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小麦粉は手に入ったけど、使い道に困りました。

大量の小麦粉があれば、パンとかケーキを作り放題ですけど、保存場所がないと困りますよね。

 さて、小麦粉の材料になるかもしれない薪、外側の樹皮を見る分には、焦げ茶色っぽい側面からは、ただのどこにでもある木ぎれにしか見えない。

 でも、内側は真っ白という違和感しか感じない不思議なものだった。


 既に薪として活用出来るように乾燥している為か、ケリィさんが器用に樹皮と白い部分の境目にナイフを差し入れて、テコの原理で開いていく。

 すると、ペロリと皮を剥くようにして、すんなりと白い部分と樹皮が分かれる。

 その作業を何度か行っていくと、樹皮と白い部分に綺麗に別々になる。


 白い部分、これが小麦粉になるのか・・・・・・と若干は鑑定したぼく自身も疑問に思ってくるほど、奇妙な物体だ。

 手で握ったぐらいでは、別に小麦粉がくっつくわけではない。

 少し力を入れて両端を持って曲げてみると、簡単に折れて、折れた部分からこぼれた粉を手にとってみると、確かに小麦粉っぽいのは確かだ。


 日本の技術や文化レベルを一気に引き上げてしまうような特殊な物に関しては、あの銀髪の女性、恐らく女神から規制が入っているから、ここに呼び出すことは出来ない。

 この白い棒切れを大量に、業務用の攪拌機にでも突っ込んで混ぜてやれば、勝手に分解されて粉状になってくれそうだけど、そういったものは呼び出せないみたいだ。


 仕方なく、人力でどうにかするもの、すり鉢とすりこぎを呼びだして、すり鉢の中に適当な大きさに折った白い物を放り込んで、ゴリゴリと削っていく。

 見た目と折れた時の感触からして、結構力が必要になる作業になるかと思ったが、ちょっとした摩擦に弱いのか、すり鉢に押し当てられて少しでもすられると、簡単に崩れてくれた。


 手持ち無沙汰にしているケリィさんにも、すり鉢とすりこぎを渡して、ぼくと同じように作業をしてもらう事にした。

 すり終わって粉状になったものは、呼びだした手提げ部分のない紙袋に入れておく事にする。

 本当はかめとか壺があれば、それに入れれば良いと思ったのだが、ケリィさんに聞くと、水を入れる水瓶みずがめしかないそうだ。


 じゃあ、麦の粉とか生産してないのかというと、そういうわけでもなく、村の倉庫で備蓄してあって、それを一人一人に配給する制度を取っていて、一日分の配給量など小さな器一杯で十分だからと、保存用の瓶を用意していないそうだ。

 その配給される時は、粉になっている物ではなく、麦のままなので食べられない部分を削ると本当に少ない量になってしまうそうではあるが。


 ということから、紙袋に頑張って貰うことにしたってわけだ。

 ビニール袋でもいいのだけど、あれは土へと還りにくい物が多いから、紙で出来たものの方が良い。

 それに、お菓子を入れるのはビニールだと独特のビニール臭さが出たりして、あまり良くない事も多い。

 その点、紙だと若干の吸湿機能を持っているし、不快な匂いもつきにくい。


 ともあれ、ケリィさんの家に置いてあった薪を一通り片付けると、三十キログラムが入る粉袋が二個出来た。

 六十キロの小麦粉があれば、当面の飢えに関してはしのげるだろう。

 まあ、作ってしまったはいいが、これの隠し場所が問題となりそうだった。


 ケリィさんから聞く、この村の風習というか習慣だと、目を離した隙に家の中の物を取られるのは自己責任という訳の分からないものだ。

 さて、この小麦粉、いや小麦粉もどき?でも、どう見てもあの薄力粉と全く遜色がないのだから、小麦粉でいいだろう。


 ケリィさんも、こんな真っ白い麦の粉なんて、早々手に入るものじゃないと話している限り、これは買うところに持っていけば、売れるのではないのかと判断出来る。

 仮に貨幣経済があるのなら、税の取り立ても薬草でなくても、金貨なり銀貨などの貨幣で代価とする方法も可能なのではないか。


 それで賄うことが出来るのなら、小麦粉を隠すのは難しくても、金貨の数枚、銀貨の数枚だったら、腰に小さな革袋でもぶら下げて、中に入れて常に携帯すれば安心だ。

 そうと決まれば話は早い。


「じゃあ、ケリィさん。この出来上がった小麦粉を、どこか買い取ってくれる街にでも持っていって売ってしまおう。行商人がある程度定期的にやってくるんだから、他の街か何かはあるんだろう。薬草を税として納めることが出来なくても、これを売って得られた物で代用とか出来るんじゃないか。宝石でもお金でも何でも良いけど出来るだけ小さく常に携帯出来るようなものでさ」


