87.魔王領――48
作る屋敷の大まかな案は既にある程度出来上がっていると言って出て行ったラルスを見送り、改めてユリアたちのいる医務室へ向かう。
部屋に入ると、目を覚ましたテオもちょうど食事を終えたところだった。
一度空いた皿を下げてから改めて医務室に戻る。
「戻ったよー」
「ん……お皿ありがと。事情はもう大体話した後よ」
「そうか。えっと……じゃあそっちも名前はテオでいいのかな?」
「ええ。――ああ、これがさっき話してたユウキね」
「宜しく」
「よろしく、お願いします」
カミラの紹介に会釈をすると、テオも少しぎこちない様子ながらぺこりと頭を下げる。
まぁ、顔合わせはこれくらいでいいか。
問題はこれからこの子たちをどうするか。いや、独り立ちできるようになるまで面倒を見るのは僕としては決定事項なんだけど。
「ところでカミラ、テオの怪我の調子はどう?」
「身体の機能って意味ならもう問題ないはずよ……。まだ少し跡が残ってるところはあるけど……そっちも時間をかければ消せると思う」
「それは良かった」
姉弟についてカミラと話しながら、並行して思考を進める。
僕の行動指針からすれば最初のカミラたちと同じように一人でも生き抜ける力をつけるよう訓練するところだけど……二人は直前の境遇があるからな。そういう事に関わるのは酷かもしれない。
最初は厳しくても乗り越えてみろ的なのも答えの一つではあると思う。
ただ、僕にそれが出来るかっていうと……うーん……。
「――っていうか……今晩ゆっくり休めば医務室も出られるんじゃない……? ここで預かるんなら部屋も用意してあげないとね……」
「そっちはまだ空き部屋があったはず……あっ」
新しく迎え入れた面子と部屋の数って考えたところで、ふと思い出した事がある。
これは……あれ、割と拙いような気が。
「なに……?」
「コーネリアと一緒に来た人たちってそれなりに居たと思うけど……部屋、足りた?」
「足りたと思う……?」
恐る恐る尋ねてみると、返ってきたのは呆れたような視線。
え、今あの人たちどうしてるの? 見かけなかったけど野宿?
これは急いでノエルに用意したみたいな別館でも用意した方がいいのかもしれないな……そんな考えを巡らせていると、カミラは更に言葉を続ける。
「今は私たち眷属が相部屋になって部屋を空けて、そこに入ってもらってるわ……お客さんたちの部屋は西側に詰まってる形ね」
「あー……不便をかけるね」
「別に平気よ。まぁ、揉める事もあるかもしれないけど……何ならこれから相部屋を普通にしたって不満は出ないんじゃないかしら……」
「そんなもん……かな?」
「ちなみにユウキたち魔王の部屋はこれまで通りね……。そこは余裕あったからそのままにしておいたわ」
「了解」
もしかしてラルスが新しい屋敷を建てるとか言ってたのって、この辺の事情もあっての事だったのかな?
というか睡眠を必要としない魔王組からすれば、僕らの部屋こそ適当に圧縮してくれてよかったのに。
「じゃ、ユリアたちの部屋はまた用意しておくとして。屋敷の案内も明日まとめて済ませた方がいいかな」
「そうね……今日はもう遅いし。私ももうすぐ寝るつもり……」
「……カミラは僕らと違って睡眠は必要なんだから。早めに寝た方がいいと思うよ」
カミラのもうすぐ寝るが全然アテにならないのは前からだ。
普段の眠そうというか気怠げな様子も睡眠不足が原因じゃないかとも思う。
一応忠告はしたけど、今日もまた夜更かししてるんだろうな……。
カミラはともかくユリアたちは眠そうな様子をしていたので医務室を出る。
「ノエルも今日は休む? まだ起きてたいって言うなら付き合ってもいいけど」
「……別に、やる事もないし。どっちでもいいよ」
「あ、そういえば寝具とかは普通のを用意しないとな……」
家は氷で作れても、ベッドまでそれじゃ硬過ぎる。
雪なら柔らかくできるけど体温で溶けるし、何よりノエルが凍え死にそうだ。
倉庫に向かってみるも、寝具は全滅。
そりゃそうか。ベッドなんてかさばるもの、そう都合よく余らせているのも考えてみればちょっとバカっぽい。
こうなったら他を当たるか……。
「ここは?」
「僕の部屋。ま、考え事したい時とかダラけたい時しか使ってないんだけどね」
「ユウキの……」
きょろきょろと部屋を見回すノエルを横目に家具を固定している氷を解き、ベッドを部屋から運び出す。
「え、もしかして……」
「とりあえず今日はこれを使って。最近は使ってなかったし、たぶん大丈夫だと思う」
「そ、そうなんだ」
大丈夫ってのもどういう表現なのかと思うけど、深くは考えない事にする。
一応毛布の類はそれなりに余ってたし、今夜のうちに適当な木を切って新しくそれっぽいのを作ればいいか。




