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第一章1 そして青年は少女と出会う

 ここはユリシア王国の王都。


 夕暮れ、一人の青年が街の大通りを歩いていた。

 大通りにある出店はほとんどやっておらず、人通りも少ない。

 中肉中背の青年は身に着けている軽い防具から見る限り、ごく普通の冒険者のようだ。

 ただ、武器を身につけておらず、代わりに至る所にアクセサリーをつけている。耳まで伸ばした茶色の髪はぼさぼさだった。

 青年の足取りは重く、ひどく疲れているようだ。しかし、顔は笑っており満足している。

 そのまま、青年は酒場に入っていった。


「よぉ、ユーリ。一ヶ月ぶりだな。今度はどこについて行ったんだ?」


 酒場に入り、ふくよかな腹を持つ中年の男が入ってきた青年――ユーリに声をかけた。片手にコップを持っていて、こんな時間から出来上がっているようで、えらく上機嫌に聞いてきた。


「ついて行ったなんて人聞きの悪いな。行商人の護衛だよ。ウルドっていう港町に行ってきたんだ」


 ユーリは不機嫌そうに返し、そのままバーカウンターまで歩いて行った。席に座り店員にビールとおつまみを注文して振り返る。先ほどの中年の男に顔を向けて口を開いた。


「今回は他の国の武器がたくさん見れたんだ。すごかったよ。でも思いの外、長旅で疲れたから一杯飲んだらすぐ寝るよ。土産話が聞きたいなら、また今度にしてくれ」


 ウルドと呼ばれている港街はここ――ユリシア王国と海を挟んだ大陸にある国との貿易が盛んな大きな港町だ。そのため国外の人が多く、それをカモにするゴロツキも少なくない。


「相変わらずの武器マニアっぷりだな。土産話は期待せずに待っとくよ。どうせすぐに他の奴に捕まって遠出すんだろ」


 中年の男はユーリにそう返し、ビールのおかわりを頼んでいた。この青年――ユーリは街から出ること多く、王都にはあまりいない。なぜなら彼はこういった遠出の護衛の仕事をよく受ける。だから、この王都に戻っても数日もすればまた何週間と帰ってこない。


 ユーリはおつまみで出てきたマメを煮込んだようなものをさっさと食べてビールを飲み干した。中年の男に軽く挨拶をして、そのまま二階へ上がっていった。

 ここの酒場は二階は宿になっていて、ユーリのようなあまり王都にいない冒険者はよく利用している。

 ユーリは部屋に入り荷物を床に置いて、そのままベッドに倒れこんだ。衝撃で埃が舞った。ここはあまりいい宿ではないが安い。

 ユーリは王都に泊まる時はいつもここを利用している。


「今日は疲れた、明日はゆっくりしよう」


 そうこぼしてユーリは、そのまま眠りについた。


-----------


 翌朝、ユーリは朝日が昇ると同時に目を覚ました。

 ユーリはベッドから起き上がる。外の井戸で顔を洗おうと部屋から出ようとした。しかし、何かに気付いたように止まり、振り返った。


「おっと、こいつを忘れる所だった」


 思い出したように荷物から一つの指輪を取り出した。指輪は銀色のリングだけで作られたもので、えらく簡単な作りをしていた。

 それを右手の中指のにはめ込むと、今度こそ部屋から出て行った。

 部屋を出て一階に降りる。

 そのまま裏口の方から出て行こうとした所で、厨房から出てきたゴツい男に声をかけたられた。


「おいユーリ。またお前ご指名の依頼が来てるぞ。結構な大仕事だそうだ」


「大仕事? 武器を他の国に大量輸送でもすんのか?」


ゴツい男――この店の店主にそう聞き返し、ユーリは首を傾げた。


「詳しい話は今日の昼にお偉いさんがきてするそうだから、予定を空けておけよ」


「お偉いさんってことは騎士団かなんかか? 戦争でもしに行くのかよ?」


「まぁそれも来てから聞きな。俺も知らんからな」


 ユーリは嫌な顔をして店主に言う。しかし、店主の方は伝言は終わったとばかりに厨房の方へ隠れていった。

 ユーリはため息をついた。今度こそ外の井戸へと向かっていった。


 井戸の水で顔を洗い終わったユーリは、右手にある指輪に意識を向けた。すると指輪が一瞬だけ強く光る。光が消えると指にはめられた指輪は消え、代わりに剣が右手に握られていた。


"ギフト"。――神が人々に与えた特別な能力。

 すべての人にあるわけではなく、一部の人に与えらる唯一無二であり、全く同じ能力は存在しない、その人だけに与えられた神様からの贈り物。

 昔、魔王がこの世界を支配し、この大陸には魔物が溢れていた。そんな世界で神様が人々に魔物に対抗するために人々に与えたのが始まりと言われている。そして、勇者様が魔王を倒し、この世界を平和にした。

