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鬼ONI神GAMI  作者: 荒魏
3/3

鬼の姫と小さな命

静かな部屋の中、時計の針は

カチカチと動く。

静かだ。実に静かすぎる。

しかし、その静寂を破るのが一人。


「暇じゃ。というか、静かすぎてつまらん。

 のお、姫よ。何か面白いものはないか?」


鬼姫は閉じていた瞼をゆっくりと開ける。

鵺の方を見る。


鬼姫は考える。


また家を壊されてはかなわない。と。


そこで鬼姫は一つの提案をする事にした。


「そうね、じゃあ、今回は山に出掛けましょう」


それを聞いた鵺は、疑問は問いかける。


「山?なぜ山なのじゃ?」


「丁度食材を足さないといけないので

 気分を変えて、今日は山菜料理にしましょう」


それを聞くと、鵺はやる気を見せる。


「おっしゃ!では早う行くぞ、姫よ!

 今日はキノコづくしじゃっ!」


鵺のやる気を無下にしまいと

鬼姫はササッと準備を済ませた。

そして、二人は山へと行く。のだが。


「というかあれじゃな」


鵺は思いを口にする。


「アテらが住んでる場所って山じゃないか!」


「正解」


「姫よ、これじゃ何も変わらないではないか!!」


「まあ、落ち着きなさい。たま。

 今日はここではなく、向こうの山に向かいます」


鵺のやる気は下がっていく。


「ああ、もうわかったから早う行くぞ。

 今日は豪勢にしてくりゃれ」


そう言うと鵺はトボトボと歩いてゆく。

鬼姫は鵺の後を追うように歩きだした。


歩くこと、数十分。

変わらない景色に飽き飽きする鵺がいる。


「飽いた....」


そんな言葉はお構いなしに歩く鬼姫。

鵺は駄々をこね始める。


「姫よ!アテは飽いたぞ!!

