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92.魔王領――52

「――ですので、リジムニアについては……」

「ルーフィル家のランディはこちら側の人間だ。よって……」

「ならば、エザグ侯爵領は……」


 ……?

 雪像(クリフ)を介したコーネリアとガリアルさんの話を聞きながら首を傾げる。

 少しくらい戦術的な考え方とか知識を得られればいいなーくらいの気持ちで会話を聞かせてもらってるけど、会話が頭の中で文章にならない。

 とりあえず、二人ともディアフィス内部に動かせる味方がいるって事までは理解できた。

 少なくともコーネリアの様子を見る分には話は順調に進んでいるっぽい。


 ちなみにノエルは繋いでいる氷鎖を伸ばしていつもより少し離れてもらったうえで、間に音を遮る氷壁を設置している。

 ここからだと用意した椅子に座って持参した本を読んでいるのが見える。


 他の動きとしては早速セレンに使い魔の鳥を飛ばして偵察してもらってるのと、ランカ(ランカリデス)がゴドウィン・ヒルダを連れて情報収集。

 後は第三勢力云々関係ないけどラルス(ラカルスマーグ)が新しい屋敷を建ててくれてる最中。

 それ以外は……今のところ特に無いな。

 コーネリアたちから何か指示があれば動けるようにしておく程度だ。

 後で帝王学というかコーネリアからラミスに現状の解説をするとき僕も同席させてもらえるらしいけど、それはもう少し先の話だし。


「――では、現状はそのように」

「ええ。また何かありましたらご連絡くださいな」


 そんな考え事をしているうちにコーネリアたちの話は終わっていたらしい。

 何度見ても年上とは思えない少女は、肩の力を抜くと大きく伸びをする。


「はー……あのガリアルって男、随分なやり手ね。ついていくので精一杯だわ」

「ああ、やっぱり厄介な人なんだ」

「実直な人なのも確かだけどね。少なくとも今は余計な腹の探り合いが無いから助かるわ」


 ごく自然な流れでアーサーに肩を揉ませながら、砕けた口調に戻ったコーネリアがこちらに視線を向ける。


「それで? 話の内容はどれくらい分かった?」

「さっぱり。二人ともディアフィスの内側に動かせる仲間がいるって事くらいかな」

「まぁアンタは事前情報も何も無しで聞いてたんだし、無理もないか。ところで確認しておくけど、ディアフィスの地図は覚えてる?」

「いや、暗記とまではいかないな」

「論外ね」

「うっ」


 ばっさり斬られた。

 思わず呻くと、コーネリアは諭すような口調で説明を続ける。


「今まで通りにするんならそれでもいいけれど。今回みたいな話の内容についてくるなら最低でもディアフィスとその内部の勢力図を頭に叩き込んでおくのは前提よ」

「勉強か……」

「嫌なら降りればいいだけじゃない。そうじゃないなら……そうね。後でディアフィスの地図を持ってきなさい。貴族の勢力分布とか、足りない情報は書き足しといてあげる」

「ありがとう。手間をかけるね」

「協力関係だし、それくらいはするわ」


 なんだか日本に居た頃の先生を思い出させるコーネリアに頭を下げる。

 勉強は好きじゃないとか言ってられる状況じゃないしな……はぁ。

 こういう時、睡眠を必要としない徹夜上等な魔王の身はありがたいけどツラい。

 使命感と気分の重さが入り混じった複雑な思いを抱えつつその場を離れる。


「……あ、ユウキ。話は終わった?」

「うん、お待たせ」


 音を遮っていた氷壁を消すと、ノエルが読んでいた本から顔を上げた。

 夕飯にはまだ時間がある。

 これからどう過ごすか……確かユリアとテオは勉強中だったはず。様子でも見に行くかな?


「ところで、ここの皆は普段どんな風に過ごしてるの?」

「普段は……ノエルも感じてると思うけど、訓練してる事が多いかな。正直最近は魔法使ってたらテニスとかのスポーツも訓練と見分けつかないし、もう訓練って扱いでいいか」

「テニスって……あのラケットでボールを打つ遊び?」

「そう、それ。ノエルも知ってたんだ?」

「うん。むしろボクからすればユウキも知ってたんだって感じだよ。改めて考えればボクらの出身は世界からして違うんだし」


 言われてみればそうだ。

 実際は似たような概念があるってだけで細かいところは違うかもしれないな。


「ところで魔法使ってたらって……テニスに魔法なんて、どう使うのさ?」

「例えば僕だったら打球に氷の竜を纏わせたり、ダミーのボールで攪乱したりって感じかな」

「えー? それってどうなの?」

「……どうなんだろうね?」


 ノリでやってた事だけど、改めて突っ込まれると色々分からなくなってくる。

 まぁ普通のテニスと区別はできてるし、楽しかったらいいか!

 ……たぶん。


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