9.廃墟――2
「えーっと……」
「ああ、良い感じだぜ!」
氷鏡に映して自分の姿を確認する。
そこに居たのは……マタギ? 絵本の中くらいでしか見たことがないような、獣皮を纏った姿。
グっと親指を立てるシェリルの隣で、裁縫を担当したゴドウィンも頷いている。
まあ……正体を隠したいことを考えると、これはかなり成功してるし。
怪しい外見ではあるけど、田舎者設定で押し通せそうではある。確かに良い出来かもしれない。
「あ、ところで少し考えてたんだけどさ」
「なんだ?」
「外に誰か……二人くらい連れて行きたいと思って。折角の機会だし、君らの中にも直接外を体験したのがいた方が良いだろ?」
「言われてみればそうだな」
「纏め役のレン、レミナと家事の要なシェリルは留守番として……」
「えー!?」
「諦めなさい、妥当な判断です」
「シェリルって裁縫は得意じゃないから、一応ゴドウィンにも残ってもらおうかな」
「……分かっていましたとも」
「でもやっぱり残念だろー?」
「否定はしません」
「悪いね。この埋め合わせはまたするから」
そんな感じで皆にも考えを伝える。
少しの相談の結果、一緒に行くことになったのはトゥリナとシェリル。
――ちょっと待った。
「シェリルは留守番って言ったよね?」
「平気。家事ならシェリルがいなくても私たちでなんとか出来るから」
「そ、そうは言ってもレミナ……」
「――ねぇ知ってる?」
「え?」
「ここで起きる厄介事の原因の半分以上はシェリルなのよ」
「なん……だと……」
って、それは別の意味で拙いんじゃないだろうか。
「心配しなくても、ユウキなら対処できるレベルだと思うけど」
「うーん……」
「あの……ダメ、でしょうか?」
急に追加された情報を受けて迷っていると、困ったように首を傾げたのはトゥリナ。
同行者の希望なら仕方ないか。
「分かった。じゃあ一緒に行くメンバーはトゥリナとシェリルってことで」
「ありがとうございます」
「やったぁ!」
そうしてメンバーが決まったところで、改めて二人の分の荷物も準備する。
とはいっても、彼女らには僕みたいな偽装はほとんど必要ないし……支度はすぐに終わった。
二人を連れ、何か月かぶりに結界の外へ。
道中に未知の危険が無いか確認しつつ、外からも結界の調整。
僕も成長した分、強度や隠蔽性能を高めておいた。
正直、この状態でも不安な要素を考えるとキリがないけど……。
「そう何度も振り返ってんじゃねーって。出来ることはしたんだろ?」
「まあ、そうなんだけど……あ、荷車は僕が引くよ」
熊や鹿の肉を山積みにした荷車を、野生児っぽいにせよ少女が引いてたら怪しいだろう。
元から狩人のテーマが正体不明とはいえ、注目は集めない方が良いのは変わらない。
別にシェリルならそれくらい苦にもならないってことは分かってるけど、心情的にも微妙だし。
邪魔な樹木や猛獣は魔力感知が効く範囲に入った端から処理していき、若干遠回り気味だけど迷うこともなく僕が召喚された町の方向を目指す。
隠蔽処理もきちんとしてるし、調べられれば何かあったことくらいはバレるだろうけど、それを手がかりに結界を探知されるようなことは無い。
「ま……魔法」
「牛ー」
「それもう言ったよ?」
「あ、そう? じゃあウニ」
「ウニってなんだ?」
「あー、シェリルたちは知らなかったか――っと」
暇潰しにしりとりをしつつ森を抜けた。
かつて町があったところに近づくに連れて、自然と口数が少なくなっていく。
辿り着いたそこは、もう町の形をしていなかった。
勇者に破壊された上に僕が色々と持って行った後、かろうじて残っていた建物なんかも朽ちて土と雪に埋もれている。
「……先、行こうぜ」
「……うん」
無意識に立ち止まっていたらしい。
シェリルに促され、僕は感知できた町らしい反応に向けて歩みを進めた。




