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よくある別世界の謝罪

3話まで、序章じみたものとなりますので、しばらくお付き合いください。

異世界に移動するのは4話からとなります。

「本当に申し訳ありませんでした!!」


 意識が回復した途端に聞こえた第一声が、そんな声だった。

 こちらはあぐらに近い状態で座り込んでいて、声の主は頭を深く下げていて顔は見えなかった。

 声の主は、銀色の長い髪が地面につきそうなほどに垂れていて、服装はどことなくローマ風というか、白っぽい布を身体に巻き付けてるだけのような格好だった。


 どうも意識が落ちる前の状況を認識するのに時間がかかった。

 コンビニの帰り道、幹線道路の横断歩道を渡っていて、大型トラックとか走っていない事を確かめたのは間違いなくて、だけど何かに撥ねられた。

 そして、手に持っていたコンビニ袋は放物線を描き・・・・・・。


「ぼくのラム酒とバニラエッセンスはどうなったんだ!」


 わざわざ夜中に買いに出かけて、様々なコンビニを渡り歩いて手に入れた物の行く末はどうなったんだ。

 その先の映像も記憶も持っていない。

 きっと謝罪の主なら知っているはずだ。


「へっ?何のことでしょうか」


 頭を下げていた主は、ぼくの質問の意味を理解しかねたのか、とぼけたような調子だった。

 銀髪の頭が持ち上がり、見えてきた顔立ちは整っていて、顎の細さや顔の造詣に、身体の線からして、女性のようだった。


「いや、ぼくは横断歩道を渡っていて、その途中で何か黒い大きな物に横から体当たりされたかのような衝撃を受けて気を失ったみたいなんだ。それで、その後にどうなったのか知りたいだけだ。ぼくが意識を取り戻して、謝っていたっていうことは、何か知っているんだろ」


「その黒くて大きな物というのは、私が御者をしていた馬車です。たまたま教習中のスレイプニルの気性が荒かったせいで、暴走させてしまい申し訳ありませんでした」


 どうやら、この女性が運転していた馬車によって、ぼくは撥ねられたらしい。

 それで恐らくはどこかに運ばれて治療を受けたか何かされたってところだろう。


「いやまあ、過ぎた事をどうこう言っても仕方ないので、それは置いておこう。それでぼくが持っていたコンビニ袋の中身はどうなったのか、教えてほしい」


 コンビニ袋?と、クエスチョンマークでも浮かぶような、よく理解していないという表情で、女性は首を傾げている。


「じゃあ、聞き方を変えて、ぼくが持っていた持ち物がどうなったのかを教えて欲しい。それに、今着ている服も、何か違う物に取り替えられているし、着ていた服もどうなったのか知りたい」


 そう、ぼくの服も異なるものになっていた。

 下着もなく、単純な構造の白い貫頭衣だけを着せられていた。


「ありません」


「えっと、それって実は強盗とかそういう話で、身代金要求とか?でも、それなら謝るのはおかしいか。もしくは、あなたも被害者だったとか?」


 女性が、何もぼくの持ち物はない、と言い切った所に驚きしかなかった。

 身ぐるみを剥がされて、粗末な服を着せられている状況の理解が出来なかった。

 まあ、奪われたのなら、返して欲しいだけだ。


 しかし、身代金を求められても、両親も普通の家庭だし、金持ちというわけでもない。

 下手をしたら、ぼくに保険金をかけて、保険金が下りる方法で死亡させた方が金額が大きい気もする。

 もちろんそんな提案はするつもりはない。


 ふと、周囲を見る余裕が出てきて気が付いた。

 ここは、何だ、ということ。

 どこだ、ではない。


 床は白、空は青、平らな白が延々とどこまでも続いている。

 空の青も、色の変化も見られずに、どこまでも同じ青。

 それ以外に何もない、のっぺりとした空間があるだけだ。

 まるで作り物の世界だった。


「ああ、そうか。死後の世界とか、そういうオチか。死ぬにしても、もうちょっとタイミングがあるだろうに。作りかけの中途半端で終わるなんて、死んでも死にきれないぞ。普通に悪霊として化けて出そうだ」


「い、いえ、その、結果はそうなのですが、その原因については完全に私のミスなので、きちんと保障をしなくてはいけない規則となっています。ですので、何か望みがあれば、出来る範囲で叶えます」


