第12話 出撃と忘れ物の結末 - Memory War
忘れているもの、今わかること。
最後。
-クローイ-
ファテマ街の人々は少し自由奔放すぎて、避難に手こずった。
逆にヴィトール街の人達の避難はスムーズすぎて怖かった。
住人はまるで魔女たちの性格をそのまま受け継いだみたいね。
「・・・と。お客さんね?」
そう言って振り向いた方向から四人ほどの軍人たちが現れる。
「一瞬で終わらせましょ?」
そう言ってクローイは短刀と槍を構える。
次の瞬間、軍人たちはお縄についていた。
-ロエル・ビル-
「ロエルちゃん、もうちょっと急いで・・・?」
汗を流しながらビルはふらふら歩くロエルを眺める。
「ロエルもうつかれたー・・・。」
そう言ってその場に倒れ込むロエル。
何を思いついたか寝転びながら弓を構える。
「ねえねえビルちゃん。花火玉つくってー。」
「え?ま、まあしゃーない。」
突然のお願いに戸惑いながらもビルは地面に手を当てて目を閉じる。
・・・つくったことねぇけど・・・。仕組みなら一応・・・。
数秒で十個ほどの火薬玉ができる。
また、近くの木に手を向けて目を閉じる。
すると手の中に紙の玉ができる。
そこに先程の火薬たちを詰めてロエルに渡す。
「こんな感じでぇ。」
「なーんだ。さいごは手作業かー。」
残念そうにロエルはため息をつく。
「さーて・・・。」
ポッとロエルの指先に火がつき、それがまた導火線につく。
その玉を矢にくくりつけて弓を放つ。
すると・・・。
ドカーン!
激しい音とともに上空で花火が開く。
「さすが命運の魔女・・・。タイミングばっちりだな・・・。」
感嘆の声を上げるビルの目には街の方角から飛んでくる軍人たちの姿も見えていた。
「ロエルちゃん!こっからが本番だぜ!」
ビルは気合をこめてロエルの方へ振り返る。
「えー。めんどくさいなー。」
ただ、そこにいたのはまだ寝転んでいるロエルの姿だった。
「敵来ちゃうよロエルちゃん!早く!」
焦ったビルはとっさの思いつきで提案する。
「あとでお菓子おごるから!」
目にも留まらぬ速さで起き上がったロエルは
「約束ね。」
と、何事もなかったかのようにドヤ顔を決めていた。
「よっしー!ロエルちゃん頑張っちゃうぞー!」
と言い終わるか言い終わらないかのうちに空から複数の弾丸が降ってくる。
「うわぁ!」
叫びながら駆け出すビルをロエルは不思議そうに見る。
「ビルちゃん。弾に当たる確率は宝くじ未満だよ?」
少し考えたあとにロエルは思いついたように顔を上げる。
「そうだ、ゆーどーゆーどー。」
そう言ってロエルはビルを追いかける。
ビルに追いついたロエルは腰にぶら下げていた銃を構えて後ろを向いて走る。
「うんしょ。」
打った弾は一番手前の軍人の飛行魔道具に命中する。
「ひっとー!」
「さすがは命運の魔女・・・。」
ビルは再び感嘆の声を上げる。
目的地についた二人は足を止める。
敵軍はすぐそばまで近づいていた。
「じゃああぶなかったらたすけてねー!」
そう言ってロエルはビルの肩を叩く。
「汝、か弱き人間の命運を背負いし者。ここに幸運の加護を渡さん。」
いつもより何倍も真剣な表情をしてロエルは術を唱える。
「サポート失敗されてしにたくないからねー。」
「おうよ、任せろ!」
前に進んだロエルは再び魔法を唱える。
「ラック・オーヴァーロード!」
そうしてロエルはひたすらに銃と弓を何度も打った。
全軍が地に落ちるまで。
-デイナ・リディア-
・・・十分前
「が、頑張ろうね。デイナさん。」
どう声をかけていいかわからずに咄嗟に口からこぼれた言葉。
「ごめんなさい。私あなたが大嫌い。」
デイナさんは私をいつも以上に冷たい目で見据える。
「それでは。私は城の方へ。」
・・・そう言って私は森の中、一人で待っていた。
何かいけないことを言ってしまったのだろうか。
何かしてしまっていたのだろうか。
考えてもどうしてもたどり着けない答えの前に、遠くから名前を呼ぶ声がする。
「リディアー!みんな連れてきたよー!」
ロエルの声。
「俺らは撤退する!あとは任せたぞ!」
ビルの声。
道の向こうからは大量の軍人たちが押し寄せてくる。
ふと後ろを振り返ると、反対側からは王国の騎士たちがこちらへ向かってくる。
なんでもないことだったのに、すごく怖くなる。
・・・思い出している、あの人のこと。
今更だけどなんかすごく悲しくなってくる。
また会えないかな。
「世界樹、ユグドラシル。」
そっと、気高く、一本の大樹を私は選んでいた。
「どうせ、また・・・。」
不安な気持ちの奥に諦め。生い茂った葉の隙間から両方向に向けて砲台が生える。
こんな愛の無い戦。
「終焉、ラグナロク。」
消えてしまえ。
白い光が2つをただ無慈悲に照らしていた。
さてー!
一番やりたかった展開ができて幸せです。
まあロエルの花火で全軍集まってくるっていうのが非現実的だけどファンタジーに現実性求めても・・・。
次回は戦争が終わったあとのお話です!
リディアが何をしたかわかりますよー。
是非読んでね!




