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粉雪の思い出  作者: 深架
1/6

ゆきあとあ

 雪亜ゆきあ斗愛とあをあいした。


 その感情はふたりの考えにも、行動にもありふれていて、かえって気付かないくらい。


 雪亜も斗愛も、6歳だった。


 ふたりはいつも斗愛の家近くの、林のような森で遊んだ。その場所を森と決めつけるには、やや木が少なめだった。


 そこでは、ままごとや、木登り、内緒の話、花摘み……などした。


 ままごとは、なぜかいつも斗愛が赤ちゃん役をやりたがり、雪亜はかいがいしく面倒をみた。斗愛は、ばぶぅばぶーとったり、ぅうゆきあーとか云ったりした。彼はあやすか無視するか、日によって対応を変えた。毎日あやすと疲れる。あやさないと、斗愛はぐずる。


 あやすときは、よく彼女の頭を撫でた。喜ぶからだ。まるで花咲くように笑った。


 雨や雪、嵐の日などは森に行けずさびしい……。


 互いにどこの家の者か知らなかった。初めて会ったときから、話さなかった。ただ身分高い家だろうとう見当はあった。着ている服がそうだったから。お忍びだった。何となしにふたりとも、それらをわかっていたと思う。


 実際、雪亜はこの国の王子だった。兄ふたり、弟と妹がひとりずつ。雪亜は三番目の王子。


 彼の弟と妹と、腹違いだった。雪亜を産み、王妃はすぐ亡くなった。彼は、母をよく知らない。継母の、王の二番目の妃を実の母のように慕っていた。


 継母は前妃の息子たちと、実子と、分け隔てなく接した。彼女は実に子供たちをあいしていた。


 そう云うわけで、雪亜は親を亡くしたにも関わらずあまりさびしさを感じずに過ごした。そのためかえって罪悪感を感じた。産みの母が亡くなったことは、悲しいことだったから。けれどそれは一生懸命に育ててくれた継母に失礼な考えにも思えた。継母のおかげで、さびしくなかったから。それはありがたく、責めるようなことではない。これについて彼は答えを出せずにいる。


 斗愛は将軍家の娘で、妹がひとりいた。慧衣えいと云った。ふたつ年下で姉妹仲はわるくなかったが妹は、姉が森で何してるかは知らなかったし、知ろうとそこまで思わなかった。慧衣はひと見知りだった。家で絵本ばかり読んでる彼女のために斗愛は拾ったどんぐりや落ち葉、摘んだ花などもって帰ったりした。慧衣はもらうとにこにこして、その日ずっと機嫌がいい。斗愛はそれをよく知ってて三日に一度何かしらもち帰った。彼女は妹がだいすきだった。不思議に、慧衣は何をもらってもうれしがった。彼女もまた姉を慕った。


 将軍家とは云え成り上がりで、父の将軍、臥玖斗がくとは元々貧しい生まれだった。家計を助けるため軍に入り、まさか将校になると夢にすら思っていなかった。


 生来、臥玖斗には独特の愛嬌があった。飛び抜けて何かできるわけでもなく、ただ先輩の将校に好かれ、運よく出世した。先輩じきじきに戦略のいろはを教わり、彼も馬鹿ではなかったのですぐにそれらを呑みこんだ。いまでは近隣の国々に名を馳せ、恐れられる程つよくなった。


 普通出れば打たれる杭は、なぜか彼に限ってそんなことはなく、むしろ打とうとする方が危うい目にあった。


 一度、臥玖斗に手を出した者がいた。そのひとは結局、罰として上官から一週間の馬糞掃除を命じられた。だが、同情は臥玖斗に集まり、むしろ手を出した者の方が気の毒な程だった。


 そうして、臥玖斗はまだ若いのに将軍職を任せられ、彼もそれに応えた。


 だが、ある日突然、彼は職を辞した。

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