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91.魔王領――51

「――まずは話を聞きましょうか」


 場所は変わっていつもの会議室。

 眉間にしわを寄せたティスを前に正座しながらも、侵入者……セレンこと空統べる零王(セレンペルーシュ)は余裕のある笑みを崩さない。


 ちなみに今部屋に居る他の面子はリエナ、ノエル、アベル、そしてアーサーとコーネリアの五人だ。

 というかアーサーとコーネリアって本当にいつも一緒にいるな。

 コーネリアによれば別に僕らが信用されてないってわけじゃないみたいだけど……まぁ、それは置いておくとして。


「うーん、そうだね。まずはボクの能力から話すとしようか」

「……」


 え、最初の内容がそれ?

 少し面食らったけど、ティスの反応の方が気になった。

 確かセレンは僕と合流する前のティスと一緒にいた魔王の一人だったはずだけど……ティスも能力については知らないのかな?


「ボクの能力は、簡単に言えば不可能を可能にするってところかな」


 ……。なんだかまた妙な能力が出てきたな。

 ただ、別に万能ってわけじゃないと言い訳してセレンは説明を続ける。


「この能力が適応されるのは……目先の事だけ、ってところかな? 見つけられないものを見つける、侵入できないところに入り込む、絶対避けられない攻撃を避ける……そんなところ」

「って事は、つまり……」

「そう。大体クロアゼル――いや、ユウキの思ってる通りかな。この能力でボクが侵入できたって事は、逆に結界の効果が証明されたようなものだから誇っていいと思うよ」

「それはどうも」


 つまり、最初の奇襲にしても避けられない攻撃だからこそ躱されたって解釈すればいいのか。

 謎かけみたいだな。ややこしい。


「あと弱点を言うとすれば、元から可能な事に対しては無意味なんだよね」

「……?」

「要するに反応も出来ないような速度の攻撃なら能力が発動して凌げるけど、そうじゃなかったら自分の技術だけでなんとかしないといけないって事。例えば剣で斬りかかられた場合なんかは集中力が切れて判断を誤ったら普通にやられちゃうわけ」

「へぇ……」


 さっき戦った時にやたら動きが洗練されてたのはそういう理由があったのか。

 一人納得していると、セレンは更に言葉を続ける。


「それで、ボクがここに来た目的はキミたちの傘下に入れてほしいって事なんだけど。今こうして能力のタネまで喋ったのは、前金というか……誠意みたいなものだね」

「そういう事なら歓迎するよ。よろしく、セレン。さっきは悪かったね」

「え? ……ああ、うん。さっきの事なら気にしてないよ。こちらこそ、これからよろしく」


 元々ティスに協力していた魔王だっていうなら信用しても大丈夫だろう。

 戦力は大いに越したことは無いし、拒む理由なんてあるはずもない。

 そう思って答えたんだけど……あれ、何かおかしな事言ったかな?

 セレンが一瞬見せた戸惑うような反応に内心で首をかしげる。

 うーん……後でコーネリアにでも聞いてみるか。


「あ、折角だしここで聞いておきたいんだけどさ」

「なに、ユウキ?」


 セレンについての話が一段落したところで、その前に考えていた事を思い出す。

 ひとまずセレンには僕らの現状とディアフィスの第三勢力について簡単に説明して、と。


「魔王って魔獣をある程度だけど従えられるじゃん? あれで鳥とか、そういうスパイに向いてるのを誰か操れない?」

「第三勢力を探し出すのに使おうってわけね。ところでユウキは何を操れるの?」

「狼。ハンティング的な追跡には向いてそうだけど、元から全貌が見えない相手だとちょっとね」

「そういう事なら良いタイミングだったね。ボクはちょうど鳥を操れるよ」


 ティスと相談しているとセレンが手を上げた。

 また、聞くところによるとランカ(ランカリデス)は花の声を聞く事ができるらしい。

 セレンとは別のアプローチで良い情報が得られるかもしれない。

 ……と、コーネリアが口を開く。


「ところでユウキ、ディアフィスの外にいるサグリフ王朝の元家臣ともある程度の連絡は取ってるのよね?」

「まぁ、事前に顔合わせくらいは」

「じゃあそいつらに相談してみたら? ああいう連中って国の中に幾らか手勢を残しているものだし」

「分かった。そっちも当たってみる」


 第三勢力は中々頭が痛い問題だったけど、解決の糸口が見えてきたな。

 これからの動きについて色々と考えを巡らせつつ、その場は解散となった。


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