 歩けど歩けど、変わらぬ景色で

 もう飽いたぞ!!もう動きたくない!!疲れたぁっ!!」


鬼姫は、鵺を見るが

お構いなしに歩くことを再開する。

立ち止まらない鬼姫を見て

鵺は置いて行かれまいと渋々ながら後を追うのであった。


それから更に数十分。

目的の山に着くも、やはり風景は変わらない。


「到着ですよ、たま」


「うむ....」


鬼姫の声に気力なく鵺は返事をする。


「まあ見てご覧なさいな」


鬼姫がそう言うので

鵺は前を見てみる。

すると鵺の表情はパァッと明るくなっていく。

目の前にはキノコとたけのこが沢山生えている。


「姫よ!なんじゃここは?宝の山じゃないか!」


「ここは、ほとんど手を付けられてない場所なので

 取り放題なのよ」


「おお!これは、ベニテングダケじゃないか!!」


鵺は目をキラキラさせてそれをカゴに入れる。


「こらこらこら。入れないの」


と、素早く鬼姫が止める。


「おお!こっちはハイイロテングダケじゃのう!!」


と言い、鵺はカゴにそれを入れる。


「ちょっと待ちなさい。せめて食べれるものを入れなさい」


と、すかさず鬼姫が言い止める。

鵺は興奮収まらない様子で返事をする。


「任せるのじゃ、姫よ。いっぱい取ってくるぞ!」


鵺はそう言うと

奥の方に走り出していった。

その姿を見た鬼姫は

連れてきて良かったと思い、ここで鵺を待つことにしたのだった。


鵺は山を駆ける。


「おおおおおおおっ!!!」


鵺は思いっきり楽しんでいた。


「なんじゃなんじゃ、ここは。

 本当に宝の島かのう!?」


鵺は食べられるキノコと山菜を摘んでゆく。

鵺は奥へとまた進んでいく。


程なくして、鵺のカゴがいっぱいになり、

戻る途中の事であった。


「.....ん?」


鵺は足を止める。

鵺は辺りの臭いを嗅ぎ始める。


「この臭い....。あっちか!?」


鵺は臭いのする方へ走り出した。


近づくにつれて、臭いが濃くなってゆく。

そして、その臭いが出ている場所に着くとそこには

沢山の動物が血を流し倒れている。

鵺は慌てて駆け寄るも、既に動物は死んだ後であった。

愕然とする鵺の耳に微かな鳴き声が聞こえる。


鵺は急いで鳴き声が聞こえる方へと駆け寄る。

そこには息も絶え絶えな猫がいた。


「待っておれ、今すぐに助けてやるからのう....」


日が傾き始め、夕方が顔を見せる。

ここに、一人

鵺の帰りを待つ鬼姫がいる。


「戻ってきませんね....。迷子かしら?」


そう思っていると

ゴゴゴゴゴ....という地響きが鳴る。

鬼姫はすぐに警戒し始める。

地鳴りが近づいてくる。

そして現れたのは。


「たまっ!?」


そこにはゲル状になった鵺の姿があった。

鬼姫はその中にいる猫に気づいた。


「姫よ!実はの....」


「分かってます。とにかく急いで戻りましょう」


二人は急ぎ、家へと戻る。


家に着くなり、二人は薬草をすり潰し、混ぜ合わせ

薬を作る。


二人はご飯の事なんて忘れ

猫の治療に夢中になっていた。

そして、安息が訪れる。

その頃には深夜も深くなっていた。


「お、....終わったのお」


「えぇ、なんとか.....」


二人の前には気持ち良さそうに

寝ている猫がいる。


「ふぃ〜、疲労困憊じゃ」


「たま、お疲れ様。少し寝てていいですよ」


「そうする....」


そう言うと、鵺は目を閉じ

眠り始める。


どのくらい寝たかわからない時間だが

鵺は目を覚ました。


「ぬぇ.....」


「ブフォッ!?」


その間抜けな寝起きを聞いた鬼姫が

飲んでいたお茶を吹く。


「ゲホッゲホッ…。

 ....コホン。お、おはようございます。たま」


「おはよう....ふああぁ....。

 なんじゃ?ずっと起きておったのか?」


「いいえ、少し寝ましたよ」


鵺はハッと気付く。


「おい、猫はどうした!?」


その問に鬼姫は静かに鵺の後ろを指差す。

そこには元気になった猫の姿がある。


「おお!元気になったか。良かったのお」


鵺は猫を撫でる。

猫は気持ち良さそうだ。

白い毛並みに青色の目をした雄猫である。


「よし、今日からお前は十六夜じゃっ!」


と、鵺は勝手に猫に名前をつける。


「たま。この子を飼うつもりですか?」


と言う鬼姫の問に

鵺は首を縦に振る。

それを鬼姫は優しく叱り説く。


「たま、私達は万年生きれますが

 この子の命はあっという間ですよ。

 時間があまりにも違いすぎます

 一瞬で消えてしまう命は儚いものよ?

 その小さい生命を私達がおいそれと抱えるものではないです」


その言葉に、鵺は少し考える。

そして、口が動く。


「なら、こやつが完治するまで。

 そのくらいならいいじゃろ!?」


鵺の真っ直ぐな瞳に

鬼姫は参ったと降参する。


「はぁ....仕方ないですね。

 完治したら、山へ還すのですよ?」


その言葉を聞いて鵺は嬉しそうにすのであった。


その日から

鵺と猫は一緒にいる事が多く、

どんな場所にも、どんな事にも

一人と一匹は過ごして行った。


それから約2週間目。

猫を山へと還す。と鬼姫は言いだす。

それに反対する鵺。

しかし、鬼姫の言葉を思い出し、鵺は猫を見る。


「相分かった。行くぞ姫」


二人と一匹はただ静かに山道を歩く。

変わらない景色がそこにある。

そして、二人はあの山へと到着する。

猫は立ち止まる二人を見て、首を傾げる。

鵺は猫の頭を撫でながら言う。


「お別れじゃ。行くとよい」


その言葉に首を傾げる猫。


「十六夜、ウテとアテでは

 生きる時間が違いすぎるのじゃ。

 ウテはアテらとは違う生き方をするとよい」


その言葉を理解したのか、猫は山奥に去っていった。

それを只々黙って見送る鵺に

鬼姫は声を掛けようとする。


「たま....」


鵺はその声を遮るように言う。


「もう、帰ろうぞ」


それ以上、何も言えない鬼姫と

それ以上、何も言わない鵺。

二人は来た道を戻ってゆく。

何も言わず、只々静かな帰り道だ。

そんな中、不意にどこからか猫の苦しそうな鳴き声が

山に(こだま)する。


「今のはっ!?」


それを聞いた鵺は、振り返り

聞こえた方へと駆け出していった。


鵺は無我夢中で山の中を駆ける。

そして、行き着いた先には十六夜と側で倒れている猫が見える。

十六夜は目の前にいる何かを威嚇していた。

鵺はそいつを認識する。


「鬼か」


「あんな鬼、見たことないですよ」


鵺に追いついた鬼姫はそう言った。

鬼姫は続けて言う。


「あれはタタリです」


「そうか、それはいかんのう!」


鵺は走り出す。鬼姫も続いて走り出す。

タタリは大きくナタを振り上げる。

そのナタを見た鵺は、あの日の光景を思い出した。

そして、確信する。

あれはこいつの仕業だ。と。


ナタが振り下ろされる。

猫はそれを避け、タタリに噛みつく。

タタリには効いてないようだ。

タタリはその猫を身体から離すと

猫を地面に叩きつけて、ナタを振り上げる。

鵺は叫ぶ。


それは、あと少しという距離。

鵺と鬼姫の前には、消えた命がある。

タタリはナタを猫に刺し続ける。

猫の目は鵺をまっすぐ捉えている。


「やめろ....もう、やめるのじゃ....」


鵺の目には光はなく、ただ絶望し、

大粒の涙を流すだけである。

鬼姫はタタリの前に立ち、攻撃を仕掛ける。


「オイタが過ぎますよ」


が、タタリには効いていない。


「....え?」


タタリはニヤッとすると

鬼姫を吹き飛ばし、そのまま消えたのであった。

鵺は膝の力が抜け、

ガクンと地面に項垂れる。


「姫よ。アテは....アテは何も出来なかった。

 コヤツの為に、出来る事が、何もじゃ.....。

 姫よ、アテは悔しいぞ.....苦しいぞ.....」


鵺は力が上手く入らない手で

十六夜に触れる。

まだ、微かに温もりを感じる。


「すまぬのう....十六夜。

 アテはウテに何もしてやれなかった」


その後、二人は丁重に

その命を空へ、その骸を土へと還すのであった。


(あのタタリは、一体....?)


と、鬼姫は考える。

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