に纏っているのは霊気だけではないらしい、人の心を読むのだろうか。
「きっと纏っているのは憐憫だ、生後1分でこんな複雑な感慨を得るとは…!」
あと、思考が声に出ているよ、と猿は付け足した。
さて、どうしたものだろう。
山深い村から、山深い峠を超え、山深い会社に行かなければならないのだが、
岩から猿が生まれるというこの怪事を前に、通常の出社が出来るだろうか?
こんな事ならば、TikTokの使い方を娘に聞いておくんだった!
ビッグフット現る!何つってな。え?そういうアプリじゃないの?そう…
大体、月給が額面20万ぽっちしか出さない会社に、どれくらいの価値があろうか?
正直行きたくない。毎日、実は全然会社に行きたくない。
なのに、何故頼まれてもいないのに、毎朝岩に向かって朝礼の練習など…!
私はこう見えても、昔は大層稼いでいたのに!クソっクソっ!時代が悪いのだ!
「バブルの時の話をする、タクシードライバーみたいだな」
と、猿がツッコム。何故、生後1分がバブルを知るか。
そうか、また声に出していたか、失敗した。うーむ、猿の事は一旦置いて置くとしても、
ひたすら会社に行きたくない。あれ?というか、何でそんなに行きたくない会社に行っていたのだっけ?
猿の発する、ヒンヤリとした霊気のせいか、ここ暫くなかった位に頭が冴えてきた。
「そんなに会社に行きたくないならば、行かなければよかろうに」
と猿。
と言っても、どうするというのだ?私はケツから血が出ている、痔どころか、
もしかしたら大腸癌のおっさんなのだが。
「知れた事。倒すのだ」
倒す?というと。
「上司を。物理的に」
殴るって事?問題あるだろ?
「問題があるのは今で、殴った後に問題は無くなっていると約束しよう」
猿は、岩の上に二足で立ち上がり、キメ顔でこう名乗った。
「この美猴王が」
ケツが赤いので、決してイケてはいなかったが。