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お菓子作りの方が英雄になるよりも大切なことだろう

ここまでが、序章です。

この後から、お菓子のお話が入ってきます。

「くだらない」


 銀髪の女性が提示した全ての例は、ぼくにとってはどうでもいいものだったから、そんな事が口をついて出た。

 そんな事を言われるとは思っていなかったのか、銀髪の女性は少し不機嫌な様子になった。


「くだらない、とは言ってくれますね。あなたが仮に私に轢かれなくても、世界で有名になれましたか?お金持ちになれましたか?世界中で一番に立つことは出来ましたか?出来ないでしょう。私は別の世界ではありますが、それらの望みを全て叶えられるのですよ。それは凄い事でしょう。そんなものになれれば嬉しいでしょう。


 あなたの生を一方的に終わらせたのは私の過ちではありますが、ここまで望みを叶えてもらえる機会なんてありませんよ。ああ、これを加えていなかったから満足しなかったのですね。不老不死の能力も付けてあげましょう。それなら、満足出来ますね」


 不老不死、それは人類の誰もが望むことだろう。

 過去の権力者達は、必死にそれを探し求めたというものだ。

 でも、永遠というのは、これほど恐ろしいものはない。


 不老不死なんて、祝福ではなく、呪いだ。

 というわけで、やはり、ぼくの望みはきちんと言葉で伝えないと理解は得られないようだ。


「じゃあ、今からぼくの言う望みを、叶えられる範囲で叶えてくれ。無理なものは無理と教えてくれれば随時修正した案を出す」


「ええ、最強の不老不死の英雄がご希望なのでしょう」


「まず、制限一切無しのお菓子生成能力をくれ。それと、お菓子を制作する為の最新設備が揃っているキッチンだな。これは業務用のパン焼き石窯もあると嬉しい。業務用の大型冷蔵庫も必要だな。火は火力の強いガスコンロと、温度調整が楽に出来る電熱系のクッキングヒーターもくれ。加熱水蒸気機能のあるオーブンレンジと、温度調整も可能なオーブントースターも必須だな。


 地球に存在している調理器具や調理機械を交換自由、設置上限無しのキッチンを作る能力だな。これは勿論、燃料制限なく無制限に使用出来るという事にしてくれ。それとお菓子のレシピ本に、お菓子の製造技術の本、お菓子の用語が揃った辞書は地球から無制限に取り寄せられるようにしてくれ。


 それと、お菓子を最初から作りたくなる事もあるだろうから、材料に困るのは勘弁願いたい。無制限のお菓子材料生成能力も欲しいな。麦から作って、白パンだけじゃなくて、黒パンを作りたくなる事もあるだろ。文明が低いなら砂糖だって手に入らない可能性が高そうだ。


 後は、生前の身体で再生してくれ。でも、自生している現地の食材を使ったお菓子を作りたくなることもあるだろうから、物を鑑定する能力は欲しい。別の世界だと水で当たったり微生物で病気になったり、お腹を壊して美味しくお菓子を食べられなくなるかもしれない。それは困るから、毒と病気に対する耐性は欲しい。


 後は、服をもう少し良くしてもらいたい。せめて上下に分かれているシャツとズボン、それにしっかりした靴、雨風をしのぐ為のマント、それと菓子作りの時に使う三角巾とエプロンだな。


 それに異世界に行くのだから、別世界の言語能力だな。これは知性のある全ての生物とコミュニケーションを取れるようにしてもらいたい。後は、水や食材、その他調理器具、何でも無限に出し入れ自由の袋か何かが欲しいな。食材を入れても腐らなくなるとかじゃないと困る。こんな所だな。


 それらを叶えてくれるなら、そのファンタジーな世界で構わない」


 銀髪の女性は、何を言われたのかとよくわからない様子で、再度聞き返してきた。


「英雄にならないのですか?」


「元の世界でも英雄などなれなかっただろうし、なる気もなかった。だから、なる必要がない。それなら、元の世界と同じように暮らせるか、より良く暮らせる事を望むだけだ」


 ぼくの願望に、若干の呆れと失望をにじませたような目をした銀髪の女性はため息をもらした。


「ご希望通りとまでは難しいですが、出来る範囲で叶えましょう。お菓子の材料、器材、完成品を自由に思いのままに生成出来るようにします。地球の最先端のキッチンは、専用の異空間を用意しますので、その中であれば自由にセッティング出来るようにします。その異空間内であれば、インターネットとやらを活用して、購入出来る物であれば何でも取り寄せられるようにしておきます。但し、それらの物を異空間から出す事は出来ないようにしておきます。


 身体は以前の物、服装は一般的な旅装品、身体能力は毒と病気の完全耐性に、お菓子関連の能力は世界を構成させている物の都合上、魔力を必要としますので、魔力の保有量は限界まで引き上げておきます。それと、全言語の理解と、無限収納、これでよろしいですね」


 概ね、ぼくの望みを果たしてくれそうだ。

 ただ、いくつか聞いておくことと、多少制限が加わったのだから、もう少し付属品を付けて貰う事にした。


「その異空間とやらにアクセスする方法と、インターネット利用はPC端末か何かを用意してくれるのか。後、折角異文化交流するのだから、ぼくのお菓子を楽しんでくれた同好の士とは、友達になって互いに益が生まれるようなリンク機能が欲しいな」


 今までの生活を考えれば、菓子作りをするコミュニティに入っており、そこでの情報交換や、作った菓子をアップして見せ合ったり、そういう交流を楽しめていた。

 それらが無くなるのなら、それに準じる何かがあれば、より以前と同様の生活を送れると思ったからだ。


 大体、異世界に行って英雄だの王様だの、そんな物に何故なりたい。

 平穏無事な暮らしに充実した趣味の時間を取る事の方が遥かに有意義だ。

 だから、ぼくは普段通りの日常をどこの世界であろうと、取り戻す、それだけだ。


「異空間へのアクセスは、入り口を頭に浮かべれば、そのまま瞬時に転移するようになっています。出るときは、同じように出口を思い浮かべれば、思い浮かぶ場所にどこにでも転移出来ます。異空間には、出現位置付近にノートPCを置いておくので、そちらをご利用下さい。燃料などは不要で無尽蔵に動きます。


 それと、同好の士との交流に役立つスキルですか。お菓子を媒体とした相互強化に、互いに意思疎通を出来るようにする、ということで良いでしょうか」


「ああ、それで構わない。じゃあ、とっとと送ってくれ」


 そうして、銀髪の女性とのやり取りを終えたぼくは、異世界へと送られた。



いつもお読みいただき、ありがとうございます。


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