第20話 息と思考の創造 Creation From
つくりあげるということは。
-獄炎の間-
扉を開いたときから溢れる熱気。
溶岩に怯えながら少しずつ奥へ進む。
突如、岩の割れ目からマグマで体を覆う体の長い甲虫が這い出る。
そもそも命ならば、存在できない場所。
・・・普通の命であれば。
しかし、こちらも条件は同じ。
「むかでさん、おはよう。邪魔してごめんね。」
自分の声じゃないみたいな、突然口を滑り出た声に少し動揺する。
その動揺もなぜか安心、満足へと変わっていく。
「おいで、フェニックス。」
軽く手招きをするとポッと明るい炎が生まれる。
「・・・お久しゅう。リディアさん。」
そして、それは宙に舞い、目まぐるしく色の変わる炎の翼を持った鳥に変わる。
「おひさしぶりだね。フェニちゃん。」
まだ途切れ途切れの記憶の中で、少しだけノスタルジックな感覚に浸る。
「あの人か。だいぶ・・・難しいかもしれない。」
確かに、よく考えてみればフェニックスはここで生存できるだけで、獄炎に生きる甲虫に炎の魔法が効くとは考えにくい。
「そう・・・だね。」
「ここはとりあえず、私の代わりにお気に入りのあの人に任せてみては?」
下手くそなウインクでフェニックスは助言する。
「えっと、わかった・・・!それじゃ、またあとで。」
手を振ると、フェニックスは消えていった。
・・・わからない。
けど、やるしかない。
甲虫はすでに威嚇体制に入っていた。
「おいで、空狐。」
現れた狐は四本の尻尾を持った薄緑の毛皮の狐。
「久しぶりだな。」
「・・・うん!」
少しだけ、泣きそうになる。
「標的はあれか?」
視線を甲虫に向けて空狐は言った。
「うん、お願い。」
突然起こった旋風で、少しあたりが涼しくなる。
「チニカヘレ、空の歪。」
少し歪んだように見えた空間がもとに戻ると、甲虫はグシャグシャに潰れていた。
「安らかに眠れ。ピース・アスリープ。」
久しぶりに使う愛の魔法。
痛みを消す代わりに眠りに落とす魔法。
「ありがとう、空狐。また来てね?」
「ああ、呼べば来るさ。」
少し頭を撫でると恥ずかしそうに目を背ける空狐が、
とても愛おしく思えた。
-迅速の間-
予想はしていた。
高速で舞う蜂が、その部屋の中で待っていた。
詠唱に時間のかかる私の魔術は相性最悪だ。
そんなことも気にせずにとりあえず本を出す。
「炎弾、形あるものを・・・」
しかし、蜂は優しくない。
詠唱の途中、魔法円も書きかけのところで敵は真正面から攻撃に入る。
咄嗟に避けるが魔法円は砕ける。
一番短い詠唱・・・!
「魔を閉じ込め、放つ。ブレット!」
確かに放った魔弾を避け、蜂は背後に回っていた。
突然の攻撃に、回避が間に合わず服が破ける。
・・・そう、冷静に。
正確に。
「調合魔法・・・。」
詠唱を開始すると再び敵は攻撃を開始する。
「綴りしは禁忌。古の叡智を以て魔術を昇華せん。」
魔法円を描く間、蜂の攻撃は止むことはなかった。
しかし、詠唱を止めたりせず、ただただ魔術を唱える。
そして、最後の五芒星を書き終える。
「クイック・アリア。」
青い光が魔法陣から発せられる。
少し蜂が怯んだうちに少し距離を置く。
「さようなら。ワール・ガスト!」
一瞬で書き上がった魔法円は旋風を巻き起こす。
そして、蜂の体を無残に引き裂いた。
急激に魔力を消費した私は、部屋を出て倒れ伏した。
-無の間-
そこは何もない白い空間。
ただ、クラゲがひとつ、浮かんでいただけ。
「面白いじゃねえか?俺はもちろん、無からは何も作れねぇ。」
右手に持ったつるはしをギュッと握りしめる。
「だがなぁ・・・。」
左手をクラゲに向ける。
「何もない場所なんてねぇんだよ。」
次の瞬間、クラゲは粉末と化していた。
いつか。
無から一を創り出せるように。
それが、古からの夢だから。
「はっくしょい!」
なっがくなっちゃったー・・・。
ごめんなさい!お疲れ様です!
さて次回は残りの二人・・・ですね?
はりきってどうぞ!