「あの、街までどうやって行くのでしょうか。行商人さんは、しばらく来ませんので馬車に乗せてもらう事も出来ませんけど」


「えっ、そりゃまあ、森を歩いていけば良いんじゃないの。それとも道がわからない、とか?」


「道は馬車が通れるようにと開拓されていますので、通れますけど、そのテネストさんは強いのでしょうか?私はナイフで狩られた動物の解体は出来ますけど、森で獣や魔物に襲われて生き残る自信はありません」


 ここでいきなり壁にぶち当たったぞ。

 確かにあの女神も魔物やらドラゴンやらが蔓延るファンタジーの世界だとか言っていた。

 それに、ここ近辺の森にはゴブリンやオークなどの魔物も生息しているというのだ。


 ここで、どこぞのチート能力を与えられた勇者や英雄であれば、そんな魔物をバッタバッタと切り捨てて先へ進めるのだろうが、あいにくとぼくはただのお菓子作りが趣味の平凡な一般人だ。

 包丁は握れても、剣なんかの武器は握れない。


「えっと、それじゃあ、こういうのはどうだろう。一度ぼくは、この作ったばかりの小麦粉を持って村長さんに会う事にしよう。村に立ち寄った旅人ということにして、その村で最初に会って話をしたのがケリィさんだったから、しばらくの間、ケリィさんの家で厄介になりたい、と。で、何もせずに厄介になるのは悪いから、狩りのお手伝いや薬草採取のお手伝いをしたい、という事にすれば、悪い顔はされないんじゃないかな。


 小麦粉を献上するし、見ず知らずの旅人が労働力に加わってくれるなら、村としては助かるだろ。それに、旅人だったら、村人として数に含まれずに、税の対象からも外れるだろうから、村の負担が増える事もない」


 この世界について、何の常識も持っていないのだから、しばらく村でお世話になるというのは、悪い選択ではないはずだ。

 良くも悪くも、この村は色々と厳しいようだから、隙を見せずに利益を常に供出する者であれば、余所者に対しても多少は多めに見るだろう。

 少なくとも、村長達と村の利益になっている限りは。

 利益と損失を天秤に掛けて、利益に傾いていれば大丈夫なはずだ。


 それに言っては悪いが、村から切り捨てられるはずだった女、ケリィさんの所で厄介になるというなら、配給する物に気を配る必要もないだろう。

 ぼくの食べる分がないとか、仮にケリィさんが要求しても村が受け入れるはずがないし、逆にぼくが要求すれば出て行けとなるだけのはずだ。


 その点で考えれば、ぼくが立場の弱い家で世話になるというのは、村長にとってはどうでも良いことに映るはずだ。

 後は狩りについていって、自分で狩ったものに関しても、分け前や取り分の要求をしなければ問題も起きない。


 別にこの村で村長の座を奪うつもりもないし、必要もないんだから。

 あくまでも、この世界の常識を身につける為であって、森での生存技術を磨く為で、知り合ってしまったケリィさんが自活できるようにする手伝い、それだけなのだから。

 ぼくが村に与えられる利益は全て、ぼくがこの村で得られる情報と技術に対する授業料として割り切ればいいだけだ。


 それにまあ、最悪の事態になれば、別空間にあるキッチンへ転移すれば、ぼくの安全自体は確保されるし、生きるだけなら問題ない。

 食事に関しても、生成出来るのはお菓子だけだけど、お菓子の材料は必ずしもお菓子だけの材料ではないから、一般的な料理にも転用が出来る。

 うん、何の問題もないな。



いつもお読みいただいてありがとうございます。


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