ゆきあとあ6
ダンッ。
ふいの突風。開いた窓枠を踏みつけ、知らないひとが寝台に飛び降りる。
さらさらの黒髪、鋭い眼光、引き締まった口元。長身で、軍服。
彼の着地の衝撃で、斗愛と慧衣は尻餅をつく。
「おまえら将軍の子か?」
「……」
斗愛は慧衣をかばうように片足を立て、態勢を直す。
彼は云った。
「助けてやる」
「本当に?」
と、斗愛は返す。無視するつもりだったが、彼に気圧された。
「……あぁ」
「信じていい?」
「くどい」
それを聞くと、斗愛は妹の手を引き、立ち上がった。
「この子から……」
だが、斗愛が云い終わる前に彼は舌打ちした。
「舐めんな」
「「えっ?」」
斗愛と慧衣の身体が一度に宙に浮く。彼がふたり共、脇に抱えたからだ。
「掴まってろよ」
云うなり、彼は窓枠に片足をかけ、ふんっと飛び降りる。斗愛はびっくりした。
「わっ」
「きゃぁっ」
慧衣が小さく悲鳴を上げた。
ダンッ。
空中にいた時間はわずかだった。着地し、彼はそのまま出入りの門へと駆ける。将軍家とは云え敷地は狭く、すぐ門外に出られる。
「斗愛、慧衣っ!」
母、衣南が呼んでた。衣南は門前に止まった軍用車の脇に立ってる。
「中へ!」
だが、彼は怒鳴り、衣南は慌てて軍用車に乗りこむ。
車から二、三メートルくらい離れ、たくさんのひとが斗愛たちをとりまいてた。彼の登場で忘れていたが、斗愛は先程の怒りを思い出す。唇を噛んだ。
斗愛と慧衣、彼を乗せ、車はすぐ発進した。
母子は抱き合った。既に衣南は泣いてて、慧衣も泣き出す。斗愛は涙をこらえた。
車内にはカーテンが引かれ、薄暗い。運転席と助手席にひとりずつ軍人がいた。後部座席で、斗愛の横に座ってる、窓から助けに来たひとは泉剣と名乗った。
衣南が頭を下げ、斗愛と慧衣も彼らに感謝した。
唐突に、泉剣はぶっきらぼうに云う。
「亡命しろ」
「……!?」
斗愛はびっくりした。
衣南が目を見開き、眉をしかめる。
「亡命……?」
「あぁそうだ」
「どう云うことです?」
「命を狙われている」
「ありえない」
「簡単には信じられねぇだろうな」
「……ダンナは軍人だからわかりますが」
衣南は、外では臥玖斗をダンナと呼ぶ。
「なぜ狙うのかは知らねぇ、俺たちは命令でここに来たからな。つまり、あの家がああなるってことは、前もってわかってたんだろう」
「……!」
「慧衣たち、殺されちゃうの……?」
ふいに慧衣が云った。濡れた瞳から、新たな涙が盛りあがってる。斗愛は眉をしかめた。
泉剣が冷笑する。
「泣くな。俺が守ってやる」
「……本当に?」
「あぁ」
衣南が云う。
「慧衣、だいじょぶよ」
「でもお父さん……」
「慧衣」
と、斗愛は云い、泉剣と反対側の隣に座ってる妹を抱きしめた。
妹はまた泣き出した。泉剣が呆れたように云う。
「臥玖斗が死ぬわけねぇ」
「……なんで助けてくれるんですか?」
妹をなぐさめながら、斗愛が云った。
「命令だからだ」
「誰からの……?」
「王家だ。子供が知っていいことじゃないがな」
「王家……」
と、衣南は目を丸くした。
「なぜ王家が助けようとしてるか知らねぇが、間に合ってよかったぜ」
「……」
斗愛は必死に唇を噛みしめる……。