鬼の姫と些細な一日
物語は此処、九十九と呼ばれる村に住まう
一人の女性の話である。
この女性の名は九鬼 鬼姫。
人で有り、鬼である。
額には長い角が2本。小さい角が2本ある。
そしてもう一人。
ここに、小さな少女がいる。
少女の名は霊響。
鵺というあやかしである。
争いに飽いた二人は、ここに腰を落ち着け
平和に暮らしていた。
惰眠を貪っていた鵺がムクリと起き出して
不満を口にする。
「暇じゃ....」
そんな言葉に何の反応も示さない鬼姫。
それを見て苛立つ鵺。
今度は大きな声で言う。
「暇じゃ!!」
それでも鬼姫は何も反応を示さない。
鵺はダンッ!と立ち上がると
顔を真っ赤にして
涙を浮かべた顔で騒ぐ。
「姫よ!アテは暇なのじゃ!!
少しは反応を示すとか、構ってやるとかないのか!?」
その言葉に
一瞬だけ鬼姫は鵺の顔を見るが
直ぐに目を逸らす。
それを見た鵺は我慢の限界であった。
「かーーーーーまーーーーーええぇぇぇえーーーーーーーっ!!」
「!?」
鵺の身体がどんどん変わっていく。
この鵺は動物や昆虫を混ぜたあやかしである。
時には頭はライオンで体が蜘蛛なんてときもある。
今回は頭は鷲、体はライオン、手はカマキリ、羽はトンビ、尻尾は蛇だ。
流石に無視しすぎたか。と鬼姫は深く反省する。
幸いなのは
そこまで大きくない事だった。
「構ってくれなかった事を後悔するが良い!
ハイロングレンジ砲!!」
鷲の口が大きく開いたと思うと
光の玉が飛んで来る。
鬼姫はその攻撃を避ける
が、後ろの壁に穴が空いた。
「あっ.....」
鬼姫はプルプルと身体を震わせている。
そして何かが切れる音が聞こえたかと思うと
鋭い眼光で鵺を睨む。
「直すの....面倒なんですよ。
それを、…わかっていらっしゃる?」
恐怖に怯えた鵺は連続で撃ちまくる。
が、鬼姫はそれを素手で打ち消して行く。
「ひぃいっ....!」
「お仕置きです」
鬼姫は鵺に飛びかかる。
それは早すぎて何が起こったか分からないが
鬼姫が着地し、スッと立って一言
「キャストオフ」
そこには一糸纏わぬ鵺の姿が現れる。
その生まれたままの姿を見て
鬼姫はポツリと呟いた。
「全然成長してないのね....」
「こ、これからじゃ!
これからアテはないすばでーになるのじゃ!!」
ふと、鬼姫は思いつく
「たま....、貴女の力で胸だけ膨らませたら?」
「お、いい考えじゃ。どれ....」
すると鵺の胸は膨らんでいく。
それを見た鬼姫はまたポツリと呟く。
「ロリ巨乳.....バランスが悪いですね」
それを聞いた鵺の胸は
みるみる萎んでゆく。
鵺は悲しそうに部屋から出て行った。
それから数時間後。
服を着た鵺が部屋に戻ってくる。
鬼姫は横目で鵺を見ながら
お茶を飲んでいる。
沈黙がこの部屋を覆う。
鬼姫は考える。
どうしたら霊響が元気になるのか?と。
鵺は下を向いて黙っている。
ここは無理にでも話をして、気分を上げてもらうしかない。
と、鬼姫は口を開く。
「たま。そう気を落とさないで。
あなたの胸はいずれきっと、大きくなります。
まだ、あなたが産まれてから約500年でしょう?
イケますよ!!」
その言葉に反応したのか
鵺の身体は震えている。
鬼姫は言い続ける。
「あ、ぎゅ、牛乳。
牛乳がいいって聞いたことが....」
すると鵺は叫ぶ。
「うるさああーーーい!
もう蒸し返すな!!もう何も聞きとうないのじゃ!」
その叫びに、鬼姫は驚き
黙ることしか出来なかった。
鵺は疲れたかのように
ため息をつき、座る。
そして、また静かな時は流れていく。
この二人はこの山奥に住まい、
日々、その身朽ちるまでこうした時間を過ごしてゆく。
争いなんぞ、ない方がいい。
しかしそれも時と場合であるのは
この二人は知っている。
故にこの九十九で、些細な日常を噛み締めているのであった。