お菓子を食べながら提案をしましょう
ふわふわエアインチョコぬー何とかさん、昔はCMとかやってよく見かけたものですが、あまり見なくなりましたね。
あれはあれで美味しい部類のお菓子なのですが。
ケリィの話を聞いて、問題点が浮き彫りになる。
どこの領地でもよくある話らしいのだが、領地を治めていた男爵が戦で討ち死にをして、それを息子が引き継ぐ。
戦の結果が負け戦であった為に、戦勝国に領地ではなく金銭を支払う必要があること。
男爵領も、その支払い額を明示されて支払い、そうなると領地内の財政が悪化する。
親の七光りで代替わりした子供が、今までと同じ暮らしをしたいと騒ぎ、家臣も自分の首が大切であり、領民の税を引き上げる事で対処しようとする。
今までの税率が四割だったのが、今回の年だけ九割にされたということだ。
そんなもの、支払える場所は限られてくるだろうと誰しも思うが、この年だけというお達しが来ていた事で、貯蓄や資産を切り崩して支払うことが出来た者が多かった。
ケリィのいる、このロッソ村でも村長やその取り巻き、行商人と付き合いが多かった村人など、ある程度蓄えのある者は、税を支払い、次の冬まではどうにかなりそうという見通しが立っていた。
ただ、ケリィのように何らかの理由で支払いが出来なかった者は、奴隷となるか、餓死するか、村の者に身売りするか、という選択しか残されていない。
それで、今回ケリィは命を絶つという選択をしようとしていたということだ。
ケリィ以外にも似たような境遇の人が居なかったのか、その人はどうしたのかと聞いてみると、行商人が来るまでは餓死せずに済む者は、行商人に奴隷として買われる道にすがり、そうでない者は村長に慈悲を乞い、その身を差し出して生き長らえる道を選んだという話だ。
一時的にでも、そういう手で養われるわけには行かないのかという提案は、何も知らないから言えることだと一笑に付されて終わる。
身を差し出すというのは、道具になるという意味であり、生まれたときから共に暮らしている者から死ぬまでずっと道具として生きることを決意する、そういう事だそうだ。
それでも、餓死する苦痛を恐れて、少しでも楽な道を選ぼうとして、その道を選ぶ人は多いという。
村内での身売りと、奴隷なら一緒だろう、なのに、奴隷になれるなら、奴隷になったというのが理解出来ない。
そこにも答えはあった。
奴隷になれば、買った人、主人の道具となる。
閉鎖された村であれば一生の間環境が変化する事は、まずない。
しかし、奴隷であれば、買ってくれた人によっては、恵まれた暮らしを出来る可能性もある。
場合によっては奴隷から解放されることもあると聞く。
つまり、村内の身売りがローリスクノーリターンなのに対して、奴隷落ちは、ハイリスクハイリターンということだろう。
随分と辛い現実を突きつけられているお話をケリィからされたぼくは、心底ぐったりした。
「要は、自分の力で食べて行ければケリィは生きる道を選ぶってことで良いんだよね」
重たい話に疲れたぼくは、気分を軽くするためにふんわりしっとりサクサクのエアインチョコを食べている。
市販品で昔はよく売られていたものだ。
「はむっ、もぐもぐ・・・・・・。これもまた、甘くてフワフワして美味しいですね。テネストさんのような魔法を使えれば、私も良かったんですけど」
ぼくが一人で食べようと口を開けると、凄く物欲しそうにしてくるので、よく食べる人だなとかは胸の内に留めつつ、彼女の分も渡してあげた。
「確かに、ぼくの魔法は自分だけが食べていくという事に関しては強いだろうね。でも、こんな事は誰でも出来ることじゃないんでしょ。すぐに人目に付いて、たちまちのうちに利用しようとする人に捕まるだろうね。そうなれば、ケリィの言う道具のような生活が待っているんじゃないかな」
そう、ぼくは単にお菓子を作ることが出来る、それぐらいしかない。
特別力が強いわけでもないし、誰かを傷つける魔法を使えるわけでもない。
権力を持つ者が兵士を差し向けて、ぼくを取り押さえようとすれば、ぼくは逃げることも抵抗することも出来ずに捕らえられるだけだ。
だから、選べる事が少なくて難しいんだ。
ここで、短絡的にぼくが彼女に対して小麦粉を家が埋まるぐらい渡せば、彼女は確かにある程度の期間、飢えをしのぐことができるだろう。
でも、その食料をどこで手に入れたと村人や領内を回る徴税官にでも問い詰められれば、最終的にぼくの事がばれる。
ばれた時に、ぼくがどこかに逃げていればあまり問題にもならないだろうが、彼女自身は尋問を受けて、とても良くない状況に追い込まれるだろう。
村全体で使える特産品を作る、というのも知識があれば出来ることだ。
それをやれば村全体が潤うし、それを彼女を中心として出来るようにすれば、彼女が身売りや奴隷になることはないかもしれない。
ただ、それも村に対する税が更に重くなるだけ、という見方も出来る。
九割なんていう馬鹿な重税を仕掛けてくるような領地なのだから、特産品が出来れば、その特産品に対する税は十割だ、とか言いかねない。
それでは、村の負担が増えるだけで彼女の生活の助けにはならない。
下手をすれば、余計な特産品などを生み出した者として迫害されることも目に見えてくる。
彼女から税の取り立ては森で取れる薬草だとは聞いている。
普通なら食べ物の代表格である麦とか米だろう。
そうならないのは、この村が辺境ともいうべき山奥にあることで、下手に開墾して畑を増やさせるよりも、その山で取れる薬草の方が遥かに有益だから、だそうだ。
その薬草は採取された後、洗って乾かした後、粉にして保管することが決まっている。
長期保管が効く物だから、蓄えるのも比較的容易で、税の対象になるものでは、割と楽な部類らしい。
それでも、それは働ける家族が大勢いて成り立つことで、女一人で生きるには重い税になる。
村から近い森の浅い部分では、あまり目的の薬草が採取出来ないのと、森の中ではゴブリンやオークなどの魔物が多数生息していることで、採取自体危険がつきものとなっている。
「やっぱり、私一人では生きていくのは無理みたいですね。こんな私のために色々と考えてくれてありがとうございます」
ぼくが黙ったまま考え込んでいた事で、何も生きる道は残されていない。
そのように彼女は思ってしまったみたいだ。
「少し村の中、村周辺を案内してくれないかな。もしかしたら、何か方法が見つかるかもしれない」
彼女の家の中で必死に考えてみても答えはまとまらなかった。
それなら、村の中、村の近くにヒントはないだろうかと考えに至ったわけだ。
ケリィは立ち上がって、村の中を案内してくれることになった。
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