第16話 知恵と運の違ったこと(3) - Destiny Knows
知恵と運、心のなかで交わる矛盾。
悲しみとは。
ダーラに慰められてなんで泣いてたかも思い出せなくってもやもやしたまま街から出た。
みんなにお礼をちゃんと言った。
みんな「大丈夫?」って頭をなでてくれて、でもやっぱりなんでなのか教えられなくて。
はじめは家に帰るつもりだったんだ。
だって得体の知れない何かにこうやって泣いてしまうからなにもない家に帰ってしまえばって。
でも心のどっかで私をもっと安全な場所に連れて行ってくれる誰かがいた。
街からちょっと離れたところに、魚さんのトンネルの遊具。
その下にちょっと隠れていることにした。
・・
私は当てもなくただ家を出て歩いた。
書物に溺れる日々にも嫌気が差してきたんだろう。
使いすぎた頭を休めて、何も考えずに彷徨う。
独りじゃなくて、一人になれる場所。
そんな場所を求めて。
足に動かされるまま着いたのは町外れの小さな公園だった。
そこには不細工な魚の遊具が一つ。
その上に私は膝を抱えて座り込んだ。
「ニコラじゃん。」
聞き覚えのある声が魚から聞こえてくる。
「・・・ロエル?」
そんな気がした。
「・・・うん。」
「偶然だね。・・・どうかした?」
「・・・うん。」
いつもより元気のないロエルに少し心配になる。
「・・・私で良ければ聞くよ?」
少しの間が空いて、再びロエルの声が魚の中で響く。
「・・・わからない。」
それは重くて迷子になった声。
「何も思い出せないけどね、なんかすっごく胸が痛いの。」
そして、私にはどうすることもできないもの。
「・・・そう、なの。」
贅沢なんだ。
思い出せるだけで、知っているだけで、十分幸せなんだ。
でも、そうなんだろうか?
この苦しい胸はロエルのときっと変わらない。
「それにね、この胸のもやもやもいつか忘れちゃうのかなって思って。ロエル、記憶力ないからさ。」
無い物強請りみたいかもだけど私は思い出せないロエルが、羨ましい。
「・・・私もね、胸が痛くって。」
やっと口をこぼれたのはそんな言葉だった。
あとは、感じるままに。
「昔のこと、思い出しちゃって。思い出したくなかったなって。」
ロエルの重たい呼吸が少しだけ、伝わってくる。
「それで、自分がなんで知識を求めるかわからなくなっちゃって。贅沢かもだけど、私は・・・。」
「贅沢なんかじゃないよ。」
小さな声がどこにも続かない私の言葉を遮った。
「きっとね、悲しいことってその人の中でどれだけ大きいかなんだよ。だから誰かのと比べたり、矛盾してるから自分の不幸を否定するんじゃなくってさ。」
必死の声は少しずつ涙をこらえる声に変わっていた。
「悲しいものは悲しいんだよ。」
最後の一言が泣き声に変わったとき、私の瞳から涙が溢れ出てくる。
何も考えずに私は魚から降りる。
その下で泣いているロエルを抱きしめて、
ただ一緒に泣いた。
二人の不幸を少しでも分け合えたら。
それで、消えることのない傷だとしても。
ぶわあぁぁ
ごめんなさい!遅くなりました!
(3)が終わって「違ったこと」、完結です!
が、ねせしてぃはまだまだ続きますよぉ!
次回!・・・は、誰にしよう・・・。