 ぼくが強引に納得しようとしているところで、女性の方から望みをかなえると言ってくれた。


「じゃあ、ぶつからなかった事にしてくれるか。ぼくは、あそこでぶつからなかったら、家に戻ってアイスクリーム液にラム酒とバニラエッセンスを混ぜて、冷凍庫にしまっていたはずなんだ」


 そう、趣味のお菓子作りの最中に死ぬなど、それは嫌だった。

 冷凍庫で冷やして固めて、それを食べた後でなら、この死んだという状態に戻されても、受け入れてやってもいい。


「残念ながら、もうあなたの身体は火葬されてしまい、戻れません。ですので、別の身体で再構成されるのですが、それで良いでしょうか」


「いや、意味がわからないから、詳しく説明してほしい」


「はい、それではご説明します。別の身体で再構成されるというのは、誰かのお腹に入り赤ん坊として転生するのと、死んだときの状態と同じ形に再構成させるということです」


「なんだ、元の身体に戻せるんじゃないか。じゃあ、それでいいよ」


「ですが、それですと、元の身体になって、どうやって生活をされるのでしょうか。既に火葬されたあなたそっくりの人が、あなたに戻るのは難しいかと思われます。それとも、ご家族や知人友人、もしくは国などが死亡後の人を簡単に受け入れてくれるのでしょうか」


 ある日突然、家族が事故に遭って亡くなって、その死体を警察なり何なりで遺族が確認して、それが合っているということになる。

 それでその後、葬式をされて火葬される。

 火葬された後に、生前とそっくりの人が現れて、死んでないよ生きているよと言って、受け入れられるか。


 不幸な未来しか見えてこない。

 誰も救われないだろう。


「じゃあ、日本限定で性別も男のままで生まれ変わる事は出来るか」


「ええ、可能ですが、その際にはあなたの記憶や経験は全て消去されてからの転生となります」


「それはぼくという存在が死亡したのと変わりがないだろ。つまり、最初から望みなんて叶えるつもりはなかった。そういうことだろ」


「いえいえ、そうではありません。元々いらっしゃった世界に、そのまま戻す程には私の力が強くないのです。私が影響を強く与えられる世界であれば、ある程度は、あなたの望みを叶える形に出来るのです」


 全く見たことも聞いたこともない世界に、家族も知人も友人も何もいない世界に、そんな所に行かないといけないのか。

 ぼくは目の前に立っている銀髪の女性を殴ってやりたくなったが、女性に限らず、誰に対しても暴力に働きかける事は間違いだから自制した。


「先に聞きたい。一番強く影響を与えられる世界とやらは、ぼくの生きてきた地球と同じような世界なのか。それとも、空気もないような月とか、燃えさかる太陽みたいな世界なのか」


「文明レベルは、少なくとも科学万能の世界ではありません。ですが、自然環境は概ね地球と同じようなものです。ただ、魔力が豊富な世界なので、魔法が発達しています。それに、人間以外にも知性を持つ別の種族も生活しています」


「ははは、まるで剣と魔法のファンタジー世界だな。たくさんの種族が闊歩していて、それぞれ独自の文化を発展させていて、世界には怪物や竜なんかがひしめいているんだろうな」


「ええ、大体そのように解釈していただいて間違いではありません。でも、そこで有利な条件を持って生活出来るように様々な特典を付けることは出来ます」


「へえ、例えばどんなものがあるんだ」


「大陸で最高の国家で、最大の権威を持つ家の長男として生まれる事も出来ますし、強靱な肉体に最高の武器を持って英雄になることも出来ます。大金持ちになる事だって出来ます。富と権力と力の全てを持つ存在として世界に君臨する事も出来ます。あなたの望むがままに、何でも叶えられますよ。きっとご満足いただけます」


 銀髪の女性は胸を張って、自信ありげに説明をした。

 しかし、例であげられたどれもが、はあ、そうですか、とばかりに、興味を惹かないものばかりだった。

 権力者の息子とか、色んな事に縛られて自由が無さそうですよね。


 最強の英雄とか、いずれは別の最強に討たれるのが相場です。

 自分に何の才能もなくお金持ちになっても、没落が関の山です。

 富と権力と力を全て持っていても、きっと周囲とは遠ざかって寂しい一生を終えるのでしょう。

 寄りついてくるのは皆、その立場やらを目的にした者ばかりで。




いつもお読みいただきありがとうございます。


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