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99.魔王領――59

「――あ、そうだ。コーネリア、これお願いしていい?」

「あー、地図の件ね。確かに受け取ったわ」


 ポケットに入れていたディアフィス聖国の地図をコーネリアに手渡す。

 ……これが返ってきたら、勉強の日々か。

 そう考えると微妙に重くなる心から目を逸らしつつ、またティスと威圧感を放ちながら向かい合っているノエルに近づく。


「え、えっと……二人とも、何を話してるの?」

「ゆ、ユウキっ?」


 もう少し何気なく話しかけるつもりだったけど失敗。

 僕に気付くと、ノエルは何故か動揺した様子を見せる。ついでに謎の威圧感も消えた。

 それにしてもこの反応、何を話してたんだろう?

 首を傾げていると、こちらも威圧感を霧散させたティスが声をかけてくる。


「そういえばユウキ、ノエルに鎖はつけないの?」

「鎖? ……ああ、うん。理由は色々あるけど、もう大丈夫かなって」

「色々、ねぇ」


 思い出されるのは今日の夕食前、雪原での一幕。

 あれで僕が倒れた時に逃げたりトドメ刺しに来たりするような素振りがあればまた別だったけど、実際は……。

 と、余計な事まで思い出しそうになった思考を意識して引き戻す。

 意味ありげな目を向けてくるティスに特に何も考えていないようなポーカーフェイスで対抗しつつ別の話題を探す。

 そこで目に入ったのは、眷属数人を連れ作業着に着替えて出て行くラルス(ラカルスマーグ)の後ろ姿。


「ところで、僕は建築にそこまで詳しくないんだけどさ。ラルスたちが建ててる新しい屋敷って、いつ頃完成するんだろうね?」

「新しい屋敷っていうと……確か、もう骨組みは出来てたよね」

「そもそも建築の知識がある人なんてこの結界にいるのかしら? 可能性があってもコーネリアと一緒に来たお客さんたちくらい?」

「ラルスはそういう経験積んでるっぽいとして、確かオリクとヘドリックの家が大工をしてたって聞いた事がある。実際さっき出て行った中に二人とも居たし」

「へぇ……。まあ、眷属の中にもそういうスキル持ってる人が多かったら何かと便利そうよね。もう慣れちゃったけど、それでも何かと不便な事はあるし」

「悪かったね。まぁ、間に合わせの素人仕事だから大目に見てよ。……一回作ったっきりでそのままなのは怠慢かもだけどさ」

「あれ、その言い方だとこの屋敷ってユウキが建てたの?」


 ――そんな感じで雑談を続ける事しばらく。

 皆も寝静まり、普段なら魔王たちで訓練に励む時間になったけど……。


「あー、済みません。ちょっと作業の方に専念したいんで、今日の訓練はお休みさせてもらいますねー」

「了解。別に訓練っていっても強制参加とかじゃないし、気にしなくていいよ」


 申し訳なさそうに両手を合わせるラルスにそう応える。

 元々、この訓練だって個人で勝手にしてた事だし。

 確かに最近はラルスの能力で生み出す幻影が軸になってたけど、それもタイミングが合ったから便乗させてもらってただけで。


「ちなみに作業は順調?」

「良い感じですねー。眷属の皆さんも手伝ってくれてますし。割と大きめに作る予定ですけど、この分なら一週間もあれば形は整うかと」


 ふむ……一週間か。

 これは日本での記憶だけど、新しいマンションとか一軒家が建つ時の工事期間なんかと比べてみるとだいぶ速い気がする。

 流石にマンション程とはいかないけど、今建ててる屋敷なんて間違いなく一軒家三つ分以上のサイズはあるし。

 その差は何かっていうと、やっぱり魔法の便利さって事になるんだろうか。


「そうだ、じゃあ今夜は僕も手伝おうか? 少なくとも単純作業なら何人力かにはなると思うよ」

「え、良いんですか?」

「うん。新しい屋敷、僕も楽しみだしさ」

「そう言ってもらえるとオレとしても有り難いです。じゃあ……お願いしちゃいましょうかね」

「……マスターが協力するなら……ボクも……」

「…………」

「……じゃあ、わたしも」


 ラルスにそう持ちかけると、近くで話を聞いていたリエナ(ネシェーリエン)が進み出た。

 その後に無言のバルー(バルログ)が続き、少し離れたところにいたフィリ(ナジアンフィリ)まで近づいてくる。

 ……意外な面子だな。

 口数が少ないというか、普段から割と何を考えているのか分からないところのある顔ぶれがこぞって集まって来た感じがする。

 みんな実は新しい屋敷に興味津々だったんだろうか。


「うわぉ、流石は大魔王のカリスマってとこですかねー? 何にせよ人手が多いのは助かるんで、もちろん皆さん大歓迎ですよー」

「ふぅん、魔王らしからぬ共同作業だね。面白そうじゃないか」

「って、セレンまでそっちに行ったら残るのって私とランカだけ!?」

「……そうなりますわね」

「……私たちも手伝おっか」

「そのような理由で流されるのは好きではありませんが……ティスが望むのでしたら」


 まさに成り行きでと言うべきか、いつの間にか魔王たち全員でラルスの建築を手伝う流れになっていた。

 一人一人が下手な軍などは相手にもしない力を持つ魔王が八人、不慣れな作業ながらも総力を上げた結果……。

 一晩で一気に新しい屋敷が完成。勢い余ってコーネリアたち客人用の別館まで出来てしまった。

 明日は眷属の皆に協力してもらって家具の類でも移すとするか。


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