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第2話【今日は朝から違っていた】

 

 ピピピピピピッッ


 聞き慣れた音が部屋中に鳴り響き、この音を聞いて僕の一日がスタートする。


「……月曜日か」


 部屋に掛けてあるカレンダーを見てそう呟く。今日は10月4日の月曜日……10月のカレンダーを月初めから月末まで数字順に眺めるが、予定の記入は何も無い。


 それはいつも通りの事なんだけども、先週の金曜日に久々の予定が入ったため、いつもとは違って予定が無いことに寂しさを感じる。


「おぉっ!!もうこんな時間じゃん!?ボーッとしてたら遅刻しちゃうよ」


 時計を見ると秒針は7時を指していた。いつも家を7時半には出ているため、支度を急いだ。


「あぁ-、真子アナの天気予報見れないじゃん」


 真子アナの天気予報とは、毎朝観ているのニュース番組の看板コーナーでもある。お天気お姉さんこと『真子アナ』のマコマコお天気は朝の癒しであり、男達のエネルギーチャージの源だ。


 残念がりながら栄養食を頬張り、スーツに着替えて家を出る。今日は燃えるゴミの日だが、捨てに行く時間は無い!

 よし、このままなら歩いて間に合うぞ……と思いきや。


「やべっ、携帯ベッドの上に忘れた!」


 玄関のドアに鍵をかける寸前で気付いて、慌てて取りに行く。


「あったあった……って、もう35分!?あと十分で電車来ちゃうじゃん!」


 慌てながら、携帯をポケットにしまい部屋を後にした。


 今日は『いつも』と違う月曜日だったな……そう思いながら駅に向かって走っている途中にふと思い出す。


「そう言えば……この前、真人が謎のURLを送ったとか何とかメッセージ来てたな、忘れてた」


 後で確認しよう。

 そんなことより、電車に乗り遅れる!!


 だけども、今日は月曜日。

 電車が5分遅延しており、駅で五分間待つ羽目になった。


 ********


「ただいま」


 真っ暗な部屋の電気を点けて、呟いた。

 部屋に誰も居なくても、「いってきます」と「ただいま」は欠かさず言っている。


 だって、結婚した時に挨拶の出来ない奴と思われたくないだろ?

 僕はそれを見据えているのだ。


「なんて、結婚できるか分からないけどなー……あぁ疲れたぁ」


 スーツのままベッドの上に転がり込むと、黒猫の目覚まし時計が「おかえり」と言わんばかりに僕を見ていた。


「よしよし、よくお留守番できたね。ただいま」


 僕は黒猫の目覚まし時計の頭を優しく撫でてやった。こんな姿、他の人に見られたら恥ずかしくて、僕は地球が滅亡するまでこの部屋から出てこないだろう。


 まぁ、その前に僕が骨になってるだろうけど。


「それにしても……今日も変わらずの一日だったな」


 変わらずの一日、それは同じ時間をループしているかのような、数年間変わらない毎日。

 僕はこんな日々に嫌気が差している……かどうかも正直分からない。


 嫌なら変えればいい。

 変えようとすれば、変えられる。

 変えようとする意志が無いと言えば噓になるし、あると言っても口だけで本気かどうか分からない。


 そう、答えを出さずにあやふやにして、今を生きている。


「やめだやめだ、そんな事考えてると余計疲れる!お風呂入って、ご飯食べて寝よっ」


 浴槽に湯を溜めている間に、テレビを見ながら、買ってきたコンビニ弁当を食べる。いつもは自炊しているけども、今日は月曜日という事もあってか、気怠さが僕を襲い、家事をする気が起こらない。


 そう思うと、働きながら家事をする全国のお母様方は本当に凄い。


「親の有り難みが分かるって、改めて身を持って実感した一日だったな」


 コンビニ弁当を食べ終え、風呂にも入り、ベッドの上で寝転がりながら黒猫の目覚まし時計にそう話し掛ける。


 そうだ、今日燃えるゴミを捨てられなかったから、明後日は必ず捨てないと。それに、ワイシャツも洗濯して…スーツをクリーニング出そう。


「はぁ……もう、執事が欲しい」


 執事か……メイドさんでも良いな。家事がしたくない、ただその言葉が僕の行動を制限する。

 いくらで雇えるんだろう……と、本気で考え始めて携帯で調べようとして気付いた。


「あ、真人の言ってたURL……見てみよう」


 真人の送ってきたメッセージを改めて確認するが、全く覚えていなかった。予約?行ってみろ?

 そのメッセージの下には謎のURLが一緒に送られていた。


「い、いかがわしいサイトに飛ばされて架空請求とか、そんなんじゃないよな?」


 自分が覚えていないのが悪いというのは分かっているつもりだけども、多少は疑ってしまう。


 ここは友を信じよう。

 まぁ、架空請求されたら真人に架空請求してやろう。


「えい」


 ドキドキしながらURLをタッチして、サイトが開かれると、目にしたのは『温泉街』という文字だった。


「……お…温泉?」


 画面少し下にスクロールすると『伊香保温泉』と書かれた温泉街の写真がいくつか目に入った。

 温泉、その単語に真人が言っていた言葉が少しだけ思い出す。


「そう言えば、この前あいつ伊香保温泉に行ったと自慢してたな」


 それで、ここに予約して行けと??

 というか伊香保温泉って何県だ……?


 あまり旅行というものをしてこなかった為、一般的に知られている名所も僕には分からない。


「群馬県かぁ……これ車でしか行けないじゃん」


 あいにく、自家用車は持っていない……残念だ、今回は縁が無かった、と思いきや埼玉方面からバスが出ているのか!?

 そう、僕が住んでいるのは埼玉県の西部地区だ。

 さすが名所なだけあって、都心からもバスが出ているとは。


 でも……。


「温泉とかあまり興味が無いんだよな」


 僕にはお風呂と温泉の違いがいまいち理解できない。

 だからかな、温泉街というのもあまり惹かれなかった。


 いつもの僕なら行かないだろう。

 なぜなら興味が無いから、行ってもただ疲労だけが溜まると、そう思い、いつも通り家で過ごす休日を選んでいただろう。


 だけど、やはり今日の僕は少し違っていた。

 真人が言っていた『生き甲斐』という言葉が、思った以上に僕の胸にずっと引っかかって離れない。



 もし、いつもと違う行動をすれば……このモヤモヤも晴れるだろうか。


「えぇい!!行ってやるよ、一人旅してやる!!見てやがれ真人!」



 僕は勢いだけで、伊香保温泉付近の宿に予約を入れた。



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