 おとぎ話にもなっている話で、ギフトについてはこのこと以外に何もわかっていない。


 ユーリのギフトは武器をアクセサリーに変える力。

 最初に武器をアクセサリーにする時、種類や形を自分の中でイメージする。そうすることで武器をアクセサリーに変えることが出来る。一度、アクセサリーに変えれば、二度目以降もその形になる。

 ユーリにもそんな贈り物がされたのが四年前、彼が冒険者になって間もない時だった。

 朝、目が覚めてユーリは本能的に理解した。自分にギフトが贈られたことに。


 彼はその力を使い武器商人の荷物を少なくしつつ、護衛をするなどして日銭を稼いで暮らしてきた。

 商人からすれば護衛なんかよりギフト目的でユーリに直接、依頼することも多い。

 だが、武器をアクセサリーに変えるのも、戻すのもユーリにしかできない。経験から学んだのか、商人たちはユーリをあまり強い敵と戦わせたりはしない。そのため、ユーリの冒険者としての力量は中の下から中がいい所である。

 それでもユーリは毎朝、武器を振ることを日課にしている。


「ふぅ、今日はこんなもんでいいか」


 朝の鐘が鳴り響くと一息ついた。今日の分の日課を終えたユーリは剣を再び指輪に戻し、宿屋に帰って行く。

 今日は昼から騎士団の人間が来て面倒な依頼がされる。それまではゆっくりしようと考えながら――。



 部屋に帰ってからは仕事で使った道具の点検をして過ごしていた。


「そろそろ昼か」


 ユーリがそう呟き、両腕を上げて伸びをした。すると部屋にノックが響き、ユーリの体がビクッと跳ねる。ドアが開かれると、かわいらしいおさげの店員が入って来た。


「ユーリ様。下でお客様が待っています」


 一階に降りてみると大勢の冒険者がいた。その風景にユーリは思わず声を上げた。


「な、なんだ!? この店にこんな人が来るなんて、……なんかの前触れか?」


「失礼な奴だな!! 討伐依頼だよ。一つ目巨人の群れが街道沿いで見つかったんだ」


 ユーリの失礼な発言に店主が怒鳴り声を上げる。しかし、その後、呆れ声で説明してくれた。


「それより、お客が見えてるぜ。そっちのテーブルだ」


 そのまま親指で壁際のテーブルを指差し促した。

 ユーリは手を上げて「ありがと」と軽く礼を言った。そのままローブを着ていた女の人が座っているテーブルに歩き出した。

 ローブを着ていた女性に近づくと、彼女はユーリに気付いたのか、彼の方へ頭を上げた。


「えぇっと、俺に依頼があって来たんだよな。なら知ってると思うけど、俺はユーリ。しがない冒険者だ」


「これはわざわざ丁寧にどうも。私はアンネリーゼ・グラーヴ。騎士団に所属している」


 ユーリの挨拶に、女性ーーアンネリーゼは立ち上がり彼女も名乗り返した。

 アンネリーゼと名乗った女性は、赤髪を肩まであるポニーテールにしてある。目はつり目であり、年齢もユーリとそう変わらないぐらいの美女だ。


「そ、それで、俺に依頼したいことってなんだ?」


 ユーリはアンネリーゼの見た目に少し照れ、率直に依頼の詳細を聞き出すことにした。


「あぁ。今、あそこで話題になっている一つ目巨人のことだよ」


アンネリーゼはユーリの態度は気にせず依頼について話し始めた。


 依頼の内容は一つ目巨人"ギゴラス"の群れの討伐。奴らが街道沿いに発見され、行商人などが通れなくなっているらしい。なので、王国騎士団により討伐。これを冒険者にも依頼し討伐隊を編成して欲しい。

 というのがさっきの人だかりの話で、アンネリーゼがユーリに依頼したいのはユーリの"ギフト"。すなわち武器をアクセサリーに変えて運搬を楽にしたいということなのだ。


「でもわざわざ俺に依頼することか?」


 話を聞いたユーリはそう疑問を口にした。

 確かに、騎士団が出向くのに冒険者の力を借りてまで荷物を減らしたいというのは変な話だ。冒険者に依頼してまで同じ魔物を討伐にいく事を含めて。


「ギゴラスの群れなんだが、数が多く街道が通行止めになっているだ。あそこの街道は中々重要で、何日も物資の流通が止まるのは問題なのだ。そこで速やかな対処が必要になってくる」


「だから運搬の時間を削るために俺に依頼してきたと」


「察しが良くて助かるよ。正直、今の王都にはこの件に避ける人員が多くいないのだ」


 アンネリーゼは大事な所を伏せ、掻い摘んだ説明をした。


「それに、君の力はこのような使い方ばかりしていると噂は聞いているぞ。騎士団からの依頼だし報酬も弾むつもりだ」


「俺の働きぶりはそんなに噂にならんだろ。依頼はまぁ、引き受けたよ」


 ユーリは自分の事に対して軽口を叩いた。その後、金に目が眩んだというわけではないが、依頼を承諾した。



――この一言が、ユーリの人生における大きな分岐点だったことに、彼はまだそれに気づいていなかった。